【19話】暗殺事件、前編
ロイエンが雇ってくれた馬車で、『ウエストコート高等学院』に向かっている僕。
広大な農村地帯を抜けると、何もない平野が続き、荒野に変わっていく……その間に、小さな町を二回ほど立ち寄った。
「ダーナスの坊っちゃん、この調子なら、一日二日早めに着きそうですよ」
そう、今回の道中に大きな障害は無かったのだ。
盗賊のほとんど通らない大きな街道を選んだとは言え、出会ったのは小型の獣が数匹、御者の弓だけで、事足りてしまった。
そしてさらに一泊して、五日目の朝、広大な森林を目にした。
「ダーナスの坊っちゃん、この大森林を抜ければ、獣の脅威はもう無いでしょう……って言っても今までも有りませんでしたが……盗賊も何もない馬車を襲うほど、馬鹿じゃ無いですしね」
そう……この馬車は、 クラリスの計らいで、外見は最低クラスの物を用意してくれた。
まあ、内装もたいした事ないが、クッションだけは良いものを貰ったのだ。
お陰で、お尻が痛いのを相当軽減できた。
まあ、回復呪文を使えば問題無いんですが……
遠くに見えていた、大森林も眼前に迫り、程なく中に入って行く。
そして、数刻後……何者かに襲われて、全滅している一団を見つけた。
弓の扱いが上手い御者も、この光景に青ざめ、固まっている……どうやら、ありえない級な出来事なのだろう。
「御者さん! すぐに隠れて! 僕は様子を見る」
僕の言葉に驚いた御者は、
「ダーナスの坊っちゃん、危険です」
たが、僕はこう言った。
「大丈夫、様子を見るだけだから……」
僕は辺りを歩き、幾つもの死体を確認した。
すると死体には、幾つかのグループが有ると解った。
この国の騎士と思われるグループ。
統一した服を着た、非戦闘職と思われるグループ。
黒装束の如何にも暗殺者なグループ。
ガラの悪そうな傭兵っぽいグループ。
この四つだ……これだけの規模で全員相討ちなんてありえない。
死体の一つに触れてみる……温かい……死んだばかりの様だ……。
待てよ、全員死んでるのか?
「第1レベル呪文……レベルサーチ」
これは、個体の強さを五段階で見る事が出来るようになる呪文だ、これを使えば、人の生死が簡単に判別出来る……何故なら死体に強さは表示されないからね……便利でしょ。
すると、やはり何人かは……まだ生きているな。
一、二、三…………六人もいる。
差別は良くないが、非戦闘職『ランク1』の人を回復させよう。
僕は、辛うじて命を保っている、瀕死の人に触れて、気を失っているのを確認する。
これなら、安心して『回復呪文』の方を使える。
「第1レベル呪文……ライトヒール」
うん、外傷は全て消えたな……急ごう。
近くの生き残りにたどり着いて、直ぐに治療を始める。
「第1レベル呪文……ライトヒール……よし、次……第1レベル呪文……ライトヒール」
この二人も完全に回復したようだ。
やっぱりこの世界の『回復魔法』より、僕の『回復呪文』の方が、使い勝手が良い。
恐らくこの世界の『回復魔法』は対象のHPの何%で治すと思われる。
それに対して、僕の『回復呪文』はHPの数値で治す。
回復量の振れ幅はあるけど、概ね。
『ライトヒール』なら、100HP
『ヒール』なら、200HP
『シリアスヒール』なら、350HP
そしてまだ使えない『クリティカルヒール』なら、660HP
だった筈だ。
今回の人達は、恐らく非戦闘職だから、ライトヒールで、ほぼ全回復したんだろう。
僕は、治療した一人の女性を叩き起こす。
ペチン、ペチン。
間もなく、女性は気がついて、辺りをキョロキョロ見ている。
その後、やっと現状が理解できたのか、
「あれ? 私、切られて死んだんじゃ……」
「お姉さん、僕が治しました。この事情を説明してくれたら、色々助けられるかも知れないので、教えてください。何があったんですか?」
このお姉さんは、目が飛び出るんじゃないかと心配するほど、見開いて驚く。
