【20話】暗殺事件、後編
目の前に、強そうなオッサン騎士が、僕に剣先を向けていた。
「貴様! 何奴! 正体を見せろっ!」
なんか、ムカッと来るな、このオッサン……
「お待ちなさいっ! 私達を助けた少年に、その行動は騎士道に反しますよ!」
「エリ、お嬢様……しかし、その外見にあの動き、間違いなく新種の魔物でしょう」
「魔物とは失礼ですね、このオッサンは……」
僕も、魔物扱いされたから、オッサンと言い返しておいた。
オッサンの顔が茹でダコになっていく。
「ぶ、無礼者! 我は、エリ……お嬢様の護衛隊長の『ボヤンキー』だっ!」
と、言って剣を振りかざして、襲ってきた。
見ると、剣の腹で僕を叩くつもりの様だ……殺す気が無いなら、僕も手加減してあげよう。
オッサン騎士の装備は、要所を金属で固めてあるだけで、全身を被っている訳じゃない。
丸見えの脚部を『バシッ』と叩く事にした。
ボギンッ!
「うがぁぁぁぁぁぁ!!」
あっ、ゴメン……『オグルパワー』と『ストライキング』を掛けていたの忘れてた……骨、折れちゃったね……
でも、無礼なオッサンより、倒れている虫の息な騎士達を助けないと……
その後『グランヒーリング』を四回使って、四人を助けた。
後は、死んでいたから、治せなかった。
意識ある人は、僕のグランヒーリングに、かなり驚いていたが、お嬢様ってのが、いち早く立ち直った。
「危ないところを、助けて頂き、有り難うございます」
お嬢さんの見た目は、十四歳から十六歳位だろうか、しっかりしているな……
「なりません! エ、お嬢様! 得体の知れぬ下賎の者に頭を下げるなど……ふごっ」
お嬢様が手近な布で、喧しいオッサンを黙らせた。
因みにその布は……さっき、泥汚れを拭いていたやつじゃ……
このお嬢様、面白い!
「御礼をしたいのですが、手持ちの貨幣ですと、はした金しか所持していませんので、出来れば私の屋敷に、来て頂けないでしょうか?」
僕は、チョット考えてみた……どうせ遅刻確定なら、お姉さんから、たんまりと小遣いを貰ってから、学校に行くのも有りなんじゃ……
「お姉さんすみません、その屋敷にまで、どれくらい掛かるのでしょうか?」
と、質問すると、布を吐き出したオッサンが、クワッ!と目を見開いて、力一杯怒鳴ってきた。
「このくそガキ! エリ、お嬢様に向かって『お姉さん』とは、無礼にも程があるわっ! それに得体の知れぬ物を、屋敷に招くなどモガモガ……」
お姉さんは、更に汚れた布を、騒いでいるオッサンに詰め直した。
このお姉さん、やるなぁ。
「私の屋敷には……一週間と半分くらい掛かりますわ」
この世界の一週間は、十日だ。
それなら、約十五日掛かるのか……さすがに、それだけ、ロスしたら退学になってしまうかも……
「あっ、そりゃ無理だわ……学院長に怒られちゃうよ……」
「キサマッ! エ、お嬢様の誘いを断るとは、何処までも無礼……モゴモゴ……」
「ボヤンキー、次に私の許可無く、その布を取ったら、解雇しますわね……」
と、三度泥布を詰めている……ダメだ笑いが堪えられない。
「学院ってもしかして、あの『ウエストコート高等学院』の事ですか? そう……それなら、強いのも納得出来ます……」
えっ!? 高等学院って、そんなに強いのがゴロゴロしてんの? 恐ぇぇ……なんて所だ……あっ返事をしなきゃ。
「はい、そこの生徒(予定)です。だから残念だけど、御礼は要りません」
でもお姉さんは、くいさがる。
「ですが、恩人に何もしないなんて言う訳には……」
「う~ん……それなら、五年後の僕は、色々と商売を始めている予定なんです。そのお得意様になってくれませんか?」
「えっ? 五年後!? ……ふふっ、良いわよ。あなた名前は? 」
「僕の名前は、ランディだよ、じゃ、僕は急いでいるんで、よろしくねぇ」
「あっ、ランディ待って……私はエリザよ、よろしく……五年後の大商人さん」
と言って、首飾りを僕は貰った。
