【25話】ランディ回復魔法を教える
学院生活二日目。
教室はすごい騒ぎになっていた。
それは、ベルナントが回復魔法の実践をしていたからだ。
三時限目には、ベルナントの周りにクラス中の生徒が集まっていた。
そして、ベルナントはある言葉を放つ。
「ランディさんが、昨晩すごく覚えやすい回復魔法の修得方法を教えてくれたんだ」
一斉に僕を見るクラスメイト達……僕は怯んだ。
「み、みなさん……な、なにかな?」
三十人近いクラスメイト達が一斉に押し掛けて来た。
「俺にも、ヒーリングを教えてくれっ!」
「僕もっ!」
「おれもだ!!」
「ワタクシが先です」
「「「「ギャー、ギャー」」」」
ああ、うるさいなぁ……気合いの入ったカツをお見舞いしよう。
「カッ!!」
シーーン…………
よし……静かになりました。
「コホン……分かりました。だけど……僕の修行は厳しいぞ?」
これ、言ってみたかったんだよなぁ。
「はい!」×多数
うんうん、素直でよろしい。
こうして僕は、二十九人の仮初めの弟子を持った。
……
…………
「ところで、回復魔法を教える前に、ひとつ提案があります……君達全てが回復魔法を覚えてから、教官に報告しませんか?」
「なんでですか?」
クラスメイトのひとりが聞いてきた。
「教官の驚く顔……見たくないか?」
「………………」
ニヤリ……
クラス中の生徒がいやらしい笑みを浮かべた。
ふっ……この世界の子供の成長は、早いと言ってもみんなまだ十一歳。
イタズラしたい年頃なんだよな。
僕は、クラスみんなの指を折ってはヒーリングをかける奇行を始めた。
そして、今日一日で十二人のクラスメイトがヒーリングを使えるようになった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
◇学生寮の一室◇
ここには、回復魔法コースの三人が、雁首並べて今日の事を話していた。
「まさか、あんな方法があったなんて」
「ああ、ビックリしたよ」
「でもさ、なんで今までの教官は思い付かなかったのかな?」
「ああ、怪我を回復魔法で治すと魔力流れが見れるってやつか……」
「これからは、ランディさんと呼んだ方が良いかな?」
「そうだな『さん』付けしないと不味いよな」
「その、ランディさんは、今日だけで何回ヒーリングを使ったんだ?」
「だいたい三十人で、二回づつヒーリングを使ったよな? なあ、かけ算出来るか?」
「出来ない……けど、足し算なら出来る…………」
「……………………五十八回だ」
「「ゴクリ……」」
この中には、誰も間違いを指摘できる生徒はいない。
「ランディさんの魔力総量はどれくらいなんだ?」
「今度、商人コースに行って『五十八かける十』を教えてもらおう」
「ああ、そうしてくれ……」
◆◇◆◇◆◇◆◇
ランディの指折りヒーリングの回復魔法修得技で、週末までにクラス全員がヒーリングを覚えてしまった。
その、翌週……
教官の度肝を抜いた表情を見て、クラスメイト達は満足していた。
「バカな……バカな……ぜ、全員がヒーリングを使えるだとぉぉぉぉぉぉ!?」
……
…………
………………
この、事件の主犯が僕だとすぐにバレて、僕は教官の居る部屋に連行された。
連行された部屋の中にいたのは、マキナスジジィとハゲジジィにあと知らないオッサンと教官の四人だ。
「あっ、ジジィ……」
「マキナスじゃ!」
ヤベェついポロリと口が滑りました。
「ぷぷっ」
ハゲジジィが笑ってる……名前なんだっけか……
「そうだ、ハゲ好きぃ先生だ」
「ハベンスキーだっ!」
「かっかっかっ……」
学院長の名前は間違ったけど、マキナスジジィの機嫌は良くなったから、結果オーライ。
すると、ス○夫顔したオッサンがプルプル震えている……寒いのかな?
