【51話】ビックリ箱
「ヒーリング!」
僕は、マキナスジジィやハゲジィにお願いして、モブ教官と雑魚教官を借りた。
何故だか、この二人は借りやすい。
何故なんだ?
まず、モブ雑魚教官を炒めて……あっ違った、痛めつけてから、二人同時に回復魔法をかける。
しかし、何度やっても二人同時に回復魔法はかけられなかった。
僕は、両手とも器用に動かせるが、同じ精度では動かせない。
僕の左手は盾を持つのに適していて、右手はメイスやフレイルを持つのに適している。
だって僕の本職は、迷宮&遺跡探索の冒険者だったからな。
フル装備派なんですよ?
この染み付いた癖は直せないと解った。
ここはスッパリと諦めよう。
「ランディ、私もやってみる」
アリサが僕のやりたいことを察して、真似をしようとする。
ふっ、アリサ……これは両手がかなりの精度で扱えないと完成しないんだよ? しかも均等にだよ?
恐らく、サウスコート学院の教官は両利きの人間を集めて、さらに字を書かせる訓練を入学前から仕込んでいるに違いない。
「ヒーリング!」
だからアリサ、そんな付け焼き刃で、完成……
「出来たっ! ランディ出来たよ!」
何い!? 世の中そんな都合の良い話があっていいの?
試しに、アリサに簡単な絵を左右同時に描かせてみたら、ビックリするくらい上手く描けていた。
「アリサにそんな才能が、あったとは……」
「えっ? 私達はみんな、こうやって遊んでたじゃない」
アリサが不思議な事を言う。
アリサの女の子友達は一人として知りませんが?
僕が遊びに行く時は、ほとんど引っ付いて来るのに、アリサが女の子と遊びに行く時は絶対に誘われなかった小さき昔を思い出す。
気づいた事は、幼少から訓練すれば、両手魔法を使える確率が上がるって事だ。
マキナスジジィとハゲジィに相談しよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
◇学院長室◇
「ランディ・ダーナス入ります!」
「お前は入退室の時だけは、礼儀正しいな……他は酷いのに」
マキナスジジィが失礼な事を言ってる。
ハゲジィもその言葉に頷いている。
僕は人を見て、使い分けてますよ?
こうなったら、お茶を口にした瞬間に話してやる。
僕は二人がお茶を啜った瞬間に話した。
「両手魔法の秘密がわかりました。 うちでも真似してみましょう」
「ブハァ!!」
「ゴギュ! ゲボッ ゴホッ」
大成功! でもハゲジィは気管に入ったな……大丈夫かな?
「おおおお、お、お前はまた、とんでも無い事を」
「ゲホッ、ゴホッ……な、なんて言う事だ、説明しろ! あれはサウスコートの極秘事項じゃぞ?」
「かなりの精度で両手が器用に動かせると、出来るようですよ? サウスコート学院の彼らを見て分かりました。 僕も試したけど出来ませんでしたが、アリサが同時回復魔法に成功しました」
「「何ぃ!? 」」
「ダーナス家はビックリ箱か?」
ハゲジィよ、アリサはダーナス家じゃありませんよ。
「今から、魔法使いを集めて利き腕を調べましょう。 両利きならば、練習しだいで両手魔法が使えるかも知れません」
こうして、両利きの攻撃魔法使い五人が集められた。
まだ五人とも両手魔法は使えないが、紙を使って筆記練習をして貰うことにした。
そして、少し時が経過して……
ついに、一人の生徒が両手魔法を使えるようになった。
「やったぁ、やりましたよ教官! 」
その生徒を教えていたのは、主に座学で活躍するロベルト教官だった。
なんと、王子様と同じ名前なんだ。
ロベルト教官は三年生から五年生の校舎にいる教官なので、接点はなかったんだけど、何故かこの両手筆記修行に彼が任命された。
この若い教官から気品が感じられる。
うちの学院は『脳筋教官』や『馬鹿教官』が多いので、かなり浮いた存在に感じてしまう。
そう言った理由から、僕はこの人の顔と名前を覚えた。
ロベルト教官は、何故か頻繁にこちらを見るので、一緒にいると居心地が悪い。
まあ両手魔法はもう僕の手を離れたから、後は勝手に頑張ってもらおう。
◇◆◇◆◇◆◇◆
週に一・二回程、アリサの稽古に付き合ってあげてるが、アリサはそっちには才能がない様だ。
村人の中では、かなりやるようだが、ここでは下のグループに属するだろう。
しかし、そんなアリサは肉体強化魔法のレベル5まで扱えるって聞いた。
ただ、肉体強化魔法は元の身体を鍛えていないと、魔法の反動で身体がズタズタになってしまう。
今のアリサは肉体強化魔法レベル1で適当なんだそうだ。
ある日、アリサが『今日はランディを驚かせる』と言って打ち合いする事になった。
「肉体強化6、ヒーリング」
何だと!? アリサは人間ビックリ箱か?
