【87話】とある人達
先週は、投稿できず申し訳ございませんでした。
《ウィルソンとサンジェルマン》
ランディに、米を使った料理を振る舞った後、国王のウィルソンと、第2王子のサンジェルマンが、顔
を付き合わせて話していた。
「見たか、サンジェルマン?」
「ああ、オヤジ、解ってる。あの時、あいつは普通に『ハシ』を使いやがった。いったい何処で『ハシ』を知ったんだ?」
「ランディの故郷は、ウエストコート領の外れた農村地の出身だ。アルテシアンナから来た旅人が、偶然通がかった可能性があるな」
「だからって、ちょっと見たくらいで『ハシ』を扱えるなんて、おかしいだろ?」
サンジェルマンは、理解に苦しむとばかりに、もっている箸を難しそうに動かす。
サンジェルマンも箸は使えるが、ランディ程ではなかった。
「そうだ、そのランディの未知の可能性に掛けてみたのだ」
「オヤジ、賭けの間違いじゃねえの?」
国王と王子の期待は、斜め上を突き抜けた結果になるとは、まだ知らない。
◇◆◇◆◇
《アスターテとエリザ》
ウエストコート領の公爵である、アスターテ・フォン・ウエストコートは、中央での公務を終えて、自分の屋敷に戻ったところだった。
「お帰りなさいませ、お父様」
最近、エリザの肌には艶がない。
原因は、怒りのストレスによる肌荒れだった。
「エリザ! 話がある。 あのこぞ、ランディを見つけたぞ」
影を落としていたエリザの瞳に、光が灯る。
「えっ、嘘……いえ、流石お父様、大好きっ!」
アスターテの目尻は、これでもかと言うくらい垂れ下がっていた。
アスターテの意向で、ランディの詳細は、食事の席で話す事になった。
エリザは父親の話を夢中で聞いていた。
『王都』に移動した辺りの話では、歯軋りして怒り、また『ライトグラム』の家名を貰ったことや、僅か半年で男爵になった話を聞いた時は、こぶしを握りしめて興奮していた。
アスターテもエリザに、満足の行くようにと考え、出来るだけ、ランディの事を調べてから、詩人と相談して、嘘のない範囲でランディの事を誉めちぎった。
もちろん、エリザを喜ばせる為だけでだ。
「流石、ランディね。『王宮騎士』に一目おかれるどころか、あの『十傑』にまで認められるなんて……そして先の盗賊大討伐での100人斬り、第3王子様の家庭教師、ふふっ、これなら5年、いえ3年くらいで、子爵になるかも知れないわね」
エリザは上機嫌だった。
ただ、アスターテは特務隊については、話をしていなかった。
特務隊での、活躍も話したらどうなった事だろう。
「たった3年で子爵とは、いくらなんでも気が早すぎるぞエリザ」
「ふふっ、ランディなら3年で子爵なんて不思議じゃないわ。そうだ! お父様、王都に行きましょう」
エリザは名案とばかりに、顔を綻ばせる。
代わりにアスターテは、エリザの言葉にビックリしている。
「エリザよ、私は今日帰って来たばかりなのだが」
しかし、アスターテの言葉はエリザには届かない。
「そうだ、これから準備すれば明後日には出発出来るわ。お父様そうしましょう」
「ダメだ聞いてない」
結果、エリザの希望通りには、出発出来なかった。
理由はエリザの護衛隊長のボヤンキーが休暇を取っていたからだ。
エリザはボヤンキー抜きで行くと言い張ったが、認められず、早馬を使って緊急に呼び出した。
ただボヤンキー宛に書いた手紙の文面が不味かった。
『ランディが見つかったの、会いに行くから、急いで来るように』
と、書いてあった。
ボヤンキーはこの直後、突然気絶して倒れ、その後も原因不明の腹痛により、ウエストコート邸に到着したのは、手紙を出した日から5日が経過していた。
ボヤンキーを『ハリセン』でしばくエリザを、父親のアスターテは何とかなだめて、王都に出発した。
……
…………
「ここに、逞しく成長したランディが居るのね」
ランディが住む屋敷の前で緊張するエリザ。
しかし、ランディを呼び出して、屋敷内の一番豪華な部屋に案内され、その後に出てきたのは、別の人物達であった。
そう、ロイエンルーガとクラリスの2人だった。
「初めまして。私は、エリザベート・フォン・ウエストコートです。よろしくお願いいたします」
エリザは、公爵である父親が直接出向くと、ランディの両親が萎縮してしまうと考えて、別行動にしてもらっていた。
しかし、エリザの配慮は無駄に終わった。
「あああ、あな、貴方、エリザベート様って、ああ、あの、あの」
「わわわ、わか、解ってる、ううう、うちの、バ、バカ息子が、ななな、なにかエリザベート様に、そそそ、粗相でも……」
「エエエ、エリ、エリザベート様、ラ、ランディは、ち、ちょっと調子に、乗る事がああるけど、ととても良い子なんです。どどど、どうかお許しを」
「………………」
ロイエンとクラリスは、別の人物から、ランディに面会を求めた偉い人が着たから、対応してくれと言われていただけなので、公爵令嬢の登場に、これ以上ないくらいに、テンパっていた。
