【35話】最弱教官モーブとザーコ
ダナムが僕に声をかける
「ランディ、傭兵コースばっかりじゃなくて、こっちにも来いよ……」
「いや、エリートコースなんて行きたくないし……」
あれからダナムは、フレンドリーになった……いや、決闘翌日は敬語だったけど、お願いと言うか命令というか……とにかく僕に声を対する敬語は止めてもらった。
ダナムはそれほど自分の行いを反省はしていない、ただ僕が強かったから、僕に従うって感じになったようだ。
ダナムの中では、強者が全てなようだ。
ダナムの事がきっかけで、僕は1・2年生の全クラスに入れる許可が下りたみたいだ。
当然頼んだのは僕じゃないけどね。
あれから、ダナムの友人と思われる、ラディス・ノートンと、その弟のカティス・ノートンとも交流ができた。
今日はカティスたっての願いで、1年の騎士コースが集まる時間帯の訓練所に行く事になった。
今日、僕はそこで2人の教官に、絡まれる事になったのだ。
カティスの戦闘技術は素晴らしいの一言だった。
力任せのダナムや、速度頼りのラディスより、光る物がある。
僕の棍捌きは、100年以上も費やした修業で身につけたものだ……だから僕を基準にはしない。
カティスの技は、11歳の子供が身に付けられる技術じゃない……ちょっと、嫉妬するな。
カティスは攻撃を武器を使って防ぐ事を極力しない……縦の攻撃には半身をずらし、横の攻撃には斜め後ろに下がる。
カティスは西洋剣より、刀のように切れ味重視の武器が合うかもな。
だけど、基礎能力は年齢プラス2歳程度なので、ダナムにも、ラディスにも勝てない。
僕はカティスに、教えるように模擬戦闘を繰り返した。
そんな時、僕に話かける声がした。
「お前が、最近調子に乗っている、ランディ・ダーナスという小僧か……」
「回復コース出身で強いからって、調子に乗り過ぎだな……」
な、なんなんだ? 明らかに教官と思われる姿なのに、やられキャラのオーラを纏ったこの2人は……
僕は心の声を表に出さないように、頑張って答えた。
「はい、僕がランディ・ダーナスです。失礼ですが、教官のお名前を教えて下さい」
よし、完璧な演技だ。
すると2人の教官は、さらに不機嫌になった様だ。
「教官の名前も知らないとは、失礼な奴だ……」
「失礼じゃなくて、無知なのだよ。私の名前は、戦闘教官の『モーブ』だ」
「同じく、戦闘教官の『ザーコ』だ」
「「わかったか?」」
「はい! 分かりました! 教官!」
モブキャラとザコキャラね、覚えやすい。
因みにランディは、どちらがモーブでザーコなのか、既に忘れていた。
「みんな集まれぇ!!」
モブキャラ教官が(実際はザーコ)騎士コースの生徒達を呼んでいる。
何するのかな……ワクワク。
「これから私とモーブ教官が、ランディと実戦形式の模擬戦をおこなう。ルールは簡単だ、手加減した我々が、交互にランディと戦う……それだけだ」
この時、何人かの生徒達はランディの体力の限界まで、いびり倒す作戦だと気づいた。
……
…………
「よろしくお願いします!」
「ああ……何処からでもかかってきなさい……んっ」
僕はこの教官が、肉体強化魔法を使った事に気がついた。
やっぱり大人は声に出さないんだな……
でも、左頭部が隙だらけですよ?
僕は予備動作を極力減らして、左側頭部めがけて攻撃した。
コン!!
あっ……棍で渾身の一撃は『コン!!』って音でした。
ドサァッ……教官が倒れた……
ちょっとぉ、油断しすぎだよ。
「何ぃ!? おい、モーブ大丈夫か?」
どうやら意識を数秒間、刈り取っただけみたいだ……教官がムクッと起き上がる。
「ああ、大丈夫だ……不意を突かれただけだ……」
「そうか、ランディ……卑怯なやつだ……」
あれぇ、何処からでもかかって来なさいって言ってたよね? ねっ?
