4話 この世界では、コミックは禁書らしい
レジの中からは見慣れた貨幣や紙幣がなくなっていた。
代わりに多分だが、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨と、もう2種類、白っぽい銀貨と金貨みたいなのが入っていた。
もしかして、召喚に伴って勝手に換金されたのだろうか? レジ有能すぎない?
POSの画面、左下には「-6000」と表示されている。多分これが発注で減ったお金かな。
すぐさまグーグレ先生に貨幣について聞いてみた。
オーマでの貨幣価値は「鉄貨<銅貨<銀貨<金貨<白銀貨<白金貨」となっているらしい。
鉄貨が10枚で銅貨1枚。銅貨が10枚で銀貨1枚。
銀貨は100枚で金貨1枚で、それ以降は同じ。
大体庶民の1食が、銅貨1枚くらい。
給料が1ヶ月で銀貨10枚前後くらい。あ、ちなみにこの世界の1ヶ月は20日だそうだ。
こんがらがってきたからポケットのメモ帳に書き込んでおいた。
メモを取るのはバイトの基本だ。
ていうか、庶民て。この世界にはお貴族様がいるらしい。
ということは、王様ってのもいるんだろう、きっと。
こ、こわ~。ただの一般市民だった私が礼儀作法とか知るわけもなし、絶対お近づきになりたくない。
まあこんなダンジョンに王様なんて来るとは思えないけど。
もしこの世界がよくある小説みたいに、中世ヨーロッパくらいの世界観、技術力なのだとしたら、パソコンはものすご~く貴重かつ有用なものだろう。
そんな物が店内に所狭しと並んでいるのだ。なんてったってネカフェだからね!
……絶対に、絶対に来ないでほしい。これはフリじゃない。
ちょっくら肝が冷えたところで、今度は本棚へ向かった。
勿論出入り口を見ることも忘れない。
でも誰かが来た形跡もなければ、爬虫類のはの字もなかった。
本棚に来たのは、こっちもレジみたいに何かしら変化が起きてないかなーと思ったからだ。
適当に「リクエストコーナー」と書いてある本棚から1冊手に取り、パラっと開いた。
「…………ん?」
あれおかしいな、私は漫画を手に取ったと思ったんだけど。
手の中には表紙こそ少年漫画そのままだけど、中身は日本語じゃない言葉の文章だらけになった本があった。
ていうか、うちに小説なんかあったか? いや、うちはコミックしかなかったはず。
頭の中を「?」だらけにしつつも、パラパラと読んでみる……ん、私、読めてる?
……何やらめちゃくちゃ難しい学術書みたいになっているけど、私の趣味は読書だったりする。
ので、言葉は難しかったけどぎりぎり理解できた。
内容は「失われた古代攻撃魔法とその再現方法」。
最後のページめくったところに「禁書」とスタンプみたいなのが押してあった。
な、なんでだー!!
ここ、これ、禁書ってこれ! 絶対世に出したらダメなやつじゃないか!
まさかここにあるコミック、全部中身が禁書にすり替わってるのか!?
なんで読めるのかとか、そんなことは全部吹っ飛んでしまった。
ダーッと走ってそれぞれの棚を確認する。
少年漫画は、それぞれ古代攻撃魔法の禁書に。
青年漫画は、みんな多種多様な呪いの禁書に。
少女漫画は、何と人を操る精神魔法の禁書に。
週刊誌や雑誌は、錬金術やら鍛冶の本になっていた。これまた難しそう。
成人モノは…………1ページで読むのを断念した。あそこは封印しよう。
全てを確認するのはさすがに断念したけど、結論として、店内にあるコミックが禁書になってしまっていることだけはわかった。
どうしろって言うんだ……。
そっと本棚に本を戻して頭を抱えた。本は大切に扱おう。
またへろへろとバックヤードに戻り、パソコンの前にどっかりと座り込んだ。
お金が自動的にこちらのものに換金されてたのは助かる。とても嬉しかった。
けど禁書はなんでなんだよ……理由がさっぱりわからない……。
これ貴族とかに限らず、もし誰かがここに入ってきたら終わりじゃないか?
元々頭使うの苦手なんだから悩ませないでくれ、お願い誰か助けて。
またもこみ上げてきた涙をこぼさないように目を上げると、パソコンのモニターが見える。
……ん? なんか、右下にお知らせ出てる。
【侵入者 1階層*】
……侵入者 is なに?