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【24話】個人授業

 今日の授業は、終わった。

 大体1時限に約3時間費やし、3時限目が終る頃には、だいたい午後の6時頃だ。

 一時間毎に鐘が鳴るから分りやすい。


 この世界に時計は無いけど、どうやって時間を計ってるのかな?


 1、2年生が使う校舎から歩いて五分もすると、巨大な学生寮が(そび)え立っている場所にたどり着く。

 もう、でかいのなんの……


 僕は、これからの生活にドキドキしながら、最大で1千2百人も収容出来る、学生寮に入った。


 学生寮は基本、3人部屋らいしが、僕の部屋には1人しか居なかった。


 部屋に入って挨拶をしたんだけど、ほとんど無視……マジで感じ悪いっす。


 でもこれから1年間、同じ部屋で暮らすんだ……仲良くしないと。


「そう言えば、顔が腫れていますね、大丈夫ですか?」

「…………」


「何処から来たんですか?」

「静かにしてくれ……」


「夕御飯一緒に行きませんか」

「うるさい」


「今、何してるんですか? 」

「黙れ……」


「……何してるんですか?」

「黙れ……」

 ……僕は、これを10回繰り返す……


「決まってるだろ! ヒーリングの魔力の流れを復習してるんだっ……気が散るから、黙っててくれよ」


「何も題材も無いのに、魔力の流れなんて解るの?」

「解らないから勉強してんだよっ! はっ……君は貴族みたいだし、回復魔法も使えるからいいだろうけど、ぼくはなんとしても『ヒーリング』を覚えないといけないんだ!!」


 僕は、この人に並々ならぬ覚悟を感じた。


「話を詳しく聞いてもいい?」

「…………」


「話を詳しく聞いてもいい?」

「…………」

 ……僕は、6回これを繰り返した。


 彼は、僕の根気に負けた様だ。


「しつこいな……ぼくの家はかなり貧しいんだ。それでも、僕の両親は将来の為にと、大金を使ってぼくら兄弟に『判定の儀式』をしてくれたんだ……そして運良く、ぼくは回復魔法の素質を持っていた。魔力総量も148とかなり多かった。おかげでタダでこの学院に入ることが出来た。他の五人の兄弟は生活魔法や肉体強化魔法だった。だがこの学院は学費が高くて入学なんて出来ない。将来、お金が稼ぐ事が出来る可能性があるのは僕だけなんだ! だから入学したばかりだって、遊んでられないんだよっ…………知ってるか? 去年もだいたい六十人の生徒が回復魔法コースに入ったらしいけど、二年生に進級出来たのは何人だか知ってるか? 」


 僕は、パルダ先輩の話を思い出した。

「15人だったね……」


「そう……つまり、進級出来なかったのは…………えっと……」


「約45人だね」


「そう、それだけ退学になっているんだ……遊んでる暇は無い!!」


「ねえ、名前は? 僕は、ランディだよ」

「……ベルナント」


 僕は、ベルナントに回復魔法を、覚えさせてやりたくなった。

「なあ、ベルナント……回復魔法を覚えるコツを知りたくないか?」


 ベルナントは僕の言葉に食いついて来た。

「なにっ! 覚えられるコツとか有るのか? 教官は努力と直感と言っていたけど、何か方法が有るのか? 教えてくれっ」


 凄い食い付き具合だ……それだけ必死なんだろうな……


「いいか? ベルナント……魔力の流れは体で覚えるんだ……手始めに顔の腫れを治そう……ヒーリング……どうだ?」


「あっ、なんか解る……解るよランディ、なんとなくだけど……よしっ、ヒーリング……ダメだ……解った気がしたんだけど……」


 僕は、考えた……たしかアリサの時は、ケガが大きい時の方が一発で覚えたよな……

 僕は、ベルナントに話しかけた。


「これから、秘伝の技を伝授します……指を開いて手を出して」


「えっ? こ、こうか? 」


 僕は、遠慮せずにベルナントの指を4本ベキッっと折った。


「ぐあぁぁぁぁ!!」


「我慢しろベルナント! 回復魔法をかけるっ、感じるんだ!目を閉じろ! 行くぞ、ヒーリング!…………どうだ? 」


「解った、今度こそ解った気がする」


「よしっ、我慢しろよ」

 僕は、ベルナント指を1本折る。


「いたっ……そうかっ、ヒ、ヒーリング!!」


 ベルナントの折れた指が、ゆっくりと治っていった

 。


「やった……出来たんだ……ヒーリングが成功した……これでぼくは、進級出来る……ひ、ひっ……う、うえ~~ん」


 あらら、ベルナントは泣き出しちゃったよ……

 とりあえず、あたたかく見守る事にした。


 ……

 …………


 ベルナントは赤くなった目を隠さずにお礼を言ってきた。

「ランディ……いや、ランディさん、この恩は一生忘れません。ありがとう」


「ランディでいいよ……それに、来年は解毒魔法が進級必須魔法だ、一緒に覚えようぜ……」


「呼び捨てになんて出来ないよ……これからヒーリングの、復習をしてくる」


「待った! ……ベルナント、夕食を食べたいんだけど……」


 僕の言葉の後にベルナントのお腹が鳴る。


「そうだね、ランディさんはまだ、寮内の事はまだ知らないのかな?」


「うん、教官は寮の大きさと入口しか教えてくれなかった」


「よし、案内しますっ、食べ物の種類は校舎の学食より豊富なんですよ……」


 ……

 …………


 僕は、ベルナントと夕食を食べて、部屋に戻った。


 すると、ベルナントは興奮覚めやらぬ顔で、

「ぼく、ヒーリングの復習をするから」

 といって、果物ナイフ程度の刃物で、ちょこんと傷を付けては、ヒーリングで治していた。


 そして、ベルナントに魔力枯渇のサインである目眩が発現したみたいだ。


「しまった……あんまり嬉しくて、魔法を使いすぎた……」


「そうだね、これで止めた方がいいね、これ以上つかうと不味い事になるから」


「流石ランディさん、入学初日なのに、知ってるんですね。魔力総量はたくさん使うと増えるけど、使い過ぎると減ってしまうって話……調子にのったぼくは、減ったかも知れません」


 僕は、おや? と思った。

 僕の知識とベルナントの知識で少々くい違いがあるな。


 もしかして、学院では魔力総量の増減にかんする、詳しい仕組みは判明してないのか?


「ベルナント、その目眩までで止めれば大丈夫だ。僕で何回も試した。上手く行けば2週間で効果を実感出来るよ」


 ベルナントは不思議そうに言い返す。

「うそ? だって魔力総量は成長の早い人でも、学院生活の5年間で、1割から2割だって……」


 えっ? そうなの? 魔力総量が爆発的に成長するのは子供の時だけ?


「じゃあ3週間ほど様子を見よう……たぶん実感出来るから……たぶん……」


 そんな感じで、僕の長い学院生活初日が終わった。


次回の更新は土曜日の予定です。

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