出会う...まで
気がつくとそこは、鬱蒼としげる森だった。
両手を動かしてみる。特に異常はない。次に両足を動かそうとして思い出した。
「そうだ、俺死んだんだった」
両足は見えなかった。どうやら典型的な幽霊の状態らしい。
そこでまた思い出す。昨日も同じような事を自分はしていた。自分の時間感覚が狂っていなければの話だが。
この森は全国でも有名な自殺スポットで、毎年自殺志願者が絶えないと言う。
生きていた頃はなんて物騒な場所なんだろうと思ったりもしたが、実際ここに数年もいるとそんな事はないと思い知る。極めて静かな森なのだ。
悪霊達が暴れ回っていること以外は。
奴らが暴れだしたのは俺がここに来る随分前かららしいと年代者の霊に聞いた。彼も数日前に悪霊化してしまった。もはや意思は悪霊に取り込まれてしまったらしい。ここの空気に触れ過ぎると邪気を取り込んでしまうようだ。今もこの森のどこかで暴れているのだろう、遠くから騒音が聞こえる。
怖かった。
悪霊達の事でも、自分が悪霊になる事でもなく、自分の知らぬ間に取り返しのつかない事をしてしまうかもしれないという事が怖いのだ。まだ、自分の意識を捨て去る瞬間ではないと心の奥底で得体の知れない何かが叫んでいた。
しかし、このままここに居続ければ結局は彼と同じ様に悪霊化してしまうのだろう。
何としてでもそれだけは食い止めなくては。
ありもしない正義感が身体を貫く。自分に何が出来るとも分からないが、今はせめて意識を保つことだけを考えて日々を過ごそう。特にすることも無いこの森で、自分は後どれだけ平穏に過ごして行けるのだろうか。いつかこの状況を綺麗に一掃してくれるような、そんなヒーローみたいな人が現れはしないだろうか。