【64話】第5試合、イーストコート高等学院
午後の試合は、レアギフト『竜神の愛』を持つ、テスター・バスター擁するイーストコート高等学院だ。
僕は、午前の不満をテスター・バスター君に思いっきりぶつける気で、試合場所に入って行く。
観客席をチラリと見ると、マキナスジジィとアリサが、手を振ってるのを見つけた。
アリサはともかくマキナスジジィまで、はしゃいでやがる。
それに、昨日より観客の密度が上がっているのに、気づいた。
ああ……思いっきり戦いたい。
目立ちたいと思う心と、まだ目立つのは早いと思う心がぶつかる。
転生者は静かに暮らしたい、とか考える人も多いらしいが、二年も静かに暮らせば充分な気がする。
僕は、もう11年も静かに暮らしてきたんだ。
ちょっと、はっちゃけたくなるよね。
今回は中サイズのハンマーを持って、盾は装備していない。
さあ、やるぞ!
「我らイーストコート高等学院は、ウエストコート高等学院に『1対1』の決闘を申し込む」
はぁ!? またかよ? そんなに電撃魔法が怖いか、この臆病者!
あんな、威力制限のかかった攻撃魔法なんて、10発喰らっても問題ないわ!
「その決闘、受けた!」
リッツ教官は笑顔で決闘を受ける。
ん? そう言えば1対1の決闘って、星取り戦じゃないよね?
午前の話を、ちゃんと聞いていたモンテ先輩が、選手五人で勝ち抜き戦をするって教えてくれた。
「リッツ教官、先鋒をやらせてください!」
「は? 先鋒?」
あっ、この単語は知らないのか?
「今、決めたんですけど、最初の一人目を『先鋒』二人目を『次鋒』三人目を『中堅』四人目を『副将』最後の五人目を『大将』と名付けると、かっこよくなりませんか?」
「それ、良いな」
「ランディは名前を付ける才能があるね」
あんまり褒められると、申し訳ない気持ちでいっぱいになります。
……
…………
「それじゃ、ランディの希望で、先鋒ランディ・次鋒ダナム・中堅ラディス・副将ロマリナ・大将モンテラードで行く…………まあ、次鋒以降は要らないけどな」
「だな」
「ですね」
「同年代でランディと互角な生徒が、いるわけないじゃん」
「相手の選手が可哀想だ……」
「なら、ランディで賭けをしないか?」
「賭けになる訳ないじゃん」
「違うよ、五人を何分で倒すか賭けるんだよ」
みんなの暖かい言葉、胸にきました。
因みに、この世界は正確じゃ無いけど、分刻みで時間を計れる物品があるんだ。
それは、塩時計。
まあ、10分を計って、プラスマイナス1分近くの誤差はあるけど、後進世界のここでは凄いと思う。
まあガルの脳内時計や、アーサーの腹時計の方が精度は圧倒的に上だけどね。
……
…………
「まずは、ランディ・ダーナス対ゴルドル・ターナの闘いです!」
解説者がメガホンで、僕と対戦相手の名前を言っているのが聞こえる。
「ゴルドル! やっぱり相手は、朝の試合で無茶をやったみたいだ」
「ゴルドル! 堅実に倒していけっ」
ん~? カティスの肉体強化の事を言ってるのかな。
そんなの回復魔法で治るじゃん。
「1戦目……決闘開始!!」
おっ合図が出た。
相手の選手は小型の盾と一般の剣を装備している。
僕は、中型ハンマーのみだ。
僕って盾の装備は、団体戦か大型モンスターに使うんです。
「肉体強化!」
肉体強化の数字を端折るって事は、生徒にしては手練れって事だな。
だけど、ゴールド君だっけ? あなた、隙だらけですよ?
彼の斬撃を、装備している盾に向かって隠れるようにゆっくりと避け、ハンマーの柄でおでこを突く。
「ぐっ……なに? 消えた!?」
僕を見失ったゴールド君はハンマーで脚を掬うように振り抜いたから、完全にバランスを失った。
そして、倒れぎわにゴールド君の頭部に足をのせて、地面に踏み込む。
ゴッ!
ゴールド君はあっさりと気絶した。
この世界の……八武祭に参加してる選手は、強くて弱い。
これが日本だったならば、頭蓋骨粉砕で死亡するだろう。
これが、凶悪モンスターが闊歩するファンタジー世界ならば、この程度で意識を手放すなんて、話しにならない。
だから強くて弱いって、矛盾した言葉を使ってみた。
ゴールド君は、体力を残したまま気絶したので、殻に被われる事なく負けた。
「ゴルドル!?」
「ゴルドルッ!」
「勝者、ウエストコート高等学院……ランディ・ダーナス。 続いて2戦目準備、前へ!」
一人の選手が困惑混じりの顔で、僕の前に立つ。
「ゴルドル先輩、油断するなよなぁ」
迷惑そうに、呟く相手の選手。
分かります、今まで僕の初手に驚かなかった者は、リッツ教官くらいだからね。
それだけ、僕の技は外野から見ているのと、対峙してるのと感覚が違う。
「2戦目、決闘開始!」
「肉体強化『2』」
肉体強化の2段階目だって、魔力の温存でもする気かな。
「ファフナー! 油断するな!! 相手はおかしい!」
失礼だけど、その人の考えは正解だよ。
それほど、隙はないが頭部を狙って攻撃した。
「なっ!? 今回も逆さだと? ばかな、速いっ」
そう言うファスナー君の動きも速いですよ。
上半身に攻撃を集中させて、慣れさせてから軸足にハンマーを思いきり落とす。
「ぐぎゃあ!」
動きが鈍くなったから、頭に一撃与えて、脳を揺らす。
さらに動きが鈍くなったので、臀部に思いっきりハンマーを振り抜いた。
ドンッ! ………………ドシャァァ。
すごく吹っ飛んだな。
だけど、場外には届かなかったから、追撃のためにダッシュする。
「ま、参った!」
ちっ、早くも2戦目が終わってしまった。
ちょっと、ギアをあげるのは早すぎたかな?
