【88話】ムアミレプ王国の怪 前編
遅れました。
この世界には、現在の技術では解明できない『オーパーツ』が存在する。
判別器や測定器等が代表的なそれだ。
その『オーパーツ』は世界各地にあり『遺跡』と呼ばれる場所から少数発掘される。
少数の理由は、固い岩盤よりも強度のある匣が原因である。
『オーパーツ』を手に入れるには、匣を時間をかけ、少しずつに削って発掘するしか方法がない。
世界中に散らばる遺跡の中で、稀に生きた遺跡が点在する。
生きた遺跡とは『ガーディアン』が機動している遺跡の事で、どんな攻撃も寄せ付けない無敵の防御を誇っていた。
50年前まで男尊女卑の習慣があった、ムアミレプ王国では『ガーディアン』を素通りできる『オーパーツ』を発掘して、生きた遺跡からも『オーパーツ』が発掘出来るようになった。
そんなある日の事。
「アンジェラ女王、申し訳ございません、もう逃げ道が……」
『ガーディアン』に襲われ、逃げ惑う女王の一団が
遺跡の奥へ奥へと進んでいった。
アンジェラ女王は、視察、激励のため、生きた遺跡に従者を連れて見学をしていたのだった。
ところが、安全であるはずの視察は『通行器』の想定外な故障により、遺跡内部で突然『ガーディアン』に襲われてしまったのだ。
護衛の半数を犠牲にして逃げ込んだ先は、行き止まりの大部屋だった。
「何故じゃ、何故こうなったのじゃ。誰か妾を助けるのじゃ」
「ははっ! この私、ネオハイムがこの命を持って御守りいたします! はぁぁっ! 肉体強化ぁ!!」
竜神の加護を持つネオハイムが部屋の入り口で、間もなくやって来るであろう『ガーディアン』を迎え打つ準備をした。
この時、従者の一人が叫んだ。
「アンジェラ女王! この壁に埋まっているのは『通行器』です! アンジェラ女王」
「ムース!? よく見つけました。急いで取り出しすのじゃ!」
この中にいる大半の者は忘れていた。
半分露出しているとはいえ『オーパーツ』を取り出すには長い時間を要する事を。
ネオハイムがガーディアンと戦闘に入った。
一見、互角以上の戦いをしてるネオハイムだが、決して破壊される事のないガーディアンとの戦いは、絶望的な戦いとも言える。
「ムース、未だなのですか? 急ぐのじゃ」
「はい、しかし……しかし……」
当然のことだが『通行器』の周りは殆ど削れずにいて、ムースは半泣きになっていた。
しばらく女王の声を聞きながら、壁に向かっていたムースだったが、偶然『通行器』が壁に埋もれたまま、作動した。
くしくも、ネオハイムが力尽きて倒れた瞬間だった。
「ネオハイム! 誰か、ネオハイムに回復を」
「はっ、エクスヒーリング」
従者の一人が、回復魔法を使いネオハイムをある程度回復させたが『ガーディアン』から逃げるために、既に魔法を多用したせいで、気絶してしまう。
ネオハイムを倒した『ガーディアン』の動きが停止した事で、一部の従者が『助かった』と出口に向かって走り出す。
「ま、待てっ 」
別の従者が引き留めようとしたが、間に合わなかった。
部屋を出た通路では『通行器』の効果はなく、脱出を試みた者は、無惨にも殺されてしまった。
壁に埋まったまま、発動した『通行器』の効果範囲はこの部屋の出口から数歩進んだところまでだった。
それから、しばらく時間が経った後、ムースから絶望的な話がでた。
「申し訳ございません。この『通行器』を取り出すには最低でも、3日はかかります。そして『通行器』の魔力は持って2日……」
ネオハイムは、HPの半分を失い、回復魔法使いは枯渇で倒れたなか、非戦闘員の多い一団は、悲鳴や泣き声が木霊していた。
◇◆◇◆◇
「この辺りがアルカディア王国の国境か、しばらくこの国とは、さよならか。で、こっから先は何て国だっけ? ダナム、テスター」
並んで馬に乗っている仲間に声をかけた。
「ランディ、もう少し勉強した方がいいんじゃないか?」
「ランディは強いから問題ない。ここは、ムアミレプ王国だ。超が付くほど稀少なアイテムが遺跡から出土するって話だ」
そう、ダナムとテスターには、呼び方を徹底させた。
『敬語なんて使ったら、馬小屋で世話係りをやらすからな』ってね。
男爵になったからって、僕は僕だ。
仲の良い相手に、敬語は要らない。
「しかし、ここからは10人で護衛のするのか」
「特務隊とランディがいるから13人だけどな」
「この規模の食料を運ぶんなら、兵士200人は要るよな。なんて無茶なんだ、あの国王は」
テスター、ダナム、僕の順番で話ながら、国境を越えていた。