「有り難う、エリザお姉さん」
この僕の、馴れ馴れしい行動に、血の涙を流しそうな形相のオッサンを、ちらりと見てしまったが、見なかった事にしよう。
この後、御者を見つけて、適当な説明をしてから、ウエストコート高等学院に向かった。
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「よろしいのですか? あの首飾りは……」
「いいのですよ、私の命よりは軽い物ですから…………」
「ですが……なっ!?」
枝を杖の代わりに使い、何とか歩く護衛隊長のボヤンキーは、林を抜けて道に出た途端、驚く。
「ボヤンキー、どうしまし……えっ!?」
エリザも外の様子を見て、驚いた。
そこには、全滅していた筈の、付き人三人と騎士が一人座っていたからだ……
付き人一人が残り三人を看病している様子を見ていたら、エリザ達に気づいた様だった。
「お嬢様!! 良かった……ご無事で……やっぱりあの子の言った通り……」
エリザは、小走りで付き人に駆け寄った。
「カンヌ! 生きていたのですか? 良かった……でも、一体…………」
「十歳くらいの、男の子が助けてくれたんです。お嬢様も、助けたと言っていたので、待っていました」
「ランディが?」
エリザは、驚く……この場を逃げる時には、動けるものなど居なかった筈だ。
「もしかして、ランディの他にも助けてくれた方が……」
「?……男の子一人でしたけど……」
そんな事って……あり得るの?
エリザは、付き人に一つ質問をした。
「カンヌ、あの子は、どうやって皆を助けたの?」
カンヌは、エリザの迫力に怯えながら、話した。
「か、回復魔法を掛けてもらいました……私達全員死にかけだったそうです。それに騎士様を回復しているのを見ました。『グランヒーリング』を使っていました……」
グランヒーリングですって!? 私も見ましたわ……恐らくですが、一人一人に『グランヒーリング』を二回づつ使用したのかも……
でも、でも……すると『グランヒーリング』を十一回も使っていることに……そんな事って、あり得るの?
「まさか、ギフト持ちの中でも、滅多に出現しないあの……」
エリザの台詞を遮るように、ボヤンキーが話す。
「あり得ません! あのガキの戦いぶりは、間違い無く『竜神の加護』です。同時に『魔神の加護』など、持っているはずが無いですぞ……それに、お嬢様はアレを想像しましたな……」
「しょうがないでしょ? 一流の回復魔法使いでも『グランヒーリング』四・五回が限度なのよ……魔力総量三倍の『魔神の加護』より、魔力総量五倍の『魔神の愛』を想像してしまいますわ。」
「それこそバカな話です……もし、そんなギフトを持っていたら、もっと名が知れている筈です……」
「なら、あの者たちを、どう説明するのです?」
エリザだって信じがたい出来事なのだが、無傷の付き人の存在が、証明しているのだ。
「うっ……そうだ、偽装だ! 偽装に決まってる! 『グランヒーリング』と見せかけて、ヒーリングを連発したに違いない……それなら…………」
エリザは、もうボヤンキーの話を聞いていなかった。
あの子、……見た目は十歳くらいよね?
でも、高等学院に在籍して、あの強さなら……一年ってことは無いわね……三年生ってところかしら……だとしたら十四歳?……そう、きっと童顔なのね。
でも……何故そんな子供に、こんなにもドキドキするのかしら……
エリザは、死を覚悟した時に、颯爽と現れて自分達を救った、ランディの姿を思い出す。
ランディは、あの強さを持っていながら、商人になるつもりなの? ……ふふっ五年後か……でもね、五年も待つつもりなんて、無いわよ。
ランディ……卒業と同時に、あなた自身を丸ごと買ってあげるわ。
この私、エリザベート・フォン・ウエストコートがね。
これにて、幼年編終わりです。
閑話を一話上げてから、
学園編を……書きますので、更新がとまるでしょう……ほんとすいません。




