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【50話】入り乱れる思惑、IN八武祭

私にしては、長めです。

三人称で書いたつもりです。

どうぞ。

 八武祭の特別閲覧室

 それは国王とその家族、八家の公爵とその妻、高等学院担当の侯爵八家、一部の護衛がいるのみであった。

 だが、今年はイーストコート公爵の提案で、解説役に其々の学院長を呼ぼうと提案してきた。


 セキュリティ上、問題ないと判断され、この提案は直ぐに受理されて、学院長を呼びつける事になった。


 ウエストコート高等学院の担当のメッサー侯爵は、イーストコート高等学院担当のドルイゼン侯爵を見て、苦い顔をしていた。


(ドルイゼンめ、何を企んでいる……)


 メッサー侯爵の疑問は直ぐに解消された。


 イーストコート高等学院三年生の生徒である、テスター・バスターが、対戦相手を殺害してしまう。

 そう……イーストコート側は、稀なるギフト持ち『竜神の愛』の所持者を披露する目的だったのだ。


 元々は軍隊養成が主軸な学校の上、見学しているのは『超』の文字が付く大貴族。

 人一人死んだところで、大した騒ぎにはならない。


 ただ『人が死ぬのは、数年ぶりだな』とざわめいたくらいだ。


 ただ、国王とその妃は、顔をしかめていたが、声には出さなかった。

 二人は、今の世では甘い部類と言えよう。


 そして、イーストコート高等学院の学院長が、自慢気に説明する。

()の生徒は素晴らしきギフト『竜神の愛』の所持者であり、(よわい)十三歳の神童であります。まだまだ未熟ではありますが、来年、再来年はこの『テスター・バスター』が主役の八武祭になりましょうぞ」


 テスター・バスターは、恵まれた肉体を持っていた。

 それを駆使すれば、ギフトがなくても、そこそこの力を発揮出来るタイプだが、さらに筋力三倍のギフトを持っているのだ。


 常人であれば、いかに『竜神の愛』のギフト持ちでも、たかだか十三歳である。

 鍛え抜かれた十五歳の『竜神の加護』持ちと、大差は無いはずなのだ。


 初日で一人の人間を殺めたが、直ぐに対処され、それ以降、死者は出ることが無かった。


 さらには、両手攻撃魔法を操る『サウスコート高等学院』に黒星を貰ってしまう。


 だが、それでも『イーストコート高等学院』の上位入賞は間違いの無い物となっていた。



 そんな中、『ウエストコート高等学院』のハベンスキー学院長は血の気が引けて、真っ青になっていた。

 理由は現在五連敗中なのだから。


 試合最終日、すくっと立ち上がり指示を出しているリッツ教官に、ハベンスキーは歓喜の涙を浮かべた。

(やっと、やっと動いてくれた)


 この時、国王の護衛である王宮騎士(ロイヤルナイツ)の数名に変化が起きていた。


(あいつ、スクット・リッツじゃねぇか!)

(女より戦闘が好きな、スクット・リッツ!? なぜこんな所に?)

(ぶっ! 俺がトラウマになるまで、練習試合をさせられたスクット・リッツ先輩だ!!)

(バトルマニアのスクット・リッツだと!? てっきり死んだものかと……)


 王宮騎士(ロイヤルナイツ)達は、なんとか驚きを口に出す事はなかったが、その変化を国王に気取られていた。


「何事だ? 」


「はっ! 数年前に王宮騎士(ロイヤルナイツ)に在籍していた者を見かけました」


「ほう……だが、それだけの気配の揺らぎ、只の王宮騎士(ロイヤルナイツ)では、あるまい?」


「いえ……一時、お世話になっただけであります……」

(虐めとも言える、お世話だったけどな……しかしなぜ、学校の教官なんかに)


 そして『ウエストコート高等学院』は数年ぶりの勝利を手にした。


「どうです? 見ましたか? うちの学院はこれからです。この若手の他に、来年ランディ・ダーナスが加われば八戦全勝も夢じゃないんですっ!」


 ハベンスキー学院長は嬉しさの余り、余計な事を口走ってしまう。


 各学院長は解説のために呼ばれていたので、来年の生徒の事など、聞いてはいないのだから。


 しかし、それが各学院長達に刺激を与えてしまった。


『オステンバーグ高等学院』の学院長が話し出す。

「来年まで黙っておく予定でしたが、来年ならば、わが校の優勝になるでしょう。何せ我が校の二年には、あの『人神の愛』のギフト持ちがいるのですから」


護衛や侯爵達がざわめく。


 すると『ウェステンバーグ高等学院』学院長も口を開く。

「我が学院には回復魔法を操る『魔神の愛』の所持者がおります。今はエクスヒーリングまでですが、来年にはグランヒーリングを習得します。グランヒーリングが戦闘中にどれだけの効果を発揮するか、楽しみです」


 回復魔法の完成まで『ヒーリング』なら十秒『エクスヒーリング』なら六秒『グランヒーリング』だと三秒なのだ。


 その差は、戦闘中なら大きな違いを持つ事になる。


 そこで、『ノルデンバーグ高等学院』の学院長も前に出る。

「うちの生徒にも、来年三年になる『ハイブリット種』がいます。しかも『魔神の加護』持ちで、攻撃魔法、回復魔法、肉体強化魔法の三種を使いこなし、魔力総量が1000を遥かに超える化物です。我が王よ! 来年の八武祭はわが学院を軸に見ると良いでしょう」


