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隣で支える小さな影  作者: 柳
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何処かの、誰かの告白。

 

「お前に、告白したい女子がいる」


 午後の体育の授業中、二クラスの男子が複数のチームに別れ、バレーの試合をしている真っ最中だった。

 早々に敗退した僕と幸秋ゆきあきは観戦しているのも退屈だと体育館を出た。


 それから何を話すともなく、ただ漠然と時間を消費していたが、ふいに幸秋の呟きが耳に届いた。

 渡り廊下に僕ら以外の生徒の姿はなく、その言葉は僕に向けられているようだった。


「告白って言ったのか?」


 戸惑いながら訊き返せば、そうだ、と短く幸秋は答えた。

 放課後、中庭で待ってる、と付け加えて。


 こちらの心情などお構いなしに話す、淡々とした口調のいつもの幸秋で――。

 けれど、ちらりと盗み見た横顔は何処となく淋しそうで、こんな色恋が付く浮ついた話には不釣り合いに感じた。


「今日、なのか?」


 そう問えば、そうだろ、と投げやり気味の言葉が返ってくる。

 自分から振った話のはずなのに、終わらせたい空気を言葉に込めているのを感じた。


 それから間もなく、体育館から教師の呼ぶ声が聞こえた。

 幸秋は僕から背を向け、伝えたから、と言い残すと体育館へと足を向けた。


 呼び止めようと口を開いた。

 訊きたいことがあった。

 知りたいことがあった。


 けど、視線の先にある背中が”話しかけるな”と言っているような気がして僕は言葉を飲み込んだ。

 幸秋の考えていることがわからない。

 それは、出会ってから少しも変わらない。


 今の少し冷めた距離感を、縮めたいと思ったことは何度もある。

 でも、近づきすぎればこの関係も壊れてしまうかもしれない。そう思ってしまうと途端に怖くなって何も出来なくなる。


 だから今も、一歩、距離を空ける。


 僕は変わらない平穏を望んだ。この関係でいい、と納得させて。

 幸秋が見つめていた方へ視線を向ければ、女子が長距離走をしている風景があった。


 ――――。


 結論から言えば、僕を呼びだした相手は現れなかった。


 放課後になり、期待と緊張を抱えながら誰よりも早く中庭へと向かい、そして、下校時刻まで来ない相手を待ち続けた。


 途中、真っ黒い毛の野良猫が目の前を通り過ぎ、水泳部らしき女子が不審者を見るような視線で僕を見ていたくらいなもので、特別何かあったということはなく、時間だけがただ静かに過ぎていった。

 単純に僕が聞き間違ったのか、あるいは幸秋の伝え間違いがあったのかはわからない。


 ただ、僕にとって初めての告白は、なんとも後味の悪いものとなった。

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