「次は私だ……来いっ!」
卑怯者と言われるのも癪だから、手加減をする事にしよう。
……
…………
カン! カン! ブン! ……バシッ
「くぅ、まだまだっ!」
うん、まあまあ強いか……ダナムより気持ち強いかな? でも、ラディスには勝てないかな……じゃ、弱いか……
しばらく打ち合うと、
「次は私だ。休ませないぜっ!」
カン!、ブオン! カン!、バシッ!
「あいたっ! まだまだ……」
……
…………
さすがに大人の教官だけあって体力は有るな……
僕の推定では、僕の十分の一くらいのスタミナが有りそうだ……ハッキリ言って僕はスタミナ馬鹿なのだ。
「ゼー、ゼー、ゼー……モーブ代わってくれ」
「はぁはぁ、もう?」
「…………教官、休ませませんよ?」
「「ひえぇぇぇぇぇっ」」
ランディの遊びは、授業時間が終わるまで続いた。
僕はこの戦闘で、2つ気づいた事があった。
肉体強化魔法は、約20分でいったん切れる事。
ロイエンとセナリースは僕にそれを悟らせなかったな……あの2人って凄い?
そして、肉体強化を2回しか使わなかった事……もしかしたら思ったより魔力の消費が激しいのかも知れないな……
また、遊んで貰おう。
しかし、モーブとザーコは2度とランディに絡む事はなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
◇ウエストコート邸◇
ウエストコート邸の夕食は賑やかだ。
何故なら、特別な仕事でも来ないかぎり、家族全員で食事をするルールになっていたからだ。
「エリザ、メッサー卿から、書面を預かったぞ」
メッサー卿とは、アテーク・メッサー侯爵の事で、主な仕事の一つに『ウエストコート高等学院』の運営面での管理を行っている。
ウエストコート公爵は『八武祭』を除けば、殆ど関わる事がないのであった。
「お父様、それでなんて書いてあったの?」
エリザは服に食べ物がくっつきそうになるくらい身を乗り出す。
「これエリザ、はしたない……手紙には『八武祭』の参加者名簿には、ランディの名前は無かったそうだ……」
「うそ……嘘よ……そんな……」
泣きそうな表情のエリザを見て、姿も知らぬランディと言う少年に、軽い嫉妬と怒りを感じた。
ウエストコート公爵は、話を続けた。
「あと、学院側から臨時予算の請求があった」
「それが……何?」
エリザに予算など関係のない話だった。
「何でもあの学院に、回復魔法を無尽蔵に使う生徒がいるらしい……」
「!!」
エリザは顔を上げて、父親を見つめた。
「なんでも、その生徒を使って色々とやりたいから、臨時予算を使わせて欲しいって話だな」
「お父様! その生徒の名前はっ?」
「い、いや……書いていなかったが……」
エリザは、落胆しながら愚痴る。
「ああっもう……使えませんわね。 でも、きっと彼よ。 ああ、やっぱりいたんだわ…………メッサー卿の使者は。予算の決定権はメッサー卿でしょうけど、お父様から口添えはできますか?」
「ん? ああ……私が言わなくても予算は降りると思うぞ……なにせ、あの学院には私もメッサー卿も毎年恥ずかしい思いをしているからな……」
ふうっと、ため息をついて、話す。
「八武祭の観戦中に、格下の侯爵に哀れみや、同情の視線や言葉を随分受けたものだからな……メッサー卿など、日頃から学院長を事故に見せかけて始末したいと言っていたからな……まあ、メッサー卿に手紙をだそう、『その者、将来性有り、臨時予算の追加を推奨する』……でよいか? エリザ」
エリザは席を移動して、父親に抱きつく。
「お父様、大好き!」
「エリザ、食事中だぞ、はしたない……」
父親の顔は緩みきっていて、表情とセリフが、まるで合っていなかった。
「お父様、今年の『八武祭』には、私も参ります」
エリザの瞳は輝いていた。
次回水曜日、




