7話 箱入りならぬネカフェ入り娘
私としてはアズロさんが何でこんな危険なところにいたのか聞きたいけど、私が自分から説明したみたいに、アズロさんから言ってくれるのを待ったほうが良い気がする。
名前教えるのも言い淀んでたし、あんまり聞かれたくないかもしれないからねー。
ハンバーグカレーの残りをかっこんで、手を合わせてごちそうさまでしたと呟くと、アズロさんは不思議そうな顔をした。
「それは?」
「んー、食後の作法みたいなものです。作ってくれた人、材料を育てた人とか、ここまで配達してくれた人とか、これを食べるまでに関わった人に。そして野菜とかお肉とか、糧になってくれた命に、ごちそうになりました、ありがとうございますってお礼を言うんです」
「……ごちそうさまでした、か」
アズロさんはどこか感慨深そうに見よう見真似で手を合わせて、ごちそうさまでしたと言った。
うーん、やっぱり悪い人じゃなさそう。
お皿を洗ってくると言うと自分も手伝うと言ってくれたので、厨房までつれていった。
やっぱり見たことない物ばっかりらしくてきょろきょろしてる。
私より頭1つと半分くらいデカイけど、こうしているのを見ると何となく幼い。
ざーっと洗って食洗機に入れ、スイッチを押すとゴウンゴウンと音が鳴り出す。
終わった時のビーッという合図にアズロさんは分かりやすくびくっとしていた。
洗ってる間に取り出しておいたダスターをアズロさんに渡して、お皿を拭いてくださいとお願いした。
皿2枚とグラス2つにスプーン2本、乾燥機使うのもったいないからね。
「あ、でも熱いから気をつけて下さいね」
「っ……ああ」
言うのがちょっと遅れたみたいで、既に熱くて手を引っ込めたあとだった。はははーごめん……。
拭き終わったものを受け取って食器棚にしまうと、アズロさんが口を閉じたり開いたりしていた。
何か聞きたいのかなと思って黙って待っていると、おずおずと言った具合に問いかけられた。
「……その、ここは、魔道具屋なのか?」
魔道具屋? 聞き覚えのない言葉に首を傾げる。
「魔道具、って、えーと何ですか?」
そう聞くとアズロさんは心底びっくりという顔をした。
あ、やばい何かアホな質問した?
「えー、あー、その、私ここ以外の場所知らなくて」
しどろもどろにそんなことを言うと、ものすごく可哀想というか、哀れそうな目をされてしまった。
……アッ!? も、もしかして生まれてからずっとここから出たことないみたいな風に思われた!?
違う違う、この世界に来てからここから出たことないから知らないって言いたかったんだよ!
言いたかったんだけど……まあ、異世界から来ましたって言っても、変な人だと思われるのが関の山だろうし。
申し訳ないけどそのまま勘違いしててもらおう、ごめんアズロさん。
その後、魔道具について説明してもらえた。
グーグレ先生で検索すれば分かっただろうけど、妙に詳しいよりアズロさんから聞いた方が不自然ではないからね。
魔道具っていうのは、その名の通り魔力が込められた道具らしい。
さすが異世界、ここは魔法がある世界なのだ。
魔法使いが魔力を込めて作った道具が、魔道具。
でも作るのはめちゃくちゃ難しいらしくて、最近では高い技術を持つ人はほとんどいないらしい。
昔はもっとすごい魔道具いっぱいあったみたいで、そういうのは「古代魔道具」って呼ばれてて金持ちがこぞって買い求めるんだそうだ。
いても基本的に貴族やら王族が囲っちゃうもんで、庶民には全然普及していないんだそうだ。
それなのにこの施設は、今までアズロさんが見たどんな魔道具より性能のいい物で溢れかえってたからびっくりしたんだって。
電気とか、食洗機とか、鍋沸かしてるIHヒーターとか。
それできょろきょろしてたんだねー。
もし今後誰かが来たら、ここにあるもの全部古代の魔道具だよって説明するかな。
さすがにアズロさんには魔道具知らないって知られてしまってるから通じないけどさ。
……いや、どちらにせよ古代魔法具は金持ちが欲しがるって言ってたからダメだわ、狙われるわ。
魔道具屋ではないけど、ここにあるものは魔道具かもしれませんって言っといた。
ここから出たことないなら知る訳ないかって勝手に納得してくれた。
こ、心が痛い……。
さて、ご飯も食べたしそろそろ眠くなってきたなあ。
シャワーも浴びたいけど、起きてからでいいか。
「そろそろ寝ませんか?」
提案すると、アズロさんも眠かったらしくて頷いた。
シアターブースは全部で4つあるから、そのうちの2つを使ってそれぞれ寝ることにした。
ブランケットとクッションを渡すと、それも庶民の間では高級品らしく驚かれてしまった。
ブースに鍵はないから、扉の前に椅子を置いとく。
アズロさんなら変なことしないとは思うけど、無防備ですよってアピールしてると思われても嫌だからねえ。
しつこいと思ったらごめんね。
ソファに横たわってブランケットを被ると、眠気が襲ってきた。
結構疲れてたんだなあ……そりゃそうかあ……。
そのままおやすみ3秒と言わんばかりに、私は眠りについたのだった。