【7話】ランディ喧嘩で負ける
ランディは広大な農地が、存在する『メルック領』の『ルカツ村』で生まれた。
そのルカツ村を『フォルトン子爵』が統治し、四分割した農地を『パラシュ准男爵』『マツヤ准男爵』 『ラーマ准男爵』 そして、ランディの父親『ダーナス准男爵』が管理している。
そのうちの一家、マツヤ准男爵家は、現在嬉しい悲鳴を上げていた。
マツヤ准男爵の当主『タイム・マツヤ』は、四人の子宝に恵まれた。
上から十歳・九歳・七歳・六歳、何れも男子で、『嬉しい悲鳴』とはその子供たちの潜在能力にあった。
子供たちの内、なんと長男・三男・四男の三人がギフト持ちだった。
ギフトを持たない次男は、攻撃魔法と肉体強化魔法をもつ『ハイブリット種』で、僅か六歳にして攻撃魔法を発現させているほどの天才だった。
その事により、四人とも全てが、王国の誇る『高等学院』に推薦入学が内定する事になった。
『嬉しい悲鳴』の『悲鳴』とは、四人の子供達の素質が有りすぎて、将来は都市又は王都勤めになるだろう……なので、地主と大して変わらない『准男爵』を継ぐ子が、いない事だった。
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ある日、タイム・マツヤの三男、ダナム・マツヤ(七歳)は、従者を振り切って、独りで村の中を歩いていた。
彼は『龍神の加護』を持っている『ギフト持ち』だった。
その『龍神の加護』正体は『筋力二倍』と言った能力で、さらに彼は肉体強化魔法の素質を持ち、既に一段階目の肉体強化魔法が使えるのだった。
数値に例えて言うなら、ダナムと同世代の子供の筋力を10から20とするならば、ダナムの筋力は27の二倍で54、さらに一段階目の肉体強化魔法と併用すれば、69まで跳ね上がる事になる。
その力は、一般の成人男性と変わらないレベルであった。
そんな力を有したダナムは、甘やかされて育ってしまった。
家庭教師でさえ、ダナムには『様』の敬称を付けて呼んでいるのだ。
ダナムは増長した……そして、色々な我が儘がまかり通ってしまう……だが、そんなダナムにも叶えられない望みもある。
その一つが、外への独り歩きだった。
ダナムには、何処へ行くにも最低一人のお伴が付いた。
そんな毎日に嫌気が差したある日、ダナムはお伴を振り切って、独りになる事に成功した。
こうして、ダナムのルカツ村の散策が始まった。
ダナムは独りを満喫していた。
その歩みは自然と速くなり、ダーナス准男爵家の管理する農地まで来ていた。
ダーナスは、そこで見かけた子供の集団に、興味を持った。
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ダナム視点
十歳くらいの年長の男が、四歳から七歳くらいのガキ供をしきって威張ってやがる……
俺様は、あの男が何故か気に入らない……理由は実力も無さそうなのに威張ってるやつが気に入らんからだ……
少し、弄ってやるか……俺様は集団に向かってあるいた。
「おい! その程度で何威張ってんの? バカじゃないのか?」
すると、生意気な男は言い返してきた。
「なんだ、お前は? お前なんて呼んでねぇよっ!あっち行けよ!」
そうして、俺様を押そうとした。
こいつ……俺様に向かって『お前』とか言ってやがる……家族以外は俺様のことを『ダナム様』って呼ぶのにこいつは……本気でムカついたぞ。
俺様を押そうとした手を掴んで引っ張り、足を軽く蹴った。
すると、男は盛大に転んだ。
こいつ、弱えぇ……ん? そう言えばみんな俺様が特別だって言っていたな……じゃぁ、あれで普通なのか。
転んだ男は、怒りを顕にして、怒鳴る。
「ガキだと思って手加減してやったのに……本気出すぞっ」
ガキにガキ扱いされた……マジでムカつく……
「俺のことはダナム様って呼べ……」
そうして、手加減しながら一方的に嬲ってやった。
気がつくと、鼻と口から血を出して泣いてやがる……泣く暇が有ったら謝れよな……
すると、今度は五歳くらいの女のガキが、生意気な口を言いやがった。
「何だお前は……」
「私はアリサ、お兄ちゃんはやりすぎだよ? もっと手加減出来ないの? 」
こいつも生意気だな……ちゃんと手加減してやったぞ……こいつはちょっと脅かすだけにしてやろう。
「お前も、生意気だ」
俺様は、女の頭を掴んで、力を入れた。
「うっ、ああああ……」
こいつ、泣かないな……手加減しすぎたか?
もう少し力を入れるか……ギリギリッ……
「あ"あ"あ"あ"あ"っ……」
アリサは痛すぎて、泣く事さえ出来ないでいた。
バシッ!
「痛っ」
突然、俺様は誰かに殴られた。
今のは本気でムカついたぞ!
「誰だっ!」
すると、痛めつけても、泣かなかった女のガキが、泣き出した。
「ランディ……ぐすっ……うえっ、うわぁぁぁぁぁん!!」
やっと泣いたか……この男も泣かせてやる!
「アリサに謝れ……」
こいつ、年下の癖に生意気過ぎるぞ!
この俺様を殴っておいて『謝れ』とか意味が解らない。
こいつには手加減はいらないな。
俺様は、思いきりランディと言うガキを殴った。
しかし、俺様は空振りして、代わりにランディって言うガキに、顔を殴られた。
五歳の頃から、家庭教師と訓練してる俺様が?!
何度も何度も殴るが、その度に殴り返される。
もう、こいつはどうなってもいいや……俺様は、肉体強化魔法を使った。
速さと力が上がった俺様は。攻撃を当てやすくなった。
やっと俺様の攻撃が、当たりくそガキが吹き飛んだ。
まぁ、本気を出してるからな……
しかし、くそガキはムクリと起き上がり、『アリサに謝れ……』と言ってきた。
それからは、何度も何度もくそガキを殴った、本気で殴っているのに、あいつは何で起き上がれるんだ?
気がついたら、たくさんの大人に取り押さえられていた。
畜生! 覚えてろよ? ランディ! 俺様は、お前の名前、覚えたからなっ!
俺様は、無意識に『くそガキ』から『ランディ』に呼び名が変わっていた。
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僕はアリサを虐めていた歳上の子供にボコボコされてしまった。
肉体はまだ五歳とはいえ、子供に負けたのは正直ショックだ……しかし、それよりアリサを虐めていた子供に、詫びを入れさせられなかった事が悔しい……
ごめんなアリサ……
不覚にも、僕は情けなくて、悔しすぎて、泣いてしまった。
僕は無力だな……『ヒーリング』しか使えない無力な子供に成り下がってしまった。
僕は初めて『泣き寝入り』と言う物を体験してしまった。
その夜、クラリスとロイエンが、僕の事で口喧嘩していたのを知らないでいた。
本日もう一本行きます。