【56話】八武祭の影で
ある屋敷の地下に、豪華な調度品が置かれている広間があった。
その真ん中には大きな丸テーブル、円卓があり、椅子にはいかにも大貴族と思われる服を身に纏った者達が幾人かいる。
円卓の外側に立っている者達の数も、座っている貴族達の数と等しい。
そして、そこでは公にできない話し合いがなされていた。
「今年のウエストコートはどうなっている? 去年と同じく、最下位を脱出されると、大損してしまうのだがね」
「ほっほっ、サウスコートの優勝で一位を当てているじゃないか」
「一位を当てても配当は掛け金の半分……儲けにならん! 私はわかりやすく、最下位をウエストコート、優勝をサウスコートに賭けていたのだ! そしてそれは今年も変わらない」
「サウスコートの両手魔法があるかぎり、優勝は間違いないでしょうな。 となると最下位を争いが、重要なポイントとなるでしょう」
「配当が低いから金貨をキロ単位で賭けなくては、いかんからな」
「間抜けな教官にバカな教官、やる気の無い教官を『ウエストコート』に赴任させるようにしただけでは足りなくなってきたか」
「だが、これ以上の介入は此方にもリスクが有るぞ」
「ほっほっ、今回は八武祭の名簿と代表格の選手を調べさせた、みんな見てくれ」
初老の老人がそう言った後、執事と思われる男性が円卓に集まる者全てに、ウエストコート高等学院の資料を配った。
「ウエストコートチームで、注意するのは二人らしい。一人は『モンテラード・トリアス』去年も八武祭に出場したウエストコートチームでトップの実力者だ。 もう一人は『ランディ・ダーナス』こいつは優秀な回復魔法使いらしいが、戦闘能力もあると言う」
「うむ……して、詳細は?」
席に座っていない者の一人が話す。
「ランディ・ダーナスについて。 現三年生で回復魔法コースに在籍、非常に優秀な成績を収めるが、その才能ゆえか、授業を頻繁にサボっているとの事」
「なんで、そんなのが八武祭に?」
「情報が少なすぎないか?」
「グランヒーリングでも使うのか?」
「あの高等学院じゃから、外部から情報を手にするのは難しい筈だ」
そして男が、続きを話した。
「モンテラード・トリアスについて、トリアス子爵家の三男に生まれ、ギフトを持っていた事により、十一歳でウエストコート高等学院に入学、エリートコースに入る。 お祝いとして『七味鳥』のフルコースを食べた時、とても感激して『私はこれを再び食べるために偉くなる』と語ったそうです。 一年、二年では中の上位程度の成績でしたが、三年生になると成長期に入り、メキメキと実力を伸ばして行きます。四年になると実力は学年ナンバー2に、五年になった今では学年トップクラスの戦闘能力を持ち、序列下位の戦闘教官に勝てるほどになっています。 身長175㎝、体重64㎏、人神の加護を持ち、魔法は肉体強化魔法をレベル5まで扱い、魔力総量は228。 そんな彼のラッキーアイテムは『銀食器』ラッキーカラーは赤」
「なんで、こいつだけ無駄にプロフィールが長い?」
「高等学院の情報は入手し難いんじゃなかったのか?」
「本当に、ちゃんと調べたのか? 」
「…………」
「…………」
「まあ、いい。 それでそのモンテラードが、何かの理由で八武祭に出場出来なくなったら、ウエストコートは最下位になると思うか?」
「ほぼ、間違いないでしょうな。 今年は『加護』でなく『愛』を授かったギフト持ちも、何人かいると聞いた、ウエストコートなど、策を弄するまでもない」
「だが、六位や七位には、なってしまうかもしれん……策は実行させてもらう」
「話を変えるが、イーストコートのあれはどうなっている? たしか……」
「竜神のギフトを持つ『テスター・バスター』か。あやつは、例の件で人を本気で攻撃することが出来なくなった。 情けない事だ」
「人一人殺しただけで、弱くなってしまうとは」
「しかし、高等学院に在籍中は逆に都合が良い。 策を弄さずともよいのじゃからな、かっかっかっ」
「続いてオステンバーグだ」
「………………」
こうして、しばらく話し合いがされていた。
「今年は私も、金貨ではなく金塊で賭ける。 面白い策を用意した。こいつのプロフィールを聞いたから、まあ成功するだろう」
「では、○○卿との策を合わせて三つか……それでは私も五十……いや百キロほど賭けるとするか」
「それでは、解散しよう」
其々が席を立ち、円卓を後にする。
しかし、円卓の貴族達は知らない、その策がランディを喜ばせる事を。
◆◇◆◇◆◇◆◇
モンテラード・トリアスは、ランディと出来るだけ接触を避けていた。
彼はランディの事を『調子に乗った下級生』となめていたが、直ぐに考えを改めた。
ランディは二年の時点で、スクット・リッツ教官以外の序列上位教官と互角に戦っていたからだ。
今では、四年生の何人かと談笑している姿を確認していたが、彼はそうしなかった。
年上で、親が子爵なのが原因なのかも知れないが、彼からランディに、歩み寄ることは無かった。
そう、今日この日までは。
この日は、八武祭に向けて出発して数日が経過した夜の時間帯だった。
ランディが、ダナムとラディス、カティス等との会話に『七味鳥』の話が出てきたのだ。
彼は少し近づいて、耳に全神経を集中させた。
聞くとランディは去年の同時期に、あの『七味鳥』を見つけ、自力で捕らえたと言う。
彼は、ランディの話は嘘だと思った。
それほど『七味鳥』は捕獲難易度が非常に高い鳥だからだ。
だが、ランディの食べた時の感想を聞いている内に、ランディの言っている事に嘘はないと感じるようになった。
誰かの受け売りで、嘘を語ったかも知れない可能性はあるが、彼はランディの表情を見て、少しだけ昔に一度だけ食べた『七味鳥』を食べた時の喜びを鮮明に思い出したのだ。
彼はランディに、共有感を覚えたのだ。
「あれっ? モンテラード先輩? 七味鳥に興味あるの?」
彼は知らず知らずに、ランディから二歩程の距離まで近づいて、立ち聞きしていた。
もし、彼……モンテラード・トリアスが今日この話を聞いていなかったら、翌日に起きるイベントを涙を飲んで見送ったかもしれない。
翌日の、昼間。
彼の歩いている横に、小石を投げた人物がいた。
彼は物音に気づき、その方を見る。
すると、彼の視界にあの『七味鳥』の姿があったのだ。
「なっっ!?」
(あ、あれは七味鳥……間違いない。 しかも二羽もいる。 捕まえたい……食べたい……でも、なんの装備もなしに七味鳥を捕まえるなんて不可能だ)
諦めかけたその時、ランディの姿が目に入った。
次回、水曜になるか、土曜になるか未定です。
八武祭の戦闘シーンで、ぼろが出る予感満載。




