賭け事好きの清水くん
処女作です。
「ねぇ、橋本さん。今度の中間試験も勝負しない?」
私の隣の席の清水くんは賭け事が好きだ。
賭け事と言ってもギャンブルなどではなく、定期試験の成績や小テストの点数でジュースやアイスを賭けて勝負するのだ。
「いいよ、今回は何賭ける?」
「んじゃ、今回は駅の自販機のアイス!あの、チョコレートの高いやつね。」
女子か。
それに普通のアイスが130円でプレミアムなアイスは160円だから、高いと言っても30円なのだが。
「いいよ、じゃあ私は…購買のシュークリームね。」
「またそれ⁉︎好きだね、シュークリーム。」
「うん、大好きだよ。」
清水くんと賭けをして、シュークリームを買って貰うところまで含めて全部大好き。
なんて、口が裂けても言えないけどね。
中間試験は3日に渡って行われる。
初日の今日は、物理・古典・数学Aのマリー・アントワネットの髪もかくやという大盛りっぷりだ。
物理は得意教科に入るが、数学Aは毎回微妙だから気が抜けない。
しかも数学Aは清水くんの得意教科だ。
ただでさえ、私はハンデとして総合の点数を0.9倍されるのだから、油断する余裕など全くない。
そうして3日間の中間試験は瞬く間に過ぎ去った。
そして、試験が終われば当然答案が返ってくる。
10教科が出揃ったら賭けが始まる。
「さて、清水くん合計点、700いった?」
「一応ね、橋本さんは…もちろん行くか…。」
「私は10教科総合、792点。清水くんは?」
「俺は10教科合計で714点。んで、橋本さんのを0.9倍して…」
「712.8点、うわー!ギリギリ負けた!」
「ぃよっしゃー!!それじゃ、駅のアイスよろしくね!」
「はいはい、プレミアムのチョコレートでしょ?今日食べるの?」
「いや、明日暑いらしいから明日。」
「分かった、それじゃあ明日、駅で7時ね。」
「おぉ、それじゃ俺部活行くね!」
「私もそろそろ点呼だわ。」
清水くんは野球部でまだベンチ入りはしていない。
私が吹奏楽部として野球の試合の応援に行くと、いつもスタンドでメガホンを持って先輩たちの応援をしている。
私が初めて応援に行った時、教室ではいつも穏やかな清水くんが大声を上げているのを見て少し驚いた。
今は応援中の清水くんの真剣な横顔を見るのが結構好きだ。
私の高校の学年末試験は他の高校よりちょっと早く、2月上旬に行われる。
登校中、清水くんに出会った。
彼が白い息を吐きながらお決まりの台詞を言った。
「ねぇ、橋本さん。今度の学年末試験も勝負しない?」
この試験が終われば高校2年生になって、クラス替えが行われる。
もう清水くんと試験の成績で勝負が出来る最後の試験かもしれない。
「いいよ、今回は何賭ける?流石にもうアイスは寒いよね…。」
「何言ってんの、寒い冬に温かいコタツでアイスを食べるのが良いんだよ!」
「それじゃあ、アイス賭ける?」
「いや、他に賭けたいものがあるんだ。」
「へぇ、アイス大好きな清水くんにしては珍しいね。」
「橋本さんのシュークリーム好きには負けるけどね。それで、賭けの内容なんだけど…」
「何?バレンタインが近いからってゴディバはやめてね、あのブランドは高校生の財布に優しくない。」
「い、いや別にゴディバなんて求めてないから!
そうじゃなくて…俺が、勝負に勝ったら…、俺とつ、付き合ってくれない?」
へ?
最短でも2秒は思考が真っ白になった。
清水くんが、勝ったら、私と付き合う?
清水くんの顔を見ようと思って左を向くと、彼の耳が真っ赤に染まっているのが見えた。
2月上旬とは思えないほど体が熱い。
「……いいよ。その勝負、乗った。」
「へ⁉︎本当に、いいの⁉︎」
「いいよ、でも私から1つだけ条件。」
「条件って何?」
「…今回の試験は私の成績は0.9倍じゃなくて、0.5倍にして。」
まぁ、要するに遠回しに『私も清水くんと付き合いたい』と言いたいのだ。
素直になれない自分に嫌気がさす。
マフラーに半分顔を埋めて清水くんの様子を伺う。
彼の顔は真っ赤だった。
私が言えたことでは無いか。
あぁ、私は今生まれて初めて試験が楽しみかもしれない。
早く学年末試験が始まらないかな。
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