【2話】0歳児になったランディ
餓死の危機が迫っていた僕だが、父親のファインプレーで、なんとか一命を取り留めた。
父親は近所から乳母を連れて来たのだった。
ナイス! パパ。
だが、ゴクゴクと母乳を飲み続けた後、僕はまたしても、大きな失敗を犯してしまう。
今回は舌技だけでなく、歯茎で(当然歯は生えていない)甘噛みするという、高等テクニックまで使ってしまったのだ。
我に返った僕は、今度こそ餓死するかも……と思いながら、恐る恐る乳母の顔を覗いてみる。
しかし年若い乳母は、恍惚とした表情で僕を見ていた。
「ぼっちゃま……素敵でした…………レジーナは、生涯添い遂げる旦那様を見つけました……」
別の意味でやってしまった……
それからの僕は授乳の度に、舌技を披露しなければ、食事もままならない状況に置かれてしまった。
だって、普通に母乳を飲んでいたら、
「ぼっちゃま、その程度ではミルクは上げられません……さあ、あの時のようにお願いします」
赤ちゃんにそんな事、強要すんなよ……
しかし、食事のための対価だと思って頑張るか……正直、ちょっと楽しいしな……
だが『授乳時、舌技披露事件』以降、母親との接触は殆ど無くなっていった。
やっちまったね。
△▲△▲△▲△▲
僕はベビースキル『寝返り』をマスターした。
まだ寝返りだけ? と思っているなら、甘い甘い。
ハイハイの出来ない僕は、連続寝返りを使い好きな所に移動しては、違う景色を見て楽しんでる。
乳母の名前が『レジーナ』でその娘の名前は『アリサ』だって言うことも分かった。
彼女達母娘は家の一室を借りて、住み込みで主に僕とアリサの面倒を見ている。
この頃になると、僕はあまり泣かなくなった。
レジーナとある程度、意志疎通が出来るようになったからだ。
「お~」
(おっぱい舐めさせろ)
「う~」
(う○ちでた、オムツ取り替えろ)
「ば~」
(抱っこしやがれ)
「ん~」
(暇だ、かまってくれ)
「あ~」
(あれが欲しい、持ってこいや)
と言えるようになった。
レジーナはその意味を解ってくれ、しかも褒めてくれた。
「ぼっちゃまは、頭が良いですね……ぼっちゃまより一ヶ月先に生まれた、アリサはまだ泣いてばかりですよ……これなら十三歳には……いえ、十一歳から調教を……いえ、花婿修行を始められそう……そして、いつかレジーナを結婚にしてくださいね、ぼっちゃま……」
やばい、僕の貞操の危機が十一年後に迫っているようだ。
父親とメイドも僕の凄さ(異常さ)を見て、
「もしかしたら、もしかするかもな」
「そうですね旦那様……」
と言っていたが、僕にはその意味が解らなかった。
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僕がベビースキル『ハイハイ』をマスターした頃、近くにある(と言っても、馬車で数日かかった)町に連れて行かれた。
後で分かった事なんだが、貴族の子は生後、半年から一年の間に『ギフト』の確認をするって事だった。
~『ギフト』とは神々からの、贈り物と言う意味で、生まれた時に 授かる特殊能力だった。
この『ギフト』を授かった人々の殆どは出世コースに乗っていた~
この『判定の儀式』のために、珍しく母親も来ていたので、大事な儀式なんだなぁ、って想像出来た。
よく分からん儀式の後、判明した僕の能力はこうだった。
※ギフト 無し
※魔法の種別 回復系
※魔力総量 12
この結果について、僕は知らないのだが、母親が落胆している姿を確認できたので、何も持っていなかったのだろう。
その日を境に僕は母親との距離が更に広がり、母親の姿を見ることが殆ど無くなった。
後日、父親とのメイドの会話で分かったのだが、『ギフト無し』より魔力総量が、悲しいほど少なかったのが、両親の落胆の原因だった。
しかし、僕が赤ちゃんとはいえ、そんなショッキングな話を、子供の居るところでするなよ。
木製の食器を咥えなから、愚痴った。
しかしこの木の皿は、何故かそそられる……これが赤ちゃんの本能なのだろうか、木の皿をはむはむしながら戯れ、父親の話を聞いていた。
どうやら、この世界の一般的な魔力総量は、30~300だって話だ……なのに、僕の魔力総量は12……マジで? 凹むなぁ。
どうやら僕は魔力総量、歴代最低記録を塗り替えたみたいですよ。
おのれ、神め……
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未だに、僕の正確な月齢は未確認のままだが、ベビースキル『高速ハイハイ』と『お座り』をマスターした。
父親とメイドにレジーナは、ビックリしていたので、発育はかなり早い方なのだろう……日頃から懸命に手足を動かしていたからな……日頃の努力の賜物だ。
僕は、今までのストレスを晴らすかのように移動しまくった。
しかし、この体はちょっと動くと、すぐに疲れてしまう、体力ねえなこの体は……
ふと見ると、レジーナの赤ちゃんであるアリサが、こっちを見てほふく前進をしている。
僕に興味があるのかな、仕方ない遊んであげよう。
こう見えても日本人だった頃は、公園でラノベを読んでいたら、いつのまにか小さい子供が、僕によじ登って来る事もあったんだぜ。
同年代の女の子には、からっきしだったけど、五歳以下の子供たちに好かれる自信は有る。
でも、僕はロリコンじゃないぞ。
「あ~、う~」
(アリサ、ここまでおいで)
「ふっ、ふっ、ふんっ」
アリサは僕目掛けてほふく前進の速度を上げた。
しばらくアリサをかまってやった。
しかし不覚にも、アリサと遊んでいた様子を、家の全ての人達に見られて、一堂ホッコリしていた事に気づかなかった。
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今日は大冒険をして、家の二階まで進出した。
「あぶぅ……」
(素晴らしい)
なにせ、赤ちゃんに転生してからは、天井と壁とおっぱいしか見るものが無かったからな……新鮮な景色と、眺めで、あちこちハイハイしまくる。
だが、ふと気づいてしまった。
どうやって一階に戻ろう……この体と身体能力では、一階に降りる自信が無い。
泣いて助けを呼ぶのもなんか恥ずかしいな……
「あうあう」
(よし、人生は冒険だ)
階段を逆ハイハイで降りようとしたが、自分の頭が予想以上に重かったのだろう……バランスを崩して階段から転げ落ちる。
しまったぁ、香織ちゃん・ガル・カーズ・アーサー・その他のみんな……僕はここまでかも知れない……
ランディは一階の床に激突した。
今回のランディは、怪我で死ぬ危険が迫っていた。
明日も二話投稿予定です。