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【36話】ランディのいない八武祭

 ◇学院長室◇


 回復コース担当教官主任のマキナス・ルードマイヤは頻繁に、この部屋を出入している。


 だだでさえ暇な回復コースの主任職なうえ、一学年での必須項目はすでに生徒全員が修了していて、さらに時間が空くようになった。


「バケスキー、何をそんなに喜んでいる? 」


「ハベンスキーだっ! …………そうだっ、上から臨時予算の使用許可が承認されたんじゃ……ほらっ」


 書簡をマキナスに手渡す。


「ほう、よくこんな額の予算が下りたな……」


「ああ……これで過去に遡って回復魔法を覚えられず学院を去った生徒を集められる。」


「この金額なら、100……120人は集められるか?」


「いや、近場を中心に過去三年までしか遡らない……で、予算はこう使うんじゃ……」


「ふむふむ……むっ? この基本報酬は出来高報酬とは、なんじゃ……まさかハベンスキー、ランディに教官並み……いや、出来高報酬も入れるなら、教官酬以上の報酬を与えるつもりか? 」


「勿論だ……マキナスの言いたい事は分かる……一年の、生徒が高額報酬を貰うのは、前例では無い……だけどな……私は大きな手柄は、貴族達が旨い汁を吸って終りになる仕組みが好きじゃないんだ……」


「バケスキーよ……お前そんなに頭が柔軟だったか?」


 首を傾げるマキナス。


「実は、二年前……そう、侯爵様のいびりによって、すべての髪の毛が消え去ったあの日『サウスコート学院』の学院長が慰めてくれた時に、聞いたシステムなんじゃよ……大きな功績には、学院が独り占めしないで、生徒にも還元させるって……マキナスが引退した後の話だから、知らんだろうが『サウスコート』出身の生徒が、両手で同時に発動する攻撃魔法を開発してな……卒業と同時に『サウスコート高等学院』の教官に収まった……中央の勧誘を蹴ってな……彼は、生徒の頃に両手攻撃魔法開発の報酬を貰っていたんだ……」


「なるほど、バケスキーの、ハゲの由来はそうじゃったか……」


「えっ? 感心するとこ、そっち!?」


「じゃがの……ランディは個人部屋の入手で満足しておるぞ? 素直に受けとるたまか?」


「それなら、それで私がランディの財産として預り、卒業時に渡すから問題ない……マキナスは楽しい玩具程度の認識だろうが、私にとっては命の恩人……さらに二年後の希望の光なんじゃ……『今年は一年に天才が二人もいるから二年後を楽しみに待ってくれ』と公爵さまや侯爵様にお願いするからな……期待してるんじゃランディには……」


「わかった……今年の『八武祭』安心して逝ってこい…………貴様の意思はわしが継ごう!」


「話……聞いてる? マキナス先輩?」


 ……

 …………


 十数日後、ハベンスキー学院長は『八武祭』に出場する生徒達と将来有望な二年生数人を連れて、『八武祭』の開催地に向かって旅立って行った。


 マキナスが所持している見送りの旗には『騎士道とは死ぬこと見つけたり』と書かれていた。


「私はまだ死なんし、騎士でもないわっ!!」


 この単文の発案者は、マキナスが頼んだ謎の少年だったと言う。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 ◇八武祭、会場◇


 アルカディア王国領、某所にある大会場の貴賓席には、最前列に九つに区分けされた、十八席があり、その後ろには三十六席が置かれている大広間がある。


 中央には、国王が()す王座があり、向かって左側に『イーストコート』『ウエストコート』『サウスコート』『ノースコート』向かって右側に『オステンバーグ』『ウェテンバーグ』『ズューデンバーグ』『ノルデンバーグ』の、左右四席づつある。


 しかし、その内の二席は空席だ。

 理由は公爵の家名を手にする程の、功績や血筋の有る大貴族がいないからだ。


 しかし、各学院の運営は実質、担当の侯爵が取り仕切っているので、大きな問題は無い。


 今年も『ウエストコート公爵』とその妻は、早くも顔を下に向けていた。


 理由は他の貴族達に、嫌みと憐れみの言葉を多く頂いていたからだ。


 八武祭はまず一回、対戦相手の順番を決めるため、遊びに近い競技を実施する。


 その対戦相手の決め方は毎年ルールが違う。

 

『腕力測定』『二人三脚』『魔力総量』『中距離競争』等、数えればきりがない。


 今年は、王宮騎士(ロイヤルナイツ)が一対一の模擬戦をしてくれて、順位を決めていた。


 初戦は一番と八番・二番と七番・三番と六番・四番と五番で、団体戦闘をする。


 そして、この初日を含む計四日間を使い、大リーグ戦を繰り広げるのだ。


『ウエストコート高等学院』は王宮騎士との模擬戦で七番の順位を手にしたが、二番の『ノルデンバーグ高等学院』に恥ずかしい程のボロ負けを喫していた。


 監督のスクット・リッツは、つまらなそうに鼻をほじって奥に座っている。

 助監督は、しきりに『踏ん張れ!』『下がれ!』や『今だぁ!』と声を大にしているが、遅出しの指示か、的外れの指示だった。




 会場の観客席では、エリザベート・フォン・ウエストコートが御忍びで一般貴族席に出没して、ランディを探していた。


 エリザは一つ、仮説を立てていた。

『ランディ』とは、将来立ち上げる商会の名前で、本名は別に有るのではないのかと……


 だが、『ウエストコートチーム』の戦いを見ても彼らしい姿を見つける事は出来ない。


 あからさまに落胆したエリザは、席を立とうとした時、隣の話声を偶然聞いて立ち止まった。

 その会話はこうだった。


「不甲斐ない……俺様の先輩達はこんなに弱いのか? 」


「連携もなっていないね……今回の四年生は不作だよ……二年の私達と実力がほとんど変わらない……」


「ああ、ランディが参加してれば、絶対に戦局が変わるぜ、なぁラディス?」


「ダナムよ……いくらランディでも、一人じゃ何も出来ない。 だが、私とダナムが今より強くなれば……」


「ああ、そうだなあっ!? なんだ? お前は」


 ダナムとラディスの会話はそれ以上続かなかった。


「今の話を詳しく! もっと詳しく!! 詳しく話なさい!!!」


 エリザベートは忍ぶ立場を忘れ、二人に物凄い形相で掴みかかっていた。

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