【68話】もう1つの新魔法
ソイフォンとジエ君が倒れる前に、なんとかたどり着いた。
ちょうど神速の効果が切れたが、間に合って良かった。
「「「ファイヤーボール!」」」
「アルテミットヒーリング」
回復魔法を受けたソイフォンが、ビックリしてこっちを見たけど、それどころじゃない。
ファイヤーボールの着弾前にジエ君も回復させないと。
「アルテミットヒーリング」
ドガァァァァァン!!
くっ、あちち……間に合ったな、ん? 今度はダナムがいっぱいいっぱいみたいだ。
だが、今度は余裕で間に合う。
「ソイフォン、ジエホウ!行くよ」
混戦状態の仲間に向かって、進もうとしたら転けた。
「ランディ!?」
「ランディ、どうしただか? 」
あ、足が動かない。
まさか『神速』を無理に使った副作用か?
開眼したその日に、2回も神速を使ったからか……普通は発動すら、しないはずだもんな。
「ソイフォン、すまん肩を貸してくれ」
ソイフォンに肩をかりて、少しでも早くみんなと合流しなくちゃ、あいつらは混戦の中でも無理矢理隙を見つけて、攻撃魔法を使ってくる。
対戦相手の後衛1人が余裕のあるせいか、僕らの状態に気がついて、攻撃してきた。
「ファイヤーボール!」
2発のファイヤーボールを、ソイフォンとジエ君は冷静に対処する。
「キャンソル」
「キャンセル」
すると、ソイフォンがぐらつき、一緒に倒れた。
「ランディ、すまないだ……魔力の涸渇が近いみたいだ」
しまったぁ! 魔力を温存気味に試合をしてたけど、この試合は3戦目だ。
キャンセル主体のジエ君より、ライトニングを使っていたソイフォンに、負担が掛かっていたか。
「ジエホウ、肩を貸してくれ」
ハンマーを杖がわりに、起き上がる。
みんなのところにたどり着いたあたりで、なんとか、足に力が入るようになった。
ダナムは、ギリギリいっぱいだな……
「ダナム、待たせた。 アルテミットヒーリング」
僅か1秒で、ダナムが完全回復する。
「なっ?」
「なんだと!?」
「アルテ……えっ?」
「は?」
「???」
しめたっ、僕の新魔法にみんな固まってる、反撃のチャンスだ!
「今だ! み、ん……な?」
「………………」
「聞いてない……」
「一瞬で治った?」
「私の耳がおかしくなった?」
「俺は気絶して、夢を見てるらしい」
味方も固まって動いてない。
審判まで、僕をじぃ~~っと見て動かない。
1・2・3・4・5秒数えると、みんな同時に我にかえり、戦いが再開される。
タイミングが同じなんて、仲良すぎだろ?
6対5の乱戦が始まる。
相手側は、僕が2人倒して、後衛が1人残っているから5人。
こちら側は、ソイフォンの魔力涸渇が近く、戦闘不可能でジエ君は僕に守られながら、攻撃魔法のキャンセル要員で戦闘に参加しないから6人。
「アルテミットヒーリング!」
この、回復魔法は使い勝手が良い。
回復呪文は、一瞬で傷を治療するが、5秒に1度しか使えない。
アーサーや殆どのクレリックは、10秒に1度しか使えないから、それでもすごい方なんだがね。
混戦状態を維持するために、神経を使っているから、この場では時間がかかるエクスヒーリングや、グランヒーリングは不向きだ。
「アルテミットヒーリング」
今の回復で、完全にこちら側が優勢になった。
相手側の3人がほぼ同時に殻に被われ、ラディスとカティスがそのタイミングで後衛の1人に向かって突き進む。
「ファイヤーボール」
「キャンセル」
ラディス達に向けて放たれた攻撃魔法は、ジエ君によって、かき消される。
その直後、後衛がなす術もなくやられて、殻に被われた時、残った2人は膝を落とした。
終わったか……
この瞬間、僕と同じくみんなの力が一瞬抜ける。
しかしよく見ると、膝を落としてるが、拳に力が入ってる……不味い!
「神速!」
「「ファイヤーボール!!」」
ドクン。
油断したせいで、0コンマ数秒しか先手を取れなかった。
空気が今まで以上に重い。
ファイヤーボールの着弾点付近で、体力の消耗してる味方は…………いた、まりな先輩だ。
よし、間に合う!
しかし、僕の神速はたった2歩で効果が切れて、副作用のせいか、足が動かず目眩もする。
しかも、まりな先輩まで届かない。
ドンッ!
「ランディ!」
なんと、ダナムがまりな先輩の方に、僕を突き飛ばした。
これなら届く。
「ダナム、ナイス! アルテミットヒーリング!!」
ドガァァァァン!
ファイヤーボールとアルテミットヒーリングはほとんど同時だった。
まりな先輩は無事か?
