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【60話】注目され始めたランディ

 とある侯爵領で、今年も八武祭が始まった。


 特別観戦室には、開会式を終え、続々と公爵や侯爵が集まりだした。

 六家の公爵、八家の侯爵が全て揃ったのを合図にして、王宮騎士(ロイヤルナイツ)、ウィルソン国王に王妃、2人の王子が入室した。


 今年は、次男のサンジェルマン王子が、ウィルソン王に付いていく予定の年であったが、三男ロベルト王子の我儘で、2人の王子が八武祭の見学に来ていた。


 ウィルソン王とサンジェルマン王子も、ロベルト王子には甘く、あっさりとロベルトの八武祭行きが決定していた。


 そして、公爵家の二家も普段より人が多い。

 その中の、一人がエリザベート・フォン・ウエストコートだ。

 彼女は一定の年齢に達して、ウエストコート家の一人として領内で功績を出していた。


 公爵家は有望な子が一定の年齢に達すると『御披露目』する風習がある。


 そんな事から、この特別観戦室にはランディ個人に興味を持っている者は少なくない。


 特にエリザベートこと、エリザはランディを遠目から見かける度に、瞳を少女漫画のように輝かせ、ロベルト王子は『父さん、早くランディが見たい!』と言って、ウィルソン王に注意を受けていた。


「ロベルト、ここでは『父上』と呼びなさい。あと個人をあまり応援しないようにな」


「解ってるよう……まだかなぁ」

 父の言葉に頭では理解しているが、感情は追い付いていないようだ。


 予選の『ハンマーを用いて力比べ』が終わり、好評だった各学院長の入室は、今年も採用されて、特別観戦室に入っていた。


 第1試合で、もり上がっていたのは、竜神のギフトを持つテスター・バスターが在籍する、イーストコート高等学院の試合だ。


 彼は去年、対戦相手を殺してしまった事が切っ掛けで、急所を狙う事が出来なくなってしまったが、去年よりも1回り以上の成長をし、有り余るパワーで、急所を狙わなくても、対戦相手を翻弄していた。



 そして、第2試合が始まるまで、時間があるのにもかかわらず、サウスコート高等学院とウエストコート高等学院が戦う試合場付近の観戦席には、既に空席が無かった。


 今回、サウスコート側だけでなく、ウエストコート側にも注目が集まっていた。

 それは、ウエストコート側3人の選手が目立っていたからだ。


『校則違反をしたため反省中』の幟を背負っていたからだ。


 それは、特別観戦室にいるエリザにも見えていて、まるで自分の事のように顔を赤く染めていた。

(は、恥ずかしい……恥ずかし過ぎますっ)


 ハベンスキー学院長、ウエストコート公爵、ウィルソン王も、その様子に頭を抱えている。


 ただし、ウィルソン王の側に控えていた王宮騎士の1人は、脂汗を流しながら妙に納得していた。

 彼は昨年、ランディに体内に巣くう寄生虫を退治してもらうのに『騎士鍋』で煮込まれていたからだ。

しかも『どんなダシが採れるかな』と笑顔でだ。



 彼は、絶対に何かしたと確信している。

 しかも近くには、あのスクット・リッツがいるのにだ。

 あの、スクット・リッツがいても、悪さを実行出来る胆力に、驚愕していた。



 試合開始直前、ランディの盾の2つ持ち装備に王宮騎士達を、含む大半の人間が注目していた。


 一般観戦席や、貴族用観戦席では、最強対最弱の戦いに、何分で『最弱』が全滅するのか期待していた。


「サウスコート高等学院VS(バーサス)ウエストコート高等学院、試合開始!」


 ウィルソンやウエストコート公爵は現実を知っていた。

 だから、この試合はランディがどこまで粘るかが見所だと。


 しかし、4発のファイヤーボールを2人でキャンセルした事に気づいた幾人かは『なんだと!?』と叫んでいた。


 その後のランディの盾を使った円盤投げや、ジエホウの両手攻撃魔法に、他領の貴族と学院長も騒然となった。


「サウスコート学院長!! 何故ウエストコート学院に両手魔法の秘密を漏らした? それならば他にも広めるべきだ!」


 サウスコート側の反論の前に、ハベンスキー学院長が口を挟む。


「その秘密を簡単に漏らすサウスコート学院じゃないわ! これは我が学院の誇る生徒ランディ・ダーナスが、昨年両手魔法の秘密に気づき、再現したのじゃ!」


 サウスコート陣営に集まっていた視線が、ハベンスキー学院長に一点集中する。


「バカな、例えあの秘密に気付いても、たった1年でモノに出来るなんて、一体何をしたんだ?」


 サウスコート高等学院の学院長が驚き質問している。


「ふっ、それをここで話しても良いのか?」


「あっ……」

 ハベンスキーが質問に答える事は、サウスコートの秘密を暴く事にも等しい。

 


