【28話】エリザベート・フォン・ウエストコート
◇ウエストコート邸◇
キャスバーン・フォン・ウエストコートは、ここ数日気が気でない生活を送っていた。
それは、妹のエリザベート暗殺についてだった。
根回しに根回しを重ね、絶対に依頼元が自分であると分からぬように、暗殺者を手配して手薄な好機を見つけ襲わせた。
そして、エリザベートは予定の日を過ぎても帰ってこない。
暗殺は成功したはずだった。
しかし、暗殺成功の一報も届いていない状況に、やきもきしていたのだった。
心配する父親をなだめ、内心ニヤリとするが、何故暗殺成功の一報が来ないのか不思議に思っていた。
そして、期待は裏切られた。
エリザベートが平民の馬車に乗って帰って来たのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
私達は、ランディに助けられてから私の身分を判ってくれる程の大きな町に入るまで、徒歩で進んでいた。
そして、やっとの私の住む邸に到着した時、窓越しに兄のキャスバーン兄さんと目が合った。
怒りと、悔しさと、驚きを内包したあの目……
調べるまでも無く、暗殺の首謀者が解ってしまったわ……
何せ、私が死んで一番得するのは、キャスバーン兄さんだものね。
……
…………
………………
私は、心配で抱きつくお父様の髭の攻撃に耐えながら、暗殺を企てた者達の捜索を父にお願いした。
勿論、私独自の配下も使って捜索を開始しましたわ。
……
…………
………………
結果、手がかりは無し……絶大な権力を誇るお父様の力をもってしても、兄が首謀者である証拠は掴めなかった。
だけどね……キャスバーン兄さん、あなたはひとつ失敗をしましたわ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ある日、家族で食事中の時、お父様が首謀者が見つからない事を、詫びて来ました。
「エルザ……すまない。あれだけの手がかりが(暗殺者の死体)有りながら、依頼主を割り出せなかった……」
「…………」
「…………」
「…………」
お母様と、キャスバーン兄さん、弟のサンジャスティンは無言で食べている。
私はここで、賭けにでた。
「お父様、私は見つけましたわよ? 」
「「何!?」」
お父様のとキャスバーン兄さんが敏感に反応する。
サンジャスティンが冷静に質問してくる
「エリザ姉様、父様でも解らなかった、暗殺者の依頼人をどうやって突き止めたの?」
「私もそれが知りたいな、エリザ」
冷静になったキャスバーン兄さんは、興味深そうに私の話を聞いていた。
お父様も、お母様も、私が話すのを待っている様だ。
「私が調べたのは、お父様と、キャスバーン兄さんの情報収集能力です……」
「はぁ?」×4
みんな、意味が分かっていないようね。
ここからは、私の話術にかかっているわね。
「私が調べた、お父様の情報収集は素晴らしいの一言でした。お父様の情報収集にかかれば、この地域一帯で解らない事は無いと思います…………そう考えると、見えてくる道筋が見つかったのです……」
「それは、なんだ? 答えよ」
お父様の表情が公爵の顔になっている。
「ひとつ、暗殺その物が無かった事……それは、私の配下とお父様の配下の死体も回収しているので、除外しましょう……後の可能性は、お父様かキャスバーン兄さんかの二人しか、可能性が有りませんでした」
「「バカなっ!!」」
お父様のとキャスバーン兄さんが同時に立ち上がり怒鳴る。
「お父様、お兄さん、聞いてください…………例えばお父様が犯人だとします。 それならばいくらお父様が調べても、暗殺の首謀者が解るはずが有りませんわ……」
お母様とサンジャスティンがお父様を疑いの眼差しで見ている。
「エリザ、お前は私を疑うのかっ?」
「いいえ、今は例えばの話をしています。お父様を疑ってはおりません。 何故なら、お父様ならわざと別人の証拠を作り上げるでしょう。 そしてお父様が悲しい思いをするだけでしょう?」
「そ、そうだ……その通り、私はエルザを愛している……ならば……」
みんなは、キャスバーン兄さんを見た。
かかった……私はこの状況に持っていきたかったのよ。
そのために、わざと一番疑わしいのを、お父様にして話をしたのよ。
「そう、キャスバーン兄さんなら、お父様の情報網を潜り抜ける力が有るわ」
「バカな、何の証拠も無いのに兄である私を疑うのか? いい加減にしろ!」
キャスバーン兄さんの言っている事は正しい。
だけどね……お父様がキャスバーン兄さんを少しでも疑えば、私の勝ちなのよ?
「父上! まさかエリザの、あんな荒唐無稽な話を信じるのではありませよね?」
「どうした? キャス、何をそんなに焦っている?」
「あ、焦ってなどおりませぬっ! こ、これは怒りで……」
「分かった……だだエリザの言も的を射ている……こうなったら、私とキャスで首謀者を見つけてやろうではないか」
私には、お父様が演技をしているのが分かった。
だけど、キャスバーン兄さんは気づいていないみたい。
「わかりました、父上、我々でエリザ暗殺の首謀者を見つけましょうぞ!」
そう言って、キャスバーン兄さんは広間を退室しました。
……
…………
「エリザ、今回のは確証があっての事なのか?」
まだお父様は、半信半疑のようね。
「先程もいった通り、証拠が出ないのが証拠です。それに私が死んで得するのは、キャスバーン兄さんと、その家臣くらいですわ」
「確かに、あの時の態度はおかしかったが、もしキャスだとしても、確たる証拠が無ければ、裁けぬぞ?」
「はい、恐らくキャスバーン兄さんは、これから自分では無いという、証拠作りをすると思われます……お父様には、その監視をお願いします。 あの兄さんが焦っている今なら、ボロを出すかも知れません」
「エリザ……お前の読みには、背筋が寒くなるな……」
◇◆◇◆◇◆◇◆
そして、キャスバーン兄さんは証拠の捏造をしているところを押さえられてしまった。
暗殺の証拠は出なかったが、私の家族はキャスバーン兄さんが私の暗殺を企んだのを信じてくれた。
そして、キャスバーン兄さんは辺境送りとなってしまった。
お父様と私が生きている間には、もう戻る事は無いでしょう。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ねえお父様、学院の生徒で『ランディ』って人、知ってる? 」
「ああ、エリザを救ってくれた子供の事だね? あの時は、暗殺者の事にかかりきりだったからな……しかし、単独であれだけの事をやってのけるなら、名前くらい知ってるはずだし、今の四年と五年にそれほど目立った少年はいないと聞いているぞ。しかも『八武祭』では、毎年毎年最下位。私に恥をかかせおって……三年にそれだけの逸材が居れば、ロベルトからも知らせが有るだろう……」
「ロベルト義兄さん……ですか?」
「エリザよ……その者は適当な事を言っ「そんなこと有りません!」」
「エリザ……」
「あっ、ごめんなさいお父様……でも、あの人、ランディが嘘をついていたなんて……とても思えません」
「うぅむ……エリザがそこまで言うなら、学院長に連絡を取ってみよう……丁度『判別器』と『測定器』が学院に卸せるくらいには数が集まったらしいからな……」
「ありがとう、お父様大好きっ」
この国に六家しかいない公爵家の当主も、娘の前ではただの、親バカだったと言う。
その証拠に、娘に抱きつかれていた、エリザの父の表情は弛みまくっていた。
エリザは父親に抱き付きながら、こう考えていた。
(ランディ……やっぱり五年も待てそうも無いわ……今まで見学に行った事はなかったけど、今年は見に行ってみようかな……『八武祭』を……)
こう言った会話って難しいです。
深い突っ込みは無しにしていただけると……