『ウェステンバーグ高等学院』の学院長が苦虫を噛み潰した顔になる。

 理由は『魔神の愛』のギフトを持つ生徒も、魔力総量が1000をやっと超える程度だからだ。


 1000を超える魔力総量の話に、辺りの侯爵や学院長、護衛などがざわめいていたが、ハベンスキー学院長と国王の『ウィルソン・フォン・アルカディア』、ウエストコート公爵の三名に驚きは無い。


 むしろ、魔力総量が1000程度で騒ぐならば、ランディの魔力総量を暴露したら、他の貴族達の反応はどうなるだろう。


 そう思うと、ランディの情報を洩らしたくなってしまう。

 しかし、各々が持っているランディの情報は違っている。


 例えば、ウエストコート公爵なら、ランディの魔力総量は2000以上、情報元は義理の息子。

 国王のウィルソンなら、ランディの魔力総量は3000以上、情報元はマキナス。

 ハベンスキー学院長なら、ランディの魔力総量は3800以上、情報元は昨年測定した判別器となる。


 三人とも今直ぐに暴露して、その場を乱したくなる衝動に襲われたが、来年の八武祭まで我慢する事にしたようだ。


 その後、ウエストコート公爵とメッサー侯爵に別室へと連行されたハベンスキー学院長だが、今回は順位にお咎めはなく、来年の期待と、先程ハベンスキー学院長が話したランディに対する説明を要求された。


 ハベンスキー学院長は当然全てを話す事は出来ないと思い、ランディの功績の中でも驚きの少なそうな物を選んで話した。



 慣れた人物に大しては無礼であること。

 剣を持つと、嘔吐して倒れること。

 昨年の回復魔法の修得率100%は、ランディの功績であること。

 そのランディは、既にグランヒーリングを連発出来、魔力総量はあのマキナス・ルードマイヤを軽く凌駕すること。

 一年生、二年生の中では、エリートコースの生徒を抑えて、戦闘技能No.1であること。

 商人コースでも、成績はトップクラスであること。


 その情報だけでも、メッサー侯爵を充分に驚かせ、情報を得ていたウエストコート公爵すらも驚いていた。



 メッサー侯爵は、今初めて学院長を人間相手の目線で話した。

 今までは、害虫を見るのと同じ目線だったからだ。


「あの回復魔法コースの偉業は、前学院長マキナス・ルードマイヤの功績ではなかったのか……それにランディと言う生徒の凄まじい功績、(いささ)か信じがたい話だな」


 そこで、ウエストコート公爵が口を挟む。

「メッサー卿、少なくとも半分は事実だ」


「えっ? なっ! 公爵様!?」


 ハベンスキー学院長の驚く様に、気を良くしたウエストコート公爵は、

「私にも学院の情報網くらい持っている」

 と、ニヤリと笑った。


「しかし、剣を持てないとは、ある意味驚きだな……魔力総量も私が得た情報より多そうだ……学院長よ、彼が三年になる時に、報告をメッサー卿に渡せ。

  メッサー卿、次回から学院の報告は私も目を通したい。頼む」


「御意!」

 メッサー侯爵は、ウエストコート公爵からただならぬ気配を感じていた。


 しかし、ウエストコート公爵の頭の中では、こうなっていた。

(ランディ・ダーナスよ、我が娘に釣り合う器か確かめてやろう。もし、少々出来る程度ならば、エリザの将来の為に、行方不明になって貰うか……)



 こうして、色々な人々が『八武祭』を中心に、様々思惑が入り乱れていた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 丁度そのエリザこと、エリザベート・フォン・ウエストコートは、従者の密告で『ボヤンキーとランディが楽しそうに露店を歩き回っていた』と情報を入手していた。


「ボヤンキー! お前は何故縛られているのか、解ってるのかしら?」


「いえ……エリザお嬢様、私は何も」


「嘘を(おっしゃ)い!!」

 バチーン!!


 ハリセンでエリザに思いきり殴られるボヤンキー。


「お前……私を差し置いて、ランディとデートしていましたね。 しかも非常に楽しげだと聞いています」


「なっ!? エリザお嬢様、それはまっかな嘘でござい……」


 バチーン!!

「わ、私に向かって、嘘を吐くなんて……覚悟なさい!」


 バチーン バチーン! バチーン!!


「ハァハァ……これは便利な道具ですわね。 名はなんと言ったかしら?」


 エリザの付き人の一人が答える。


「それは『ハリセン』と言う、かなり殺傷能力の低い武器です。 本気でお怒りになった時に、しかし怪我を負わせられない事情でも、思いきり殴れる代物……ウエストコート高等学院の生徒が開発したと聞いています」


「確かに、まだまだ叩き足りないけど、スッキリするわね。メイ、これを1ダース注文しておきなさい」


「畏まりました。 エリザお嬢様」


「さて、ボヤンキー。 私を差し置いて遊んでいた罪は、この程度ですみませんことよ?」


「エリザお嬢様、これには訳が……ぐあぁ!」


 バチーン! バチーン!!


「エリザお嬢様、誤解であります。聞いて……ぐおぅっ」


 ビチーン! バチーン! バシーン!!


 ボヤンキーは、エリザの気が済むまで殴られていた。



 嫌いな人物に笑顔で食事を振る舞い、所持金が枯渇するほどタカられ、(あるじ)には遊んでいたと誤解され、他の従者が見守る中、半裸状態で叩かれまくっている不幸な男、ボヤンキーだった。



次回未定です。

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