【49話】続、八武祭見学
冒頭に、別視点が入ります。
ボヤンキー視点
エリザお嬢様の予想どおり、あの魔物は、八武祭の視察に参加していた。
かなり遠目からではあるが、床に吸い込まれるように消えたのも見た。
やはりエリザお嬢様と、会わせるわけに行かない。
しかし、試合前日、一日目、二日目と全く見かけなかったあの魔物は、三日目の昼を境に見かけるようになった。
そして、今も他の少年達と楽しそうに話をしている。
魔物の正体を知らなければ、私でも微笑んでしまう光景だった。
あの魔物は、我々が苦戦するほどの暗殺者達を、圧倒的な力で打ち破り、私が手加減して攻撃したのにも、かかわらず本気でやり返してきた、大人げない魔物。
しかも、私一人だけ回復魔法をかけて貰えなかった。
ギリリ……
思いきり噛み締めたせいで、口の中から血の味がする。
それもあの魔物のせいだ!
力んでいたら、エリザお嬢様が魔物の方に向かって歩いているのを発見した。
不味い……不味いぞ。
キョロキョロとしている様子から、まだ見つけてはいないだろうが、進んでる方角が不味い。
このままでは、エリザお嬢様があの魔物と遭遇してしまうではないか。
私は全力で走った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ランディ視点
八武祭を見学していたら、突然知らないおじさんに声をかけられた。
「ランディ君、ランディ君じゃないか、久しぶりだな」
「おじさん。誰?」
おお、知らないおじさんの額に『#』の文字が、まさか、僕の知ってる人?
「私はボヤンキーだ、思い出したかい? 積もる話もあるし、移動してゆっく話そうじゃないか」
と、別の場所を差す。
残念だけど、知らないおじさんの話に魅力を感じられないんで断ろう。
「え、やだよ。 これから僕が所属する学院の試合いが始まるんだから」
「そんな、急いでるのに……」
ゆっくり話したいと言っておいて、急いでるとか誘拐犯か、なんかですか?
「そ、そうだ! ランディ君はここは初めてだよな? ここは多くの人達が来る……そのせいか、色々な美味い食べ物が露店に並んでいる、今だけなら時間が空いているから食べに行かないか? 勿論金の心配はしなくていいぞ」
「えっ、ほんと? 付いてく! 」
この時、一瞬 日本人だった頃の記憶が甦る。
『ねえ、ボク。あっちにオイシイお菓子がたくさんあるからオジサンと、一緒に行かないかい?』
『えっ、ほんと? 付いてく!』
そんな光景を見て、親の教育はどうなってんだ?
と嘆いた場面を思い出した。
だが、あれは親のせいじゃなかったね。
本人の問題だわ。
だが、そんな記憶は棄てまして、知らないおじさん『ボヤンキー』と一緒に露店巡りに行くことにした。
そう、僕の直感が訴えているんだ。
こいつはタカれると。
もし、誘拐だったとしても欲求不満の解消になるし、おじさんが言った言葉の『奢る』に嘘は感じられなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
僕の直感は正しかった。
ここら辺に建ち並んでいる露店の食べ物は美味い。
少々割高感があったが、スポンサーがいるので問題ない。
そして、僕の本能が訴える。
『このおじさんなら大丈夫、いくらでも奢って貰え』と。
僕は、さんざん食べまくり、満足しておじさんと別れた。
おじさんが半泣きで、小袋を覗いていたのが目に焼き付いたが、不思議な事に罪悪感がない。
次に出会った時には、僕が奢るからね。
心でボヤンキーおじさんに感謝した。
でも、次に出会うのは三年後くらいがいいかな。
だってその頃には、あの呪文が使えるからね。
カティスが居るところに戻ると、もう試合が終わっていた。
「ランディ、いったいどうしたんだ? せっかく我が学院の初勝利だったのに」
「えっ? しまったぁ……見るより、食べるを優先してしまった」
「まあ、一人は補欠だし、あのリッツ教官も初めて指示を出していたから、見てて安心感があったよ」
えっ? リッツ教官、初めて指示って、本日は最終日ですが……今まで何してたの?
それに補欠って初耳です。
「ねぇ、カティス。 補欠なんていたんだ?」
「ランディは何も知らないんだね。聞いてなかった?」
うぅん、僕って騎士コースやエリートコースには滅多に行かないせいかな、全く八武祭関連の知識がありませんね。
聞くと、何らかの理由で戦闘不能になった場合のみ補欠を使えるって事です。
そして、はやくも八武祭、最終戦です。
対戦相手は『ズューデンバーグ学院』だ。
リッツ教官が何やら指示を出している。
唇を読んでみよう。
あっ本当に唇を読んでる訳じゃないよ?
たたずまいや、表情、仕草で、勝手にリッツ教官に成り代わって解説するだけなんでね。
解説スタート!
「ラディス、ダナム、○○○○、お前らはずっと魔力を温存させて、他チームを油断させてきた、試合開始直後に肉体強化のLV3を使って、慌てさせろ。 ラディスは鼻のでかい奴を、ダナムは目の離れた魚顔の奴を殺れ! ○○○○は、タラコ唇のアホ面した奴だ、いいな?」
僕のオリジナル感丸出しの、リッツ教官の物真似にカティスと数人が腹を抱えて笑っている。
試合開始直後、三人の猛襲に対処できず、短時間で、動かない鎧に包まれる。
しかし、うちのチームも二人ほど動かない鎧に包まれた。
僕は、そのうちの一人に注目した。
こいつの戦闘スタイルは、相打ち狙いの戦闘スタイルだからだ。
武器なしでの戦いなら、それもアリだろう。
しかし八武祭は、切れ味こそ全くないが、金属製の武器を使用している。
当たりどころが悪ければ一発で戦闘不能になることだってある。
なのに、こいつは相手が避け難くくなるためだけに、相打ちに持ち込んでいる。
ダメージを数値化するならば、50のダメージを受けて、35くらいのダメージで返してる、そんな感じに見える。
だけど、動かない鎧に包まれたのは相手の方だった。
こいつ、HPが異様に高いぞ。
そう言えば、どっかで聞いたことあるな。
なんだっけか……
そうだ! たしかロイエンと、セナリースが言っていた『第四のギフト』だ、あの二人はHPの有り余る僕に向かって『第四のギフト』を疑っていたんだっけ?
僕は、こいつの事を覚えておく事にする。
結局こいつのせいで、苦戦したけど、トップギア全開の、ラディス、ダナム、と後一人のおかげで勝利をもぎ取る事ができた。
それに、名前は覚えてないけど、ダナムの兄貴もそこそこ強かった。
今度、名前を聞いてみようかな。
こうして、僕の八武祭見学は終った。
さあ、来年が楽しみだ。
次回、三人称で書く『其々の思惑』(仮)
これからも、ヨロシクお願いします。




