【43話】戦争の講義~八武祭へ
諸事情があって、遅れました。
傭兵コースの教官から聞いた講義の中身は、戦争の話だった。
レジーナから、僕が生まれる少し前に、大きな戦争があったって事は聞いていた。
だけど、今聞いている教官の講義で、戦争について、更に詳しい話を聞く事になった。
僕がいる国は『アルカディア王国』なんだけど、この国は毎年、隣国『アカシア王国』と戦争をしている。
その戦争は何十年と続いているらしいんだ。
何故そんな大戦争を繰り広げて、今まで気づかなかったんだろう。
まあ、その理由も直ぐに分かった。
アカシア王国との戦争は、毎年決まった時期に行い、長引く事はなかった。
戦争を仕掛けるのは、決まってアカシア王国側で、
作物の収穫が終わった時期から始まるって話だった。
毎年小競り合いで終わる戦争だが、四年に一回だけ、決まって戦争が拡大する。
理由は、アカシア王国の首脳陣が四年単位で再編されるかららしい。
アカシア王国の戦争の理由は、出世が主な目的で侵略じゃないのかも知れないな。
双方、数万の兵が投入されるが、小規模の年だと死者が合わせて百人未満のまま、撤退する事もあると聞いた。
なんて、この世界の戦争は、民に被害がほとんどない事に感心していたら、教官が妙な事を話し出した。
「このままでは、来年は大きな戦争が予想されるが、少し以前にアカシア王国で奇妙な軍の動きがあったんだ、収穫期前に虚を突かれ慌てた我が国は急いで兵を集めたが、杞憂に終わった。 彼らはなんと、六年間の休戦協定を結んで来たのだ。 警戒は解いてはいないが、我が国は休戦協定を受け入れ、しばらくの平和が続くと言って良いだろう、貴様らはその時間を有効活用して、一人前の傭兵になるがいい」
教官の話は解ったが、アカシア王国の六年間の休戦協定がやたら引っ掛かるな、喉に刺さった魚の骨みたいに、不快に引っ掛かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
新学年になって、数ヵ月経過した。
一年生回復魔法コースの回復魔法習得者がアリサを含めて三人しか習得していないらしい。
遂に僕にお呼びが掛かってしまった。
名前を忘れたけど、あの教官は凄く調子に乗っていたんだよな。
今や『無能教官』って、キツネさんや他の教師、生徒達にまで言われている。
あっ『キツネさん』とは学院長代理の事ね。
本名は覚えてません。
最初は意気揚々としていた『無能教官』さんも、(この人も名前を忘れました)次第にやつれて行くのが目に見えて判りました。
哀れ……
アリサは三つの魔法の素質を持っているから、ブイブイ言わせてるのかと思ったら、外面は良いみたいで、僕と同じように商人コースや傭兵コースに足を運んで、毎日頑張ってるらしい。
そんなアリサも、学食を食べている時はお姉ちゃん化してしまう。
「ランディ急いで食べ過ぎだよ? もっとゆっくりしなさい」
レジーナも暇を見つけては、僕の隣に座ろうとする。
レジーナさん? あなた仕事は?
でも、レジーナとアリサを見るとちょっと昔を思い出してホッコリしてしまう。
何せクラリスが引きこもってる間は、レジーナとアリサの三人で食事を取ることが多かったからな。
僕は宴会が好きなのだが、こういった家族とのまったりとした食事に幸せを感じて、戸惑いを覚えた…………つもりだけど、ギャラリーが多くて現実に引き戻されました。
レジーナとアリサは人気者なのかな?
~
彼には自分自身が注目されている、と言った自覚はないようです。
~
◆◇◆◇◆◇◆◇
毎日の訓練は楽しい……いや、リッツ教官に、負けっぱなしは悔しいが、訓練だから、クレリック呪文を使うのは躊躇われる。
そして楽しい時間は、時の流れを早く感じさせる。
いつの間にか『八武祭』の時期が近づいてきた。
何時ものように、学院長室でお茶会を開いていたら、ハゲジィが話しかけてきた。
「今年は、リッツ教官がやる気を出してくれて助かった。 私の寿命が一年延びたかな?」
「学院長、教官が真面目になった程度で何を安心してるんです?」
「そうなんだが、今年は三年生が優秀だし、四年生も頑張ってるし、なんとか最下位にならずにすむだろ? あと今年はランディ、お主も『八武祭』見学に行けるぞ」
「えっ? やったぁ! 面白そうですね」
僕とハゲジィが話に花を咲かせていたら、突然マキナスジジィが爆弾発言を落とした。
「今年は、ワシも見学に行くぞ! 」
「えっ? 先輩、自分の仕事は?」
マキナスジジィの言葉にハゲジィは友達モードになって、話している。
一応気を使ってか、普段は『マキナス主任』と呼んでるのに。
「出来るだけ、終わらせる。出発には間に合わないかも知れんが、八武祭には間に合わせる! 」
いつも暇そうにしていたマキナスジジィも、ちゃんと仕事があるらしい。
僕、一年間も気づきませんでした。
「じゃ、お一人で行くのですか? 大丈夫ですか?」
心配そうなハゲジィだ。
一応は平穏そうな国だけど、盗賊や猛獣は普通にいる。
通過する場所によっては一人旅は『超』が付くほど危険だ。
アメリカのスラム街を武器無しで、ほろ酔い歩きしているような物だ。
ただ一部の街道は安全性が高いと聞いた事があったけど……
「もう、ワシが近道をするのが読めているのか……流石じゃな……しかし護衛の一人くらいなら用意できるじゃろ? それにランディもいるし問題ないわ」
「「えっ!?」」
僕とハゲジィが、ハモった。
「ちょ、ちょっと先輩? ランディもいるってあなた……」
「なに、当たり前じゃろ? 真面目に仕事をしたら、お前とは出発が十日も遅れる。 近道は少々危険度が上がる。 それに知らん奴と旅だなんて、ワシが寂しいわ」
「はぁ、要するにマキナスジ……マキナス教官のワガママなんですね」
こうして、僕の『八武祭』見学は、みんなと一緒には行かずに、一週間遅れてマキナスジジィとプラス一名の三人で出発することになった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
こうして、ランディとマキナスの旅が始まった。
だが、この旅は波乱を一つ呼び込む旅となったのを彼らはまだ知らない。
……
…………
ランディとマキナスが出発してから、数日後……
◇とある湿地帯◇
「な、何なんだ? これは呪いなのか? 」
男は、目の前の状況を見て、顔を歪める。
屈強な兵士達が、痛みに耐えきれず、のたうち回っている。
「誰か、助けてくれ……誰かぁ!!」