結果、エリザとランディの両親が、会話を成立させるのに、少々時間がかかってしまう事になる。
「エ、エリザ様、ランディは3日前に遠征に出掛けていまして、場所は私には報せておらず、申し訳ございません!」
エリザベート様と呼んでいたロイエンルーガだが、『エリザ』と呼びなさいと、強く言われて『エリザ様』と、呼ぶようになった、ロイエンルーガとクラリス。
ランディの不在を必死に謝っていた。
「お父さまとお母さまは、悪くありませんわ、悪いのは遅刻した、私の護衛ですわ。で、お戻りはいつ頃でしょうか?」
エリザもランディの両親に好感を持ったため、呼び方が『お父さまお母さま』になっていた。
アスターテやボヤンキーが聞いていたら、騒ぎになっていただろう。
エリザの問いに、ロイエンは緊張の余り、大事な単語をはしょって、答えてしまった。
「え、遠征から戻ってくるのは、に、2年後だったかな」
「きゅう~~」
エリザは、妙な悲鳴をあげて気絶してしまった。
「エリザ様!?」
「エリザ様! 誰か! 誰かっ!! エリザ様がお倒れにっ!」
その後、数日にわたり、ボヤンキーはエリザの八つ当たりの的にされたと言う。
《ドルデルガーとトワイライム》
ある寝室で、アルテシアンナ王国、王位継承権第五位ドルデルガー公爵と、その妻であり、元アルカディア王国の王女のトワイライムが、今後の事を深刻な表情で話し合っていた。
「ライム、やはり早めに他の貴族達に支援を依頼してはどうか? 我が領内では自給はままならん、民を餓えさせてまで、守らなくてはならない程、私は『王位継承権』の順位は高くない」
ドルデルガーは、そう言ってはいるが、国内で99人いる王位継承権を持つ大貴族の中で、五位と言う位は次期国王の椅子が、うっすらと見える位置にいる。
「領内の備蓄食糧を放出すれば、暫くは堪えられましょう。それに、あと一ヵ月もすれば、お父様の……アルカディア王国からの支援も、来ると思います」
「ライムは頼りになるな。私は国外に大きなコネ
ない。しかし、アルカディア王国から我が国に来るまで、別の国を2つも間に挟み、武器の持ち込み制限が厳しい我が国に、民の不満を拭える程の潤沢な食糧支援は無いだろう」
「ですが……王位継承権第七位のウォンタマル公、第三位のゼニクルーガー公、そして王位継承権第一位のユーロガッポ公でさえ、原因不明の不作に頭を抱えています。もし、その原因を我が公爵家で突き止めれば……」
トワイライムは、この危機を乗り越え、好機に転換出来ないか考えているのだ。
「しかし、何故今回『恵みの大雨』は、来なかったのか……」
アルテシアンナ王国は、毎年大雨の後、肥沃な土を運んでいたのを『恵みの大雨』と呼んでいた。
だが、今年の大雨では、逆に作物が実らなくなっていた。
そして、河から水を引き込んでいた水路の田畑まで、作物が実らなくなってしまっていた。
「今回、お父様に、知恵の長けた者も要求しました。それまで、何とか頑張りましょう」
「……解った」
この2人は、年端もいかない少年が物資を運んで来ることを、まだ知らないでいた。
《○○伯爵と騎士○○》
「ランディ・ライトグラムが、大量の支援物資を持って、アルテシアンナに向けて移動しました」
騎士特有の軍服を着た男性が、装飾品を着込んだ貴族の男性に報告している。
「そうか。此度の遠征では、成功も失敗もして欲しくないの」
この貴族は、国の損失になることは嫌うが、かと言って『ランディ・ライトグラム』にスピード出世の機会を与えるのも反対だと考えていた。
「伯爵様、いかがなさいますか?」
「…………ふむ……」
貴族はしばらく考えていたが、ようやく口を開いた。
「穀物を運ぶ量に比べると、兵士は極端に少ない……ここは減らせないな。馬を十数頭、始末して運ぶ物資を減らしてしまおう。加減が難しい仕事だが出来そうか?」
「はっ! お任せ下さい。希望通りに手配いたします」
騎士が退室したあと、男性はぼそりと呟く。
「ランディ・ライトグラムか……早くも台頭してきたか。国に損失を与えず、妨害するのも難しくなってくるな」
その表情からは、ランディを憎んだりしているようには見えなかった。
エリザ「ところでお父様、王宮騎士『十傑』ってどうやって決めているのですか? 現役騎士や退役騎士がまじっているのですが」
アスターテ「それはなエリザ、現役王宮騎士4
~6名、退役王宮騎士4~6名の中から選ばれる。近年現役騎士は目立つほどの強者は少なく、退役騎士6名、現役騎士4名の構成で十傑は構成されているぞ。ランディの師匠スクット・リッツも十傑に選ばれてなお、その名を残している。解ったか、エリザ」
エリザ「ありがとうございますお父様。そのうち、ランディも十傑に選ばれるかも知れませんね」




