【40話】ランディ、回復魔法の習得の秘密を知る。
元王宮騎士で、戦闘教官序列一位のスクット・リッツ教官が、僕とこれからやり合うことになっている。
ラディスの話じゃ、リッツ教官は元王宮騎士。
元王宮騎士ならロイエンを確実に上回る戦闘能力の持ち主だ。
今の僕じゃ勝てないのはわかる……だけど自分の力を引き上げるチャンスだよね。
「さあ、報酬は払った……いくぞ、ランディ」
このリッツ教官が話す言葉の意味が解らん。
『報酬』は後日、ランディを叩きのめして楽しむ代わりに、真面目に教官の仕事をするって意味だったのを知る事になる。
「まずは、その長物は踏み込まれたら無意味と知れ」
一気にリッツ教官が肉薄してきた。
速い! いきなり踏み込まれた……まさか、通常のガルより速い? あくまで通常のガルだけどな。
~
ガルとは、転生前のランディの仲間の一人で、移動速度、反射速度がNo.1の人間? である。
~
僕は棍を七対三の位置を支点にして、短い方でリッツ教官の眼を狙って振った。
リッツ教官は瞬時に動きを止めて、僕の攻撃を空振りさせる。
その止まった瞬間を利用して、長い方で首を狙う。
ブォン! 空振った……もう教官が振りかぶってる……半身をずらして、何とか避けたけど、もう次の攻撃が来てる……反撃する余裕が無いです。
リッツ教官の四回目の攻撃は、棍で何とか防いだと思った瞬間に軌道を変えられ、持ち手に当たってしまった。
ぐう、右手の指が折れたか……僕は左手一本で仕掛けるのをやめ、右脇で棍を挟み込んで、体ごと回転して薙ぎ払った。
リッツ教官は驚いた顔をしながら、バックステップする。
あっこれも避けるんだ……もう、あの反射速度は反則だわ……
「グランヒーリング」
「ぬ? させるかっ」
リッツ教官残念ですね……僕は発動の瞬間だけ手を使うから、もう回復確定なんです。
だが、この行為が失敗だったなんて、僕は気づかなかった。
リッツ教官が『ドS』モードになったんだ。
「次はもっと厳しく責める」
リッツ教官、漢字が違ってます! 『攻める』ですよ?
そんな楽しそうな顔は止めてぇ!
「オラオラ、戦場で気を抜くと直ぐに死ぬぞ?」
ここは、戦場なの? はじめて知りました。
「ほう、これも避けるか……もう少し厳しくするか」
いっぱいいっぱいなんですけど?
そして、足払いを受けて無様に倒れる僕。
「オラッ! まだまだ終わらねぇぞ?」
倒れざまに、渾身の一撃が頭部を狙う。
僕は、身体を回転させながら、辛うじてリッツ教官の攻撃をかわした。
ねえ? 今の避けてなかったら、死んでた? 死んじゃったよね?
「まだまだ、終わらないぞ?」
スタミナがガリガリ削られるんだけど……
……
…………
「はぁはぁ、よし! 今回はここまでだ」
「あ、ありがとうございました」
僕は無礼だけど、倒れたまま挨拶をした。
みんなは、同情の目で僕を見ている。
「よう、おめぇら! キチッとやってるか? 少しでも手を抜いていたら、こうだからな?」
倒れてる僕を指差している。
みんなが、超真剣に同じ型を振り続けている。
「なんだ、残念……真面目にやってんな……今のランディじゃ少々物足りないな。 フラット! 貴様も鍛えてやろう……油断したらめちゃくちゃ痛い目に遭うから気をつけな」
「リッツさん、提案があります! 一対一じゃあ命がいくつあっても足りないので、ランディと二対一でお願いしたいのですが?」
おおぃ、今しがたリッツ教官にボッコボコにされてダウンしてる僕を、生け贄にするの? 酷くない?
「ははっ、俺もまだまだ頭の回転が悪いな……そんなステキな作戦があったか……肉体強化魔法も久しく使ってないしな。 さあ、お前ら二人はどのレベルまで耐えられるかなぁ。 あっ因みに俺の肉体強化はレベル8までイケるからな?」
ドサッ。
戦う前から両膝を地につける、フラット教官。
二対一の戦闘は、更なる地獄の幕開けだった。
こうして、僕の一年生生活の大半を命懸けですごす事になった。
ただ、フラット教官とは同じ死地を歩んだ事で、奇妙な友情を感じるようになった。
それは、フラット教官も同じ事を思っていたって聞いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
僕は今、マキナスジジィの実験に付き合っている。
別に金属の身体になるわけじゃないぞ。
実験と言っても、大量の実験体に回復魔法を覚えさせるだけなんだが、あんまり僕の出番はない。
何故かと言うと、今回回復魔法を教えるに当たって、教官はマキナスと僕を含めて四人もいる。
で、一人あたり十人の生徒を受け持つ事になった。
僕は初日で九人の生徒に『ヒーリング』を覚えさせた。
入学当初より、覚えさせるのが早くなってないか?
そして、この実験をしてから二ヶ月が経過した。
結果は、こうだった。
教官Aは、無し。
教官Bは、一人。
マキナスジジィは、三人。
僕は、二日で十人全員だった。
マキナスジジィと二人きりになった時に、この結果でマキナスジジィの仮説を聞いた。
「魔法の習得には、本人の素質が大半をしめるのじゃが、例外が有るのを見つけた。 それは、教える側の魔力総量じゃ。 『A』は魔力総量200程度、『B』は魔力総量600弱、ワシの魔力総量は1000と少しじゃ。 そしてランディは3500を超える。恐らくじゃが、今は4000に近いとワシは見ている」
僕も何となく気づいた。
「ほう……ランディは気づきおったか。 そうじゃ、恐らくだが、教える側の魔力総量で、魔力の流れが読みやすくなるのじゃろう。 それも500単位でな。しかし、魔力総量2000を超えると加速度的に習得率が上がるな」
「マキナスジ、教官……最初だけ『500』『1000』と500単位で、後は『2000』『3000』と1000単位かもしれないですよ」
と言ってみた。
「その可能性もあるかも知れんが、そんな魔力総量があるやつを集められんわ。大体一般人は魔力総量が250もあれば優秀なんじゃ、少年時代に鍛えても400を超えるやつは希少じゃ……お前がおかしいんだよ過去に『魔神の愛』のギフトを持った者でも、魔力総量が2000を超えた者が、いたかどうか」
なるほど……
「で、実験に付き合ってくれた人達は、どうするのですか?」
ちょっと心配してみた。
何せ、貧しい平民や農民出身の人達は『ヒーリング』を習得しただけで、生活に潤いが生まれる。
「ああ、ランディが受け持ったやつは、『デトックス』を学ばせて、習得出来たのは三年に、未習得の者は二年生として、復学がきまっておる……残りの者は二年生に復学予定じゃが、一部の者は家の都合で無理じゃな……だが、就職先は斡旋しておいた」
なるほど。
「用意周到ですね。でも僕にも『デトックス』教えてくれませんか?」
「まあな……で、未習得の者たちに『ヒーリング』を教えてやってくれ、そしたら『デトックス』も教えてやろう」
「解りました、そうと決まったら、指を折りまくりますか」
「……他にやり方はないのか?」
そうして、僕の学院一年生生活も終盤を迎えた。
次回は日曜日の予定です。




