表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣で支える小さな影  作者: 柳
10/71

友達とは。

 

 クラスに小太りの男子がひとりいる。

 接点は今までに一度もないが、僕と同じく彼も日陰者だった。

 スポットライトの当たる表舞台に立つことは許されず、世界の外れが彼の居場所だった。脇役にすらなれない補欠組。そんな彼に魅力などあるわけがない。


 ただ、悪い意味で彼は有名だった。

 入学当初からすべての時間を独りきりで過ごし、誰かと会話をしているところを見たことが無い、学年の底辺の人種として名を広めていた。

 独りきりの環境に立たされたばかりの新参者の僕とは年季が違う。

 所謂、先輩にあたる人物だったので少し気にはなっていた。

 退屈で苦痛でしかない空き時間をどのようにやり過ごしているのだろうと、時々彼を盗み見ていた。


 けれど、その時間は無駄に終わる。


 彼の身体は椅子とくっついているのかと思うくらい自分の席から動くことはせず、丸々とした身体を更に丸め、誰にも気付かれないよう密かにゲームをしているだけだった。

 そんな彼に興味が冷めてきたころ、向こうからやってきたのだから驚いた。

 何の脈略もなく突然の接触だった。


「明日河君は、その……ゲームは何をやるの?」


 たどたどしい口調にに、脅えたように震える声。

 それ加えて、からかわれる以外で誰かから話し掛けられるのは久しぶりだった僕は動揺し、彼の言葉を聞き逃していた。


「なに?」


 彼の瞳は落ち着きがない。

 あちらこちらに動いているのに一度も視線は合わない。


「僕、ゲーム詳しんだ」

「そう……」


 彼とは初対面ではないものの、初めて話し掛けてきたのがゲームの話題、しかもやっている前提だった。

 どう返していいものか少しばかり悩んだ。


「ゲームは……あまりやらないかな」


 彼が望んでいた回答ではないのだろうけど、僕は素直に有りのまま伝えることを選んだ。すると、想像していたよりも小太りくんは落胆していた。


「嫌いじゃないよ、ただ最近はやってないだけ」

「そうなんだ。どんなジャンルが好き?」


 その後も聞いたこともないゲームの話を持ち出され、僕は苦笑いを浮かべながら相槌をうった。

 退屈ではあったが、興味がある風に装い会話を終わらせないように気を使った。


 しばらく話をしているとだんだんと気分が悪くなっていた。

 一方的に話す彼の口からは悪臭がし、言葉と共に唾を飛ばしてはそれに気付きもしない。大して暑くもないのに汗を流す彼の顔はお世辞にも綺麗とは言えなかった。


 そばかすにニキビの跡が余計に不潔に映った。

 本来なら絶対に関わりたくない類い人だったが、話している間は孤独ではなく、たったそれだけの理由で彼を受け入れていた。


 誰かと繋がりがある、それだけでも救われていた。

 良いところは皆無な不満の塊の彼だけど、目を瞑れば一応友達と呼べる存在だった。


 けど、線引はした。

 休み時間になればゲームの話やたわいない話をし、移動教室も一緒には行くけれど、放課後に一緒に帰ることも、休みの日に遊ぶ約束もしない。

 誘われても適当な言い訳を作り断るつもりでいた。

 意外だったのが、小太りくんが僕を誘うことは一度もなかったということ。

 教室に居るときと同様、控えめな性格なんだと、その時は思っていた。


 ある日の昼休み、小太りくんに誘われるがまま第二校舎に向っていた。

 理由を尋ねてみたが、着いてから話したほうが早いらしく、何度聞いても不器用な笑顔を浮かべるだけだった。

 何があるのだろうと少し緊張しながら後に続く。


 授業や部活のない昼休みに第二校舎を利用する人は少なく、辺りは静かだった。

 小太りくんは音楽室の隣にある準備室の前で足を止め、そのままドアを二度ノックし、間隔を開けて再び二回叩く。

 中に誰かいるのだろうか、そう考えているとガラスに人の影が映り、鍵の開く音がした。それから五秒程したころで彼はドアを開けた。


 まず目についたのが部屋を半分に仕切っている不自然なカーテン。

 色も素材もこの部屋からは浮いており、後から取り付けたのだと一目でわかった。


「入んなよ」


 入り口で立ち尽くしている僕に野太い声が誘う。

 部屋の真ん中にあるカーテンを背に、小太りくんが僕をじっと見つめていた。

 異様な状況に困惑し、その場から動こうとしない僕を見かねてか、上級生の一人が不吉な笑みを浮かべながら近寄ってきた。


「よく来てくれたね。まあこっちにおいでよ」


 親しみを込めるように僕の肩を軽く叩く。

 よく来てくれたもなにも、ここへ来た理由を僕は知らない。

 そう言いたくても、目の前の人物は上級生であり、見るからに危ない類の人。

 髪を茶色に染め、着崩した制服の胸元でシルバーのアクセサリーが揺れている。

 不良と呼ばれる人だった。


「そんな硬くならなくてもいいのに。年上だからかな?」


 上級生は軽く笑う。

 制服からのぞく白い肌に整った顔立ち。

 女子から好かれる部類に入るだろう男が隣にぴったりと張りつき、自然な流れで肩に乗せた手を背中に回し部屋の中へと導く。

 その行為はあたかも逃げれないよう拘束しているように感じられた。


 導かれるままカーテンの奥へと行くと、二人の上級生と視線が合う。

 髪を肩まで伸ばした細身の上級生は僕を見るなり片眉を上げ、威嚇混じりの視線を向けてきた。その目に絡めとられ身が固まる。

 けれどその人は、直ぐに大きな口を開け作り笑いを浮かべると胸ポケットから四角い箱を取り出した。


「一本どうだい?」


 差し出されたのは煙草だった。


「えっ? あ、いえ、大丈夫です」

「ああ、吸わない人なのね」


 少し残念そうに呟き、差し出した煙草をくわえ火を点けた。

 煙草の先端が赤く燃え白い息を空に向け吐き出す。

 自分が未成年であること、ここがその行為を許さない場所であることを理解していないのだろうか。平然と、悪怯れる様子がない態度は彼らにとってはこれが普通のことであり、当たり前のことらしい。


 もう一人の上級生は僕をちらっと見ただけで話し掛けようとする素振りはなかった。視線を落としスマホを見つめている。

 黒髪の短髪、形の整った耳には痛々しいまでに取り付けられたピアスの数々。

 彼らこそ僕がもっとも関わりあいたくない人だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