【1話】転生した主人公、餓死の危機
僕の名前はランディ、日本人としての記憶と、オタクな知識を持つ元職人、スーパークレリック『ランデイヤ』。
愛称は『ランディ』だ。
どの程度の知識かは、後で語ろう。
超チートキャラ『ランディ』になってから、自由気ままに生きて来ました。
まあ……主な行動は、軽い人助けと、見つけて拾った女性達に、プチセクハラしていただけなんだけどね。
今僕は、仲間達と三体の神々と激しい戦いを繰り広げている。
争いの原因は、僕なんだけどね……まったく心の狭い神様だな……たかだか、十数人の若者を生き返らせたくらいでよ……。
自称スーパークレリックって言うだけあって、死体の甦生なんかも、苦もなく出来る。
まあ、それがこの世界の神々は許せなかったんだろうな。
しかし、さすがに神だけあって、その力はメチャクチャ強い……もう非常識……戦いは押されっぱなしだった。
僕の攻撃では、神にまったくダメージを与えられない……だが、仲間の三人の攻撃は神々に届いている。
仲間の一人が神々の攻撃で力尽きそうになる。
「第5レベル呪文……パーフェクトヒール」
仲間の怪我は完全に回復した。
既に一時間以上このやり取りを繰り返している。
痺れを切らした神々は、三身一体の必殺技を使い、仲間を瞬時に絶命まで追いやった。
しかし、その瞬間に僕は呪文を唱えた。
「第8レベル呪文……レイズデッドLVⅢ」
仲間は即時に蘇り、タイムラグ無しで攻撃に入る。
そして隙の出来た神々に、深刻なダメージを与えた。
仲間がどんなに傷ついても、僕が回復する……やっと殺しても蘇らせる……この繰り返しにより、神々の神力は、消え去る寸前