いつのまに肉体強化6をって、そんなの使ったら身体が壊れる……ヒーリング?
ま、まさか……うわっ。
速ぇ……強ぇ……肉体強化を使わない教官並だ。
肉体が成熟していないアリサが使ったら、持つはずがない………んだけど、アリサは九秒後にもう一度ヒーリングをかける。
そうか、ヒーリングは約十秒かけて回復する。
しかも、自分にヒーリングをかける場合は一瞬触れていれば、発動しっぱなしだ。
アリサはヒーリングの回復魔法を再生魔法に見立てて、肉体強化の副作用で壊れた身体を治しながら、戦っているんだ。
そのやり方は、命知らずだろ? 魔力も気力もメッチャ削られるぞ!
しかし、アリサの魔力総量は1000を超えているし、刃物を自分にザクザク刺すことが平気で出来るタイプだった。
アリサは、こんな無茶苦茶な方法で、肉体強化を使わない教官と変わらない力を手にしていた。
……
…………
僕はアリサを足で引っ掛け、転ばせてから注意する。
「アリサ、これは練習では使わない方がいい」
「えっ? 何で? これを使えば傭兵コースで無敵だったんだよ?」
すでに戦闘済みでしたか……
納得のいかない顔をしているアリサに説明をする。
「肉体強化魔法と回復魔法のハイブリットで、身体の壊れる痛みに耐えられ、回復魔法をかけ続けられる豊潤な魔力総量がないと実行できない、天才にのみ許された戦い方だね。 しかしこの戦い方では経験を積めない」
アリサがハッとした表情に変わる。
「気づいたみたいだね。 練習の時は、これを使わずに普通に戦おう。 どうしても負けられない戦いになったら使おうよ」
「うん、ランディわかったわ……でも、ランディって肉体強化魔法を使えないのに強いね。 すごい!」
まあ、毎日鍛えている上に、前世の力を継承しつつあるからね。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ある日突然、学院長代理のキツネさんが頭を下げて来た。
意味がわかりません。
事情を聞いてみると、今の一年はキツネさんがどっかの教官に命令して、回復魔法を教えていたんだけど一割程しか習得していないって事だった。
後一ヶ月で進級になるのに、この状態は不味いと思ってマキナスジジィに相談したら『ランディに土下座して来るんだな』って言っていたそうな。
キツネさんは、土下座まではしなかったけど、断る理由はないよね。
それに、謝ってもらうような心当たりもないし。
僕は、十日かけてヒーリングが未習得の一年生全員を回復魔法が使えるように仕込んだ。
結果またしても、僕の信者を増やしてしまう事になった。
こうして、僕の学院生活二年目は終わり、八武祭に参加可能な三年に進級した。
※ランディ 十一歳
※ギフト 暗黒女神の愛
※魔法の種別 回復系
※使用可能魔法『ヒーリング』『エクスヒーリング』『グランヒーリング』『アルテミットヒーリング』『デトックスA~F』『ニュートラライズポイズン』
※魔力総量 4121
※クレリック呪文 第1レベル 35回
※クレリック呪文 第2レベル 32回
※クレリック呪文 第3レベル 28回
※クレリック呪文 第4レベル 24回
※アリサ 十一歳
※ギフト 無し
※魔法の種別 回復系 肉体強化系 生活系
※使用可能魔法『ヒーリング』『エクスヒーリング』『グランヒーリング』
※魔力総量 1334