「何じゃこの礼儀の知らない小僧は……先程わしを呼んだ急な要件とは、この小僧の素行不良か?」
むっ失礼な……貴様の名前はスネ○にしてやるぞ。
教官はしどろもどろに答える。
「あの……ですね……今回お呼びしたのは……一年Bクラスの生徒が……生徒が……あの、その、なんて言ったら良いか……」
「何だね? はっきり言わんかっ!」
僕も人の事を言えないけど、偉そうだなこの○ネ夫。
「キツネ、黙れ……ほら深呼吸して、落ち着いてから答えたら良い」
マキナスジジィが気持ちの良い一発を入れてくれた……あいつキツネって言うのか。
「すぅぅ、はぁぁ、すぅぅ、はぁぁ…………はい、一年回復魔法コースBクラスの三十一人全ての生徒が、ヒーリングを修得しました。すぅはぁ……」
「「「なにぃ!?」」」
ふふっ、三人とも面白い顔に変わっていくな……やっぱり『全員回復魔法を覚えるまで、黙ってる』作戦は大成功だね。
三人の中でマキナスジジィが、顔に理性が戻った。
「ふん……で、それを実現させたのはランディで良いんじゃな?」
「は、はい……」
「「なんだとぉ!?」」
ははっ、面白れぇ……顔面ビックリ箱だ。
「ランディは、魔力の流れを鮮明に読み取るだけでなく、魔力の流れを見せる事も出来るか……やはりアリサと言う小娘はランディのおかげで回復魔法を修得できたのじゃな……」
ブツブツと小声でマキナスジジィが喋っている。
「あのう……ルードマイヤ主任……もしかして……」
「お主の想像どうり、こやつは魔力の流れを正確に読み取る事が出来る……なにせ、ワシのグランヒーリングを一発で盗みおったからの……その時何と四歳! ……だったかも知れないの、昔の事は正確に覚えてるわけ無いわい」
「ば、バカな……」
「ま、入学から一週間でそんな事をするとは、想像もしとらんかったがの……」
「すると、彼はもうグランヒーリングを使えるのですね……」
「ん? もちろんじゃ、学院長もそれは知っておるぞ……それくらい出来なきゃ、ワシが推薦するはずが無かろ」
「ああ、あの時はビックリしたわい。エクスヒーリングを四回使い、グランヒーリングまで二回も使って、まだまだ使えますよって顔をしとったからな」
マキナスジジィとハゲジジィが懐かしそうに語っている中、キツネと教官の面白表情コーナーを見て、楽しんでいた。
……
…………
僕は後日、もう一つの回復魔法コースに行って、臨時講師になるように言われた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ランディがこの部屋を去った後……
教官の達はまだ部屋に残ったままだ。
「これは、上に(国)に報告するべき事案では……」
教官が呟くと、ハベンスキーが反対する。
「だめじゃ……せっかく金の卵を見つけたのに、取られるじゃないか」
マキナスも、ハベンスキーの言葉に相槌を打つ。
「そうじゃな、あれはこの学院でみっちり鍛えてから輩出したいのじゃが」
キッツネーも概ね学院長の意見に賛成な様で、教官に話しかけた。
「君、に一つの依頼をしよう、もうひとつあるクラスを使って、あの小僧のコツを盗んでこい……よく考えてみろ……もしコツを半分でも掴んで我が学院のヒーリング魔法の修得率が五割を超えたら……どうなるか」
「…………あっ」
「そうだ、君の将来は明るいものになるだろう……」
教官はやっと笑顔になった。
「わかりました、キッツネー学院長代理、彼の……ランディ・ダーナスの技を盗んで見せましょう」
一部改稿しました。
ジジィこと、マキナス・ルードマイヤの『ヒーリング』の限界数を八十以上から百以上に変更
回復魔法魔法の修得率は、本人の才能・教える人間の魔力総量(1000単位)・で九割がた、決まってしまうようです。
魔力総量1000を超える回復魔法使いは、ほとんどいないので、教師の魔力総量が修得率に影響力があるとは噂止まりで、いままで検証出来ませんでした。




