【47話】ウィルソン・フォン・アルカディア
私は『ウィルソン・フォン・アルカディア』
アルカディア王国の国王だ。
毎年行われている、我が国の祭『八武祭』開催の時期が来た。
今年は第三王子のロベルトも八歳になったから、『八武祭見学』のローテーションに入れる事にした。
しかし、目的地まで後数日というところで、謎の毒に我が国の騎士達が侵されてしまった。
その毒は、解毒しても解毒しても数刻経過すると再び牙を剥く。
王宮治療師を三人も連れていたのに、 打つ手が無かった。
幸か不幸か非戦闘職の者達は被害が少なかったが、我が子ロベルトが謎の毒に侵されてしまった。
一国を代表する『王』としては情けないが、私と妻はロベルトが苦しむ姿を見ていられなかった。
助けを呼ぶにも、騎士のほぼ全てが、まともに動けない状態で対策の打ちようもない。
そして、王宮治療師達が魔力の枯渇で気を失って、神に祈った時、彼らが来たのだ。
一人は御者兼料理人(実際は護衛)で、もう一人は高等学院の教官だった。
最後のは一人はロベルトと二・三年しか離れていないと見える少年だった。
幸なことに、希少な回復魔法使いが二人もいたのだ、二人もいればロベルトに効く『デトックス』の使い手もいるだろう。
予想通り、一人の少年がロベルトを治してくれた。
だが、ここから先、信じられないほどの出来事が起こった。
高等学院の教官が『魔神の加護』を持ったギフト持ちで、王宮治療師にも何人かは、魔神のギフトを持っているが、魔力総量1000を超える者は一人しかいない。
何で、高等学院の教官程度で満足してるのだろうと思っていたら、マキナスと言う男は生徒の指示で治療を始めた。
「マキナスジジ……教官は魔力総量が少ないから、これをお願い……」
と、とんでもない事を言ったのだ。
マキナスから少年の事を問いただしたら、彼の魔力総量は3000を余裕で超えると聞いた。
ば、バカな……と思ったが、少年はこの日、八十名を超える騎士達の解毒をあっさりとやってのけた。
騎士の半数は二種類の解毒魔法を併用しなければならないのに、百回以上の解毒魔法を使ったのだ。
マキナスの言に偽りは無かった。
私はこの時を境に『ランディ』と呼ぶ事にした。
その後、ランディは『統計』を取ると言って一人一人に状態を聞いて回っていた。
木簡を使い、その中に『正』の、文字をたくさん書いている。
あれにはどんな意味が……
だが、それは私の従者が数を数える物だと教えてくれた。
私の国では、数を数えるのは一から五まで『┃』『┃┃』『┃┃┃』『┃┃┃┃』『╋╋╋╋』の順だ。
そして、十人ならば『╋╋╋╋ ╋╋╋╋』
しかし、ランディの方式で数えるなら『正 正』ですむ。
どちらが便利かなんて一目瞭然だ。
『ウエストコート』はそんな画期的な物を教えていたのか? 何故中央に知らせない! とマキナスを見たら『あんのガキィ、解毒魔法の他にまだ、隠し球が有りやがったぁ…………』などと。
ランディは間違いなく、回復魔法コースでトップクラスだろう。
だが様子を見るに、商人コースでも上位に入る筈だ……
だが、私はこの事で違和感を覚えた。
マキナス、ランディの目的はどう見ても『八武祭』だ。
ならば、ランディは八武祭の参加者の筈だ。
と、言う事は回復魔法使いの中でも、良い動きをするに違いない。
何故なら、八武祭では優秀な回復魔法使いは、狙われやすいからな。
マキナスを捕まえて、その事を聞いたら、ランディは何と二年生で、来年のために見学に出向いたという。
しかも『来年に期待してください』とまで言われた。
あの連続最下位の『ウエストコート学院』にだ。
しばらくすると、ロベルトの痛みが再発してしまう。
ランディを呼び出し、来てもらったところ、彼は新しい解毒魔法を使いたいと言ってきた。
周りは騒いだが、私には何故か彼の事が信頼できた。
許可を出した時、彼の発した言葉は今も鮮明に覚えている。
『第3レベル呪文……ライトキュア』
何なのだ? 今の魔法は……なんなんだぁ!!
しかも『デトックス』より回復が早いだと!?
欲しい……このランディと言う少年、欲しいぞ!
『学院』の者を直接的に引き抜くのは、ルール違反だが、非公式の場だ……勧誘くらい良いだろう。
私はランディを中央……いや城に来ないかと勧誘したが、あっさり断られた。
あの人見知りするロベルトが『ランディ兄ちゃん』と言って、なついている。
妻も私も、その姿に目尻が下がってしまう。
だが、あの笑顔が数刻もすれば、痛みに歪んだ顔になると思うと胸が張り裂けそうになる。
ランディは色々と聞き込みをして、打つ手がないか、考えてるようだ。
不思議な事にその後ろ姿を見て、年端もいかない少年に見えなかった。
もう何度驚いた事だろう……今回の遠征で私の筆頭護衛のジョーシンが、毒による痛みの再発が起こらないと、報告に来た。
『第3レベル呪文……ライトキュア』
あの魔法が毒の完全回復をもたらしたのか……
欲しい……ウエストコート公なら交流がある。
根回しをするか……と思ったら、ランディの胸から覚えのあるペンダントが見えた。
聞くと、それは『エリザと言うお姉さんを助けた時に貰った』と言う。
その不格好なペンダントは、私の敬愛する伯母の作った物に間違いない。
ならば『エリザ』とは伯母の孫娘で、ウエストコート公の長女『エリザベート』の事だろう。
なら、ウエストコート公の許可なくして、ランディを引き抜くのは無謀か……
私はしばらく考え込んだ。
……
…………
時間を置いて、ランディを探していると、彼は毒の原因を突き止め、下痢嘔吐で苦しんでいた者らを治していた。
ランディは神の子に間違いない、と彼を見つけたとき、事もあろうか、我が騎士団の精鋭達を楽しそうに煮込んでいた。
もしかしたら、悪魔の子なのだろうか……
◇◆◇◆◇◆◇◆
ランディの功績により、八武祭に間に合うよう出発出来た。
彼の治療法で治せなかった者らは、謎の回復魔法で二日かけて治療すると言う。
この事件は、私の名を使って秘密にしておくことにした。
彼を手に入れるには、必要な処置だと判断した。
彼の真価を隠しておけば、根回しはウエストコート公と、学院に絡む侯爵の一人か二人で済むからな。
ランディなら、ロベルトの宮廷教師役をしつつ、様々な仕事をこなせよう。
クククッ、たかが一人の人材で、こんなに心踊るとは、私もまだまだ若いな。
今年の八武祭が終わったら、急いで始めよう。
便利で面白くも頼りになる少年『ランディ捕獲作戦』を!
お気づきかと思いますが、この国の王様は、絶対的な権力を持っていません。
王様も、国の決めた法に従って動いています。
法を超えて動く場合は。投票制度を使い、八公爵(現在は六人)と宰相、王の弟(次男)が一票、王が三票ぶんの票を持っています。
次回は八武祭見学です。