「し、勝者、ウエストコート高等学院……ランディ・ダーナス。 続いて3戦目準備、前へ!」
今度の相手は『油断なんてしないぞ!』って感じで、僕の前までやって来た。
「回復魔法と肉体強化魔法のハイブリットに、竜神の加護持ちか……珍しい組み合わせだな。 騙されたぜ」
後ろに控えてる選手が檄を飛ばす。
「キビール! 全開で行けっ。 こいつの攻撃は間近で見ると、避けにくいと見た」
「キビールさん、相手は一人目に力を入れてきたみたいっす」
キリンビ○ル君、あなた既に騙されてますよ?
僕は11歳の肉体に、前世の力を40%プラスした、ただのクレリックですぜ。
「3戦目、決闘開始!」
「肉体強化!」
キリンビー○君は大剣を小刻みに使い、僕の隙を作るためじっくりと攻めてきた。
ハンマーを盾替わりに使い、攻撃を防ぐけど一撃一撃がすごく重い。
まったく、この世界のギフトと攻撃魔法を合わせると反則的に強くなるな。
転生前の半分とはいえ、子供相手に腕力が互角なんてさ。
今回はスピードで翻弄させないで、相手の得意な筋力で対抗する。
後は、武器の相性と経験、技術の差だけど、まぁそこは比べるまでもないね。
僕は、キリン○ール君を導くように戦った。
そう、実戦で指導したのだ。
「バカな……くっ、くそっ、あり得ない……あり得なぁい!」
実戦指導に気づいたのか、彼はしばらく叫びながら戦っていた。
ついに、彼は殻に被われる。
「勝者、ウ、ウエストコート高等学院……ランディ・ダーナス。 つ、続いて4戦目準備、前へ!」
この瞬間、観戦席から大きな歓声が聞こえた。
耳に力を入れると、アリサを含む若い女性の声も混じってるのが判る。
ああ、調子に乗っちゃいそう。
「ボルテニスさん、速度で翻弄しましょう」
「ボル、俺の仇をとってくれ!」
「ああ、分かった」
「四戦目、決闘開始!」
「強化!!」
おお、ボールテニス君は、肉体強化魔法の掛け声をずいぶんと短縮してるな。
しかも、速い! 人神のギフト持ちだね。
そこそこ速い連続攻撃を、ハンマーの鎚部で防御して、余った時間で、柄の部分で攻撃する。
「なっ!?」
ボル君は驚いてはいるが、攻撃は雑になっていない。
でも、ボル君の剣技は僕と比べたら、児戯に等しい。
教えたくなっちゃうじゃん。
僕は、相手の肉体強化が切れるまで、指導していた。
……
…………
ボル君の肉体強化の効果が切れたせいか、ガクンと戦闘能力が落ちる。
「あっしまった、強化!」
よし、ここでたたみ掛ける。
2回避けさせて、退路を削ってから一撃を与える。
痛みに、気をそらした瞬間、死角から死角へ攻撃を与える。
力は入れてないが、数打ちゃ倒れるだろ。
「ぐっ、 バカな……俺より速いなんて、ぐほっ、あり得ない。 カハッ……あり得ない!」
それでも、ボル君は体力の衰えを見せない突きをしてきた。
しかし、タイミングと攻撃部位が見え見えだったので避けながら攻撃する。
前にもいったと思うが、僕の対人戦は攻防一致の円形主体型戦闘になる。
お陰で、僕よりちょっと速い程度では、敵うはずがない。
「あり得ない……あり得ない! あり得ないぃぃぃ」
ボル君は泣き言を言いながら、殻に被われた。
「あ……し、勝者……ウ、ウエストコート、高等学院、ランディ・ダーナス。 …………あっ、ご、5戦目準備」
なんか、審判がしどろもどろになってんだけど。
それに、あれだけうるさかった観戦席は静かに……いや、ウエストコート学院の出身者は騒いでいた。
そして、イーストコート学院最後の選手がやって来た。
「ランディ・ダーナス…… 俺はテスター・バスターだ。 お前になら本気を出して、いいんだよな?」
テスター・バスターと名乗った少年は、戸惑いと歓喜の混じった、微妙な表情をしていた。