「えっ? ええっ!? ボクが? うそっ! ……ハッ、お嬢様は、お嬢様!」
お姉さんは、突然立ち上がり、その『お嬢様』を探している。
倒れている人々の中には、それれらしいのはいなかったね。
「お姉さん! それより話! それとも見捨てる?」
僕の勢いに押されて、お姉さんは話してくれた。
「はっ、はいっ! 私達は、突然暗殺者集団に襲われました。此方もそれなりの対策していたのですが、思った以上に敵の数が多くて……」
なるほどね。
「じゃ、そっちの騎士みたいなのは、仲間?」
「はい……ああ……ひどい……」
大量の血を流して倒れている、騎士達を見て震えている。
その騎士の中で、一人だけ生きている人がいる。
『ランク2』だから大した強さでは無いけど……死んでしまう前に助けてあげよう……
「グランヒーリング!」
「え? えっ?」
「お姉さん! この人をお願い! 僕は『お嬢様』ってのを探す!」
急いでいたので、少し地の口調になったかな……まあいっか……僕は人の争う気配を察知したので、間に合うように、かなり急いで移動をした。
強敵に備えて、走りながら闘いの準備をする。
「第2レベル呪文……オグルパワー」
「第2レベル呪文……ストライキング」
「第2レベル呪文……鋼皮LVⅠ」
「第3レベル呪文……ゴージャスブレス」
「第3レベル呪文……プロテクションノーマルミサイル」
五つの呪文が唱え終る頃には、戦闘現場を見つける事が出来た。
黒装束が三人、騎士が三人、三人とも『ランク3』だ、全員手傷を負っているが、黒装束等が優勢だ。
騎士の一人が、倒れた。
騎士の後ろには、綺麗な服を着ていた女の子と、付き人が二人、身を縮こまらせている。
もう逃げる体力も無いようだ。
騎士の一人が倒れ、二対三になった事で、闘いの均衡が崩れた。
急げば、四秒で合流できるけど、初手は不意を打ちたい。
後、十秒堪えてくれ。
そして、また一人騎士が倒れた瞬間、思いきり黒装束……もう『黒』でいいか……その『黒』に棍を叩き込んだ。
『黒』の一人は、目の前の敵に集中し過ぎて、僕の一撃をまともに受けた。
その人は、頸から頭にかけてあり得ない形に変形して、吹き飛んだ。
「何だと!?」×3
騎士一人と、『黒』二人が同時に僕を見る。
『黒』達は、驚きつつも、直ぐに刃を僕に向けて切りつけて来た。
さすが暗殺者……だけどね、その程度じゃ、受けるまでもなく、あっさりと避けれますよ。
「第1レベル呪文……ライト」
『黒』の一人に明かり呪文を目に掛ける。
本来なら、暗い地下迷宮を照らす為に、使われる呪文だが、目眩まし目的での使い方もある。
「うがぁっ! 目がぁっ! 」
「「眩しいっ!」」
さらに対象者以外の者達も、突然の眩しさに一瞬怯む。
この場で一秒でも隙を作ったら命取りだよ……
僕は三人目の『黒』めがけて心臓突きを実効した。
心臓を強打すると、さらにこの男の時間が停まる。
動きが完全に止まった三人目の『黒』に必殺の一撃を加える。
すると、目が眩んでる筈の二人目の『黒』が僕にめがけて攻撃してきた。
うん、流石だ……音で大体の位置を読んだんだろう……
だが、防御はなっていないな、僕の位置は読めても、僕の攻撃までは読めて無い。
HPの高そうな二人目『黒』は『オグルパワー』の掛かった僕の攻撃に、数回しか持たなかった。
ドシャァ……と倒れる最後の『黒』……これで『ランク3』かぁ……ちょっと油断し過ぎじゃないのか……これならロイエンの方が、ずっと強いよ。
ランディは一つ、勘違いをしていた。
ロイエンとセナリースは、何年もそれこそ、千回以上も、ランディと模擬戦をしていたので、ランディの独特な戦い方に、充分対応出来ていたのである。
三人目の『黒』が戦闘不能なのを確認し終わった時、最後まで立っていた騎士が、剣先を僕に向けていた。
次話で、幼年編が終わります、