そう、ここまでは護衛が13人じゃなかったんだ。
途中40人近い盗賊が襲ってきたんだけど、それにタイミングを合わせたかのように、グランデール伯爵率いる、傭兵軍団が約3倍の兵力で殲滅。
盗賊達の『聞いてない!』の悲鳴が気になったけど、演習中の黒尾騎士団等と合流したりして、ずっと大所帯だった。
だけどここからは、少人数であの大荷物を運ぶんだ。
ちょっと緊張が走る。
数日ほど、ムアミレプ国内を進んでいると、ほぼ正面から青い顔をした中年男性が1人、こっちにやって来た。
「おい! そこの商隊の頭はどこかっ? 大事な話がある!」
テスターとダナムがこっちを見る。
面倒な予感がするが、仕方ない。
「僕ですが」
必死な男が、頭を呼んで、僕が出てきたらどんな表情をするか。
「おまえ、ふざけ…………いや、すまない。急ぎの用が有るんだ。丈夫な馬を1頭売ってくれないか?」
僕を見て、怒ろうとしたけど、周りを確認して、瞬時に僕が代表だって理解したのだろう。
息を切らせているのに、状況判断がいい。
「ここの馬は、売り物ではありません。可能であれば事情を話して貰えませんか? 力になれるかもしれません」
……
…………
この男から話を聞いた。
近くの大きな街に『通行器』っていうアイテムを取りに行く途中、乗っていた馬に怪我をさせたため、走って街に移動していたらしい。
今ごろは、恐らく死んでいるであろう女王様の遺体を、出来るだけ新鮮な状態で確保して、埋葬したいと聞いた。
それよりも、気になったのはガーディアンだ。
物理攻撃も魔法攻撃も効かないなんて『ガーゴイル』や『ストラム兵』を連想させる。
ウズウズしてきた。
「ちょっと質問します。その街の方向と距離は?」
少し考えた後、答えてくれた。
たぶんだけと、ざっくりと計算していたんだろう。
「あの方向で、馬を使って2日かかる」
男は指を差して教えてくれた。
「なるほど、因みに遺跡は?」
「それは、此方の方角で、馬なら半日くらいだが……」
僕はダナムとテスターに伝言をする。
「ダナム、テスター暫くここで休憩だ、伝達が終わったら『ロシ』と『アン』を連れて来て」
『ロシ』と『アン』はたくさんいる馬の中で、特に食い意地の凄まじい馬で、僕の呪文で出した人参が大好物なんだ。
もう1頭食い意地の凄い『サト』がいるんだけど、今回出番はない。
僕の様子を見て、希望の光が見えたように喜ぶ。
「馬を売ってくれるのか?」
僕は、そのまま自分で馬に乗り、手を出す。
「馬は売りません。だけど乗っていきますか?」
「いいのか? 商隊はどうするんだ?」
「他の仲間には、暫く待機と言ってあります。テスター、ダナム準備は良いかい?」
「ああ、こいつらの『おやつ』も持ったぞ」
ダナムのは人参がたくさん入っている、大袋を見せる。
「『ロシ』『アン』頑張ってくれるか?」
『ヒヒン!』って鳴き声は、任せろと言ってるように思える。
「よし、出発!!」
颯爽と駆け出すと、僕の後ろに乗せた人が、慌てている。
「ちがっ、ちょっと方向が違う。そっちは街じゃない。 そっちは遺跡ガブ」
どうやら舌を噛んだみたいだ。
さあ、不思議なモンスターに会いに出発だ。
余談『無惨な盗賊団』
とある盗賊団は、1つ依頼を受けていた。
それは『護衛のいない輸送隊から、荷馬車を3つほど、奪ってこい』だった。
斥候の情報通り、護衛の兵士は10人程度だった。
「俺たちゃ盗賊だ。人数をかき集めて奪えるだけ奪ってやろうぜ」
「でも、依頼じゃ殺すなと……」
「バカいえ、他の知らない盗賊に皆殺しされたって不思議じゃない。幸いにも誰も見ていないしな。いいか? 仲間を全員呼んでこいよ」
……
…………
「助けてくれぇ」
「うぎゃあ!」
「奇襲だあ! 」
「おい、あの旗はまさか『プリウス伯爵』!?」
「逃げろ、逃げろぉ!」
……
…………
残党
「何故だ、なぜこうなった? 」
「情報がデマカセだったんじゃ」
「そ、そんなバカな……」
「盗賊を発見、位置から確認するに、ライトグラム男爵の輸送隊を襲うと思われます」
「よし、殲滅するぞ。黒尾騎士団突撃ぃ!!」
「ふふっ、偶然を装い合流をしようと思ったが、思わぬ収穫があったな。」
「そうですね。師団長、もしかしたらアレがふるまわれるかもしれません」
「あいつらが、忘れられないと言った例の食材か」
「そうです『キチンラーメン』です。食べてみたいですね」
黒尾騎士団の中で、例のインスタント食品は、名前を若干間違えて、広まっていった。