 話が盛り上がっている間に、 優勢だったはずのウエストコート側の生徒が劣勢に変わっていた。


 サウスコート側の侯爵は、安堵しながら答える。

「ウエストコート学院の奇襲と両手魔法には驚きましたが、地力が違います。 この重厚な安定感がサウスコート学院の真骨頂です」


 ウィルソンの周囲にいる王宮騎士も、サウスコート側の侯爵の話に納得していた。

(確かに、あのランディがいなければ、とっくに全滅している、それほど攻撃魔法の使いどころが巧みだ。 だが、あのランディが武器を持って攻勢に回ったら……)


 そして、ウエストコート側の選手が2名になった時には、ハベンスキー、エリザ、ロベルトの肩が、がっくりと垂れていた。

 そうとう感情移入をしていたのだろう。


 そして、2人の選手の内一名が場外に逃げ、1人がその選手を、庇うような動きをした。


 観戦者の大半は、身分か年齢差で下の選手を犠牲にしたのだと思った。


 その、犠牲になるはずだった選手、ランディは目の前に着弾したファイヤーボールに怯む事なく突き進み、追いついた選手の脚を引っ掛けて転ばし、後衛の選手にドロップキックを喰らわし、逃げていった。


 この時、ランディ・ダーナスが初めて、大勢の観客に注目された瞬間だった。

 今までは、目の肥えた観客しかランディの動きの良さに気づいていなかったのだ。



 場外に逃げるランディに向かって、10発近い数のファイヤーボールが降り注ぐ。


「ああっ! ランディ!」


「ランディが死んじゃう!?」


 エリザ、ロベルトが特別観戦席で大声を出す。


「ロベルト、大丈夫だアレの威力ならば即死はない、ならば無事に殻に守られているだろう」


「父さん、ほんと? 」


「これ、ここでは『父上』と……なっ!?」


 またしても、静かに観戦するのがマナーであるはずの特別観戦室が、ざわついている。


 反対に一般観戦席、貴族用観戦席では、静寂に包まれていた。


 ファイヤーボールが着弾した場所には、ランディが何事も無かったように、立っていたからだ。


 国王であるウィルソンの質問以外に声を出さないはずの王宮騎士達が、規則を忘れて話し合った。



「どう思う?」

「第4のギフト持ちか?」

「俺は直接話した事があるが『魔神の加護持ち』を疑って、聞いたらギフト無しだと言ってたぞ」

「それは、嘘だろ? 回復魔法を上手いタイミングでかけていただけだろ?」

「それにしたって、あれだけのファイヤーボールを受けて、何事もなかったように歩いてんぞ?」


「んんっ! あのランディとか言う選手は、それほどなのか?」

 ウィルソンが王宮騎士達に突っ込みを入れる。


 去年のランディを知る、1人の王宮騎士が答える。

「はっ、今のを見ますと、八武祭の選手の中でも、弱くはないでしょう。(予想だと弱いどころか……とんでもない強さかも……) ですが、たしか万能の解毒魔法を持っている、回復魔法使いでしたよね? 」



 ウィルソン王は王宮騎士の話を聞いた後、わざとウエストコート側に質問する。


「ウエストコート高等学院の長よ、その……ランディは回復魔法使いで間違いないのだな?」


 ウィルソン王の質問に、頭を下げながらハベンスキーは答える。


「はっ、ランディ・ダーナスは、教官を含めても、我が学院でトップの回復魔法使いです」


「そうか、それでなおあの動きと体力があるか。 そなたは、よい人材を見つけたな」


「ははっ、ありがとうございますっ!」


 ウィルソン王から直接、労いの言葉をかけられ、他の学院長や侯爵らは、嫉妬と羨望の眼差しをハベンスキーに向けていた。


 そして、エリザもロベルト王子も、ランディが注目を浴びた事を、自分が誉められたかのように、喜んでいた。

 2人は会場からランディの姿が見えなくなるまで、ずっとランディを見続けていた。



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