今度こその出会い
...人の話し声が聞こえる。独り言かもしれない。若い男の声...いや、男にしては少し高い気がする
。
「で、噂の樹海にやっては来たものの....まともに会話できる奴はいるんだろうか...」
それを聞いて俺はふと辺りを見渡した。
なるほど確かに、最近騒音がより一層酷くなったと思ったら周りの霊たちはみんな悪霊になってしまったようだった。なぜ自分だけが悪霊ではないのか分からなかったがとりあえず、そんなことよりも大事な事があった。
「あの...俺らのこと見えてます?」
一人で来たのだろう、周りに人などおらず、世間一般では見えないとされている俺らしかいないこの空間において、彼の発言はまるでここに蔓延る悪霊達が見えているかのような口ぶりだった。
「そりゃもちろん」
あっけらかんとした態度で彼は言った。まるで、見えることがさも当然のように。そして、しばらくその場に立ち止まり空気をめいっぱい吸い込むと
「よし、やるか」
とショルダーバッグから小瓶を取り出した。
何をするのかと興味津々で覗き込んでいると、彼はちらっと一度こっちを見てから視線をそらし、小瓶の中から有り得ないほど長い紙を取り出した。
その紙には何かが書いてあるのだが俺にはさっぱり読めない。しかし、その紙を見ていると少し頭か痛くなるようだった。
突然彼が小さく何かを呟き紙を放り投げる。紙は宙を舞って四つに分散すると、それぞれ赤、青、白、黒に輝きながら四方に向かって飛んでいった。あの色が何か頭に引っかかるが今は、そんなことを気にしている場合ではない。あの紙の行方が知りたい。彼は一体何をするためにここに来たのか、何のためにあの紙をなげ、これから何をしようとしているのだろう。
辛うじて平穏だった日々に、先へ進もうとする光が見えた様な気がした。