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【33話】ランディVSダナム

「これは、どういう事ですか? 先輩方……」


「あ? 見て分からない? 俺たちの服を汚したから、少しばかり仕返しをしたんだよ」


 先輩は僕を小バカにした口調で、挑発している感じがする。


 たしかに怒りに任せて、僕が手を出したら、どう転んでも僕が悪くなる。

なら、やることは挑発返し。


「ええ、その程度は見ただけで解りますが、やり過ぎじゃないのかと聞いているのに、理解が出来ていない見たいで……ふぅ……」


『小バカな態度返し』をしたら、四人とも『ビキッ』と音が聞こえるかと思うほど、表情が変わった。

 あれ? こいつ見た事ある? 僕はこの中で一番強そうな男を見て、何か思い出しかけたが、今はそれどころじゃない。


「まだまだ、足りないんだよっ!」

 先輩の一人が、水の入ってるとっての付いた桶をパルダ先輩にかけようとした。


 僕はそれをうまく逸らして、別の先輩に水を被せた。


「うわっ!? キサマッ!」


 先輩は、今すぐ殴りたいのを我慢しているみたいだが、我慢してるのは僕の方だ。


 パルダ先輩を見ると、びちゃびちゃに濡れた先輩はかなり可哀想に見える……沸々とした怒りが沸いてくる。


「ランディ、ボクのは大丈夫だから、謝って逃げて……」


 はっ、そうだった……この先輩どもに落とし前を付けさせないと。


「もう、謝る程度じゃ気がすまないぜっ」


「そお? 僕は謝れば許してあげるよ……だから、パルダ先輩に謝れ!」


 この時、僕は気づかなかった。

 ここに居た唯一おとなしかった先輩が、僕の一言で怒りに火が付いたのを。


「たしか、ランディ・ダーナスだったな……あの時と変わらず生意気なやつだ……」


 えっ? この先輩、僕を知ってる?

 僕も見た事あるんだよなぁ……誰だっけ?


「あの時の気持ちを思い出したぜ。 たしか『アリサに謝れ……』だったな……しかしなぁ、ランディこの世界は弱者は強者に従う世界なんだ……ランディがそこそこ強くても、エリート集団の俺様達に比べたら弱者なんだ……謝るのは生意気なキサマだ!」


 その時僕は思い出した。

「あっ、あん時のバカな小僧だ…………なんで、忘れていたんだろう。たった四年じゃないか……まぁ顔がずいぶんと変わってるし……面影しかないし……人間かわるもんだなぁ、あの時の小僧か……」


 その時、僕の回想が口に出ていたのに気がつかなった。


「ランディィキサマぁ! 誰に向かって口を聞いている! 決闘だぁ!! おい、お前は、回復魔法を使うやつを一人見つけてこい! お前はラディスを呼んできてくれ」


「えっ? ダナムさん? どうして……」


「ちっ、そんなことも解らないのか……回復魔法は俺様がやり過ぎるから必要だ……それにラディスは、俺様がやり過ぎても、止まらなかった時のためだ……」


「「「ゴクリ……」」」


 あの時の小僧は、ここでも威張ってるのか……お仕置きが必要だな……パルダ先輩先輩の分、アリサの分、そしてあの時しこたま殴られた僕の分! 四年前と同じと思うなよ?


「ランディ、行くぞ……付いてこい!」


「ああ……」


 僕とパルダ先輩、小僧改めダナムと先輩一人で、エリートコース用の訓練所に歩いて行った。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇



 僕とダナムは、訓練所に元々ある武器を手にして対峙している。

 武器と言っても、一二年の武器は木刀しかない。

 真剣は三年生から使うものらしい……温いと思うが、年齢を考慮すると、妥当なのかもしれない。


「ランディ……お前は生意気過ぎだ……弱者は力は有るものに従う決まりなんだよ!」


 ダナムの言葉が乱暴になってきた、本当に待ちきれないらしい……


「だから力のある俺様が、お前を完全に叩き潰してやる……」


「まるで力こそ正義、って言ってるみたいでムカつくよ……」


 ダナムは僕の言葉に反応した。

「『力こそ正義』いい言葉じゃないか……如何にお前が間違っているか、教えてやる!」



 少しだけ待つと、ダナムの言っていた、ラディス先輩が来たようだ……五人で来たから何れがラディス先輩かな? あっすぐ判った……身に纏う空気がまるで違う……


 十二歳でこれだけの、空気を纏えるのか……

 レベルサーチを使いたいところだ……

 ざわついたら、使ってみよう。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇



 この時、別の入り口からマキナスジジィとハゲスキーがやって来て、見下ろす感じでこっそり覗いていた。


「おう、間に合った間に合った……相手はだれじゃ? ハゲスキーよ……」


「ハベンスキーじゃ! あやつは二年でも五本の指に入るダナム・マツヤだ……竜神の加護がある」


「マツヤだと? ほう、あれがマツヤ四兄弟の一人か……して、判別器は使えるのか? ワシはこういうのは苦手じゃからな……」


 ハベンスキー学院長は、バカでかいゴーグルを被った。

「ちゃんと、太陽の魔力を充填させたわ、よし起動…………うむ、ダナムのレベルは20じゃな……流石じゃ……しかし、ランディのはレベルは12……たった?」


 実際、一年生でこのレベルに達する生徒はいないのだが、ハベンスキー学院長は盗賊相手に無双していたランディをこの目で、見ていたので訝しむ。


「流石はギフト持ちという事かの……このレベル差をランディはどうする?」

 マキナスは楽しそうに見ている。


 そこで、ラディス・ノートンの決闘開始の合図が出た。


 その瞬間、ハベンスキー学院長が驚き、マキナスに話す。

「ランディのレベルが24に跳ね上がった!? まさか、肉体強化魔法まで使えるのか? ばかな……ハイブリット!? 」


「なるほど……しかし、レベル24とはそんなに凄いのか? ハゲスキーよ……」


「ハベンスキーだっ! ああ……すでに五年生傭兵コースの力を凌駕している……」

 ハベンスキー学院長は流石に判別器が表示するレベルの仕組みをある程度理解している。


 マキナスとハベンスキー学院長は、二人の戦いを見守る事にした。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇


 ダナムの腕力は凄い……前世の力を一部継承しただけの僕よりパワーがある、此が筋力二倍のギフト『竜神の加護』か……だが、それだけ……技術は僕が仕込んだドラグス先輩とほとんど変わらない。


 取り合えず、叩く。

 バシッ!

 隙があるので、また叩く。

 バシッ!


 すると、外野から激を飛ばす声がした。

「ダナム、出し惜しみするなっ、持っていかれるぞ!」


 持っていかれるって戦局の事かな……そんなの問題無いくらい実力に開きが有るよ?


「うおおっ! 肉体強化2!」


 おお……パワーとスピードが急激に増したなではないか……だけどね、それでもロイエンとセナリースより、ずいぶんと弱いよ……


 僕は、深いダメージを与えない様に気を使い、痛みを沢山与える攻撃に切り替えた。


 辺りはざわつくどころか、静まり返っていた。

 う~ん、これじゃ呪文を使うのは控えるか……

「思ったより大した事ないしな……」


 僕にいいように叩かれていたダナムは、ボソッと漏らした声が聞こえていたようだ。


「うおぉぉ! ちくしょぉ!肉体強化3!!」


 さらに、ダナムのギアが上がった。

 凄い……パワーだけなら模擬戦してるセナリースと同じくらいだ……。


 これで二年生とは、恐れ入る……

 だけどね、力が全てって態度には少なからずムカついているんだ……確かに力は重要なんだけどさっ……


 僕は、一転ダナムをあしらう様な形の攻防を繰り返した……気づくかな? ダナムをバカにしている戦い方に。



 ……

 …………


 ダナムは涙を流しながら、攻撃を繰り返してる……

 僕に勝てないのは理解したみたいだけど、感情が追い付いてない様だな。


「うおぉぉ、当たりさえすれば…………当たりさえ……うあぁっ!」


 最早技術も何も無い、振り回してるだけの攻撃……

  僕は肘・手の甲・木刀に三連撃をかけて、木刀を弾かせる。


「第2レベル呪文……オグルパワー」


 武器を弾き飛ばされたダナムは、膝を落として『力』とか『当たれば』や『バカな』などブツブツ言っている。


 僕は武器を投げて手を広げ力比べが出来るように、ダナムに挑発した。

「力こそ正義なんだって? 確かめてやるよ……来い」


「このぉぉぉぉぉ!! 馬鹿にしやがってぇぇぇぇ、身体中の骨を折ってやるぅぅぅ!!」



 ダナムと手を組み合わせ、力比べを始める。

 ダナムが肉体強化とギフトを併用してようが、まだまだ『オグルパワー』には届かない。

 

「まず、指の骨をバキバキにへし折って……それ、か……ら? ……あ、あ、あ……あがぁぁぁぁぁ」


 ダナムよ、後で治してやるから安心して折られろ。

 僕はダナムの言葉通りに指をへし折った。

「いぎゃっ……バカな、バカなぁ!」


「おい、これがお前の望んだ正義だ……本当にこれは正義か?」


「うぁぁぁぁ………………」


 僕はさらに力を込めてダナムを押し潰す。

 ざわついた周囲も、今は静かになっていた。


「これで満足か? さあ、パルダ先輩に謝れ……」


 ……

 …………


 そして、ついにダナムが謝った。

「俺さ……俺の負けです。……ごめんなさい…………」



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