しかし、僕はまりな先輩の無事を確認出来なかった。
アルテミットヒーリングを使った瞬間、視界が真っ暗になった。
これは、魔力の枯渇?
そんなバカな……いくらアルテミットヒーリングを連発したからって、5回程度、だろ……な、ん……で……?
薄れゆく意識の中、考えた。
まりな先輩、回復は間に合ったかな? 残りは、たった2人だけど、勝ったよな? 信じてるぞ……僕の新しい仲間たち…………
◆◇◆◇◆◇◆◇
「……ん、んんっ」
「!?」
ずいぶんと眠っていた気がする……寝起きで『ボ~』っとするのはいつ以来だろうか。
「ん? はっ! 試合はどうなった??」
「キャア!」
「キャッ」
慌てて起きて見回すと、小綺麗な部屋に女の人がたくさんいた。
そのうちの、2人は見覚えがあるような、ないような。
その中で、一番若く綺麗な女性が、僕の近くに来て話しかけてきた。
「ランディ……目が覚めたのね。 ふふっ、久しぶりね。 あっいけない、カンヌ! ランディに食事を持ってきて。 アセロラはお父様に報告……いや、いいわ、お父様に報告はランディの食後にしましょう」
「はい、お嬢様」
カンヌと呼ばれた人は、小走りで行ってしまった。
見たことがあるのは間違いないが、全く思い出せない。
名前が思い出せないのを隠して、しばらくやり過ごそう。
「お姉さん、僕の……いや、最終戦は見ましたか?」
「ランディの出ていた試合ね。 優勝おめでとう、凄かったわ」
勝ったんだ、やった。
初めは、子供の遊びを楽しんでやろう! と思っていたけど、テスターと戦ったあたりから、本気で勝ちたいって思うようになったんだよなあ。
「試合、見てたんですか? ありがとう、お姉さん」
「……もしかして、ランディ私の事、忘れてる?」
おぅ、二言話しただけで、もうバレた。
なんて洞察力だ。
「顔は覚えてるんですけどねぇ、ごめんなさい」
お姉さんは、一瞬悲しげな表情をしたけど、急に『閃いた』って顔になって、お手伝いさんを1人呼んで、ないしょ話をしてる。
すると、お姉さんは綺麗なハンカチをお手伝いさんの口に詰め込み、これで解る? って感じで僕の方を見る。
あっ思い出した。
「まさか、エル、エラ……エリ、エリザお姉さん?」
エリザお姉さんは『ぱぁぁ』と喜んだ。
「思い出したのね、当たりよ」
なんでエリザお姉さんが、ここにいるか解らないけど、八武祭に見学に来てもおかしくない身分か、観に行きやすい居住地だったんだろうな。
あと、親がバトルマニアって可能性もあるか。
「僕の仲間たちは、どうなったか分かりますか」
「残念だけど、ランディ抜きで表彰式がおこなわれたわ。 それより、もう興奮しっぱなしだったんだから」
「はは、調子にのりましたからねぇ」
「お父様や王宮騎士なんて、目玉が落ちちゃうかも? ってくらい、震えながら驚いていたのよ」
「……調子に乗り過ぎたみたいです」
「ランディは、本当に商人志望なの? ランディなら騎士の最高峰、王宮騎士にもなれるって話よ」
「ふうん、そうなんだぁ」
再来年の僕の力を見越して言ったのかな?
その頃なら、元王宮騎士のリッツ教官にも勝てそうだしね。
ギュルルルゥゥ
「そう言えばすごくお腹が空いているんだけど?」
「そうよね、ランディ半日以上寝ていたもの……ちょっとカンヌを急かしましょう」
そう言って、部屋を出た。
う~ん、エリザお姉さんってば、なんて素敵な笑顔を向けて来るんだろうか。
ランデイヤと融合する前の僕なら、これだけで落ちていたな。
エリザお姉さんと暫しお話をしていると。
疑問が出てきた。
エリザお姉さんって何者?
お手伝いさんの数、それより倒れた僕を、個室に隔離できるほどの権力の持ち主……。
なんか嫌な予感がするなぁ。
八武祭の開催中は、主任教官のマキナスジジィですら、僕ら選手達と接触が出来ないくらいのセキュリティなのに。
そして、その疑問を解消するかの様に、扉から身なりの良い、ダンディーなおじさんが入ってきた。
お手伝いさんが、一斉に頭を下げる。
おじさんは、畏まらなくていいよって、感じで合図する。
「よい。 ランディ・ダーナス、此度の八武祭では素晴らしい活躍をしたな。 私も鼻が高い、礼を言う」
この時、僕は失敗をした。
少し考えれば予想が付くはずなのに、心の声が口に出てしまった。
「おじさん、誰?」
ネタバレ。
ランディ魔力枯渇の謎。
回答は、神速です。
完全に神速の条件を満たしていないランディは、足りない部分を魔力消費して、補っていました。
リッツ教官「説明はいらんから、俺のバトルは?」




