3話 ダンジョンを彷徨うネカフェ
グーグレ先生によると、ここは「オーマ」という世界らしい。
で、私がいるのはその中で1番大きな大陸「ソルベルク大陸」なのだそうだ。
「へー、よくある異世界ものみたいに、いろんな種族がいると」
オーマについて調べながら、私はもそもそとレンチンした冷凍チャーハンを食べている。
冷凍庫も冷蔵庫も全部ちゃんと機能してた。
あと怖かったのでトイレも見に行ったけど、ちゃんと水、流れたよ。ほんとに良かった。
さっきも言ったけど、ここには色んな種族(エルフとか、獣人とか)がいて、さらには魔物もいるそうだ。
うん、これで確信した。さっきの巨大爬虫類も魔物に違いない。
なんてったって、私がいる「地下大迷宮シルヴィオン」は、このオーマで最大のダンジョンらしいからね!
「……なんでよりによってダンジョンだよ……」
食べている途中で思い出して机に突っ伏した。
行儀悪いけど知ったことかい、誰もいないんだもん。
そう、私がいるのはお城でも街でも草原でもなく、世界最大のダンジョンだった。
大陸横断するこのダンジョンは、世界最高難易度と言われており、未だ誰にも踏破されたことがないのだという。
歴代の勇者ですら、中層までしか行けなかったのだそうだ。
勇者だって、勇者。やっぱりいるんだね。
てことは、あのハーレムは勇者パーティーになるのか。
ははは、頑張れよ、どうでもいいけど。
そして私がそのシルヴィオンのどこにいるのかというと、これもグーグレ先生が教えてくれました。
【地下大迷宮シルヴィオン 100/86階層*】
シルヴィオンって全部で100階層なんだ~! へ~!
明らかに勇者より進んどるやんけ……。
しかも、階層の横の「*」ってマーク。
なにかなーと思ってクリックしたらこう表示された。
【移動階層を選んでください】
すごーい私誰も踏破してない大迷宮をワンクリックで移動出来ちゃうんだ〜!
意味がわからない。
それなら地上にも出られる!? と思ったら、2階層から99階層までしか移動できなかった。
いくら2階層とはいえ、世界最高難易度のダンジョンで私が生きて出られるわけがない。
なんなんだよ! ぬか喜びさすなよ!
これが就活サボってフリーターしていた報いだというのか。
神様が私に死ねと言っている気がする。
頑張って仕事見つけるから実家に帰らせてください……。
チャーハンを完食して、しばらくごろごろと現実逃避していたが、諦めた。
分かっていることは、ここで助けを求めたりしても誰にも届かないってことだけだ。
じゃあ私が自力で頑張って生きてくしかないじゃないか。
諦観たっぷりの決意だったが、とりあえず生きていくことだけは決めた。死にたくないからね!
チャーハンを入れていた皿をざっと洗って食洗機にぶちこんだ。
コーラ飲んだグラスも入れておいた。
食洗機のゴウンゴウンという音を聞きながら、私はうーむと考え込む。
まず何しようか。
パソコンで他に出来ることとか、ないだろうか。
ていうかそもそも、食べ物とかどうしよう。
今は冷凍食品がたーっぷりあるけど、無限ではない。
店の備品や食品は、ほとんどFAXで発注していた。
たまに足りなくなったら買い出しに行っていたが、こんな所で買い出しも何もない。
むしろ私が魔物の食品になってしまう。デリバリーになんてなりたくない!
ネットはなぜか繋がったが、電話ってどうなんだろうか。
試しにポケットに入れていたスマホを取り出して、警察にかけてみた。
…………案の定、繋がらなかった。
これは、食料も絶望的かもしれない。
生きていくと決めた矢先に餓死の未来が見えてきてげんなりした。
ま、まあ、物は試しだ。FAXだけでもやってみようじゃないか。
えーと、醤油2本と、さっき食べたチャーハン少なくなってきてたから、1箱かな。
適当に発注表に数を書き加えて、紙をセットしてFAXしてみた。
……あれ、通知音切れない?
そうして紙を送り終わったと同時に、私の横にダンボール1箱と醤油2本がぼわんと現れた。
「う、うおーうおー! すごい!」
ちゃんと届いたことにも驚いたし、まるで魔法みたいに現れたことにも驚いた。
さっきまでの暗い気分も何のその、私はご機嫌でチャーハンを冷凍庫に放り込んだ。
さて、無事注文は出来たけど、この注文の支払いはどうなってるんだろうか。
資金も確認せずに注文するとか、私の適当加減がバレてしまう。
カウンターに向かい、レジの中身を確認してみることにした。