【21話】ウエストコート高等学院
ウエストコート高等学院……それは、広大な敷地から成り立っていて、大きく2つに分けられていた。
1年生、2年生からなる『低学年エリア』。
3年生から5年生までの『高学年エリア』。
それぞれ、最大で千五百人の生徒を収容でき、計三千人の生徒が収容可能なこの学院で生活出来る巨大学院……大金もしくは、才能の有るもの達だけが通うことの出来る、アルカディア王国が誇る八大学院のひとつである。
この学院は6つのコースに別れていて、『傭兵コース』『騎士コース』『商人コース』『攻撃魔法コース』『回復魔法コース』『エリートコース』となっている。
その中で『攻撃魔法コース』は入学金・年間維持費が半額で、『回復魔法コース』『エリートコース』は全額免除になっていた。
しかし、その三コースに入学条件があって、それぞれの魔法の素質と魔力総量が120以上が必要だった。さらに『エリートコース』はギフト持ち又は、魔法の素質が二つ以上あるハイブリッド種が必須条件として加わる。
年間約六百人近い数の少年が、この学院の門を叩くが、卒業出来るのは四百人を下回る。
今年、ウエストコート高等学院に約五百五十人の生徒が入学して、盛大な式典が行われたが、その中にランディの姿は無い。
彼はとある事情により、大遅刻をしていた。
◇学院長室◇
この部屋に『学院長代理』の役職を持つ『キッツネー・コーン』が、学院長と新たに『回復魔法コース主任教官』となったマキナス・ルードマイヤに嫌味を言っていた。
「あんたらの、推薦したランディ・ダーナスってガキはどうした? あれだけ大言を言ってたから期待していたのに、何故来ない? ……まさか怖じけついて、ママの胸で泣いてるんじゃないのか?」
たかだか、学院長代理なのに偉そうである。
マキナスは、何事も無かった様に答える。
「ただの遅刻じゃろ? どうせ頭の中まで筋肉で出来とるロイエンルーガのやつが、昨日・一昨日辺りで慌てとるかもな……あいつのバカを先読みしなかったワシにも落ち度が有った……ゆるせ……以上じゃな」
「そ、そんな簡単に許せ「ああん?」……うっ……」
マキナスに、睨まれて小さくなるキッツネー。
偉そうにしていても、キッツネーはマキナスに頭が上がらないのは、十年前と変わらない様だ。
マキナスは役職こそ『回復魔法コースの主任教官』だが、完全に裏ボスだった。
ただ、裏ボスとして威圧しているのは、十年前のマキナスを知る教官だけで、それ以外の教官には気さくなじいさんとして演じていた。
「まあ、あの小僧は間違いなく来るの……学院に入学するのを楽しみにしていたからの……」
(ついでに、あの小僧はこの学院の、悪い習慣も変えるかも知れないの……)
◇◆◇◆◇◆◇◆
この学院の『商人コース』以外の生徒達の殆どは、軍隊の中で揉まれる経験をする。
従って、荒々しい学院になるのも仕方の無い事だろう。
軍人養成学院と噂されても、過言ではない。
入学2日目、『歓迎訓練』と言った名目で一年生の大半は2年生に、気合いの入ったパンチを貰っていた。
しかし、商人コースと、エリートコースの生徒達は例外だった。
その二つのコースには、位の高い貴族の子供が、高確率で紛れているからだ。
この慣例は、条件付きで公爵家も認めているので、学院長ですら口出しできない。
その条件は、授業時間内で、尚且つ実習場ならば、教官は見ないふりをする。
だが、このルールを設けてからは、水面下の暴力行為はほぼ無くなってしまったのだ。
そして、1年生の殆どは顔を腫らして授業を受けていた。
しかし、そんな中で『歓迎訓練』を欠席して、難を逃れた生徒が一人いると噂が徐々に広まっていった。
それから、数日後…………
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ランディ・ダーナスです。遅れてしまいましたが、よろしくお願いします」
静まり返る教室……冷ややかな目でみんな僕を見てる……あれれぇ、なんか空気がとっても悪いんですけど……
それに……みんな、顔が腫れてないかい?
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回復コースの歓迎訓練は他のコースと違い、毎週行われる。
この訓練を逃れる方法は一つ。
回復魔法を修得する事だった。
回復魔法コースは二つのクラスがあり、ランディはBクラスに入った。
そのBクラスの全員が、顔を腫らしていたのだ。
多くの生徒は、これを一年間続けされられ、回復魔法を修得出来なかったら退学となってしまう。
回復魔法コースに在籍していた多くの少年は、心に傷を残して学院を去っていくのだ。
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僕は、空いてる席に座り、隣の人によろしくって挨拶したのに無視された……早速いじめですか?
パパ、ママ……早くも心が折れそうです。
教官が僕のために、この学院の授業を説明してくれた。
この学院は、1日に午前1時限、午後に2時限の計3時限あって、終われば学生寮に帰るって事だ。
授業時間以外の暴力行為は絶対禁止で、それ以外は自由だから、覚悟するようにって言われた……なんて恐ろしい所なんだ……
必修科目は午後の前半だけなので後は、自由に勉強出来るって聞いた……いわゆる放任ってやつ?
後、一年で回復魔法を覚えないと退学だから、みんな、必死なんだって聞いた。
そうか、僕はもう覚えてるから、そこんとこは大丈夫だな……
授業はノートも筆記用具もない、紙って貴重なのかな……
教官が魔力の流れを、大きな紙に書いてあるよくわからん図を指差しながら口頭で説明している。
そして、怪我をした動物をみんなで触れながら回復魔法をかけていた。
ただ、それを数回繰り返しただけだった。
えっ? それだけ? こんなんで覚えられるの?
此で理解出来たら天才じゃね?
そんな納得の行かない授業が三時間弱も続いた。
そして、3時限目に入った時、教官の代わりに十人くらいの、生徒が教室に入ってきた。
その瞬間、クラスのみんなが一斉に下を向いた。
何の合図ですか?
突然入ってきた生徒の一人大きな声で話す。
「おい! このクラスだろ! 1週間も遅れて学院に、来やがった生意気な、ヤローは? おいっ、聞いてんだろ? 手を挙げろっ!」
何人かの生徒が僕を見る……
早速、揉め事キター!!
手を挙げた僕に、乱入した生徒達が僕を取り囲む。
「お前には特別に三回分の、歓迎訓練をしてやるからな、訓練場に来てもらおう」
僕は、クラスメイトが下を向く中、訓練施設のある、別棟に連れていかれた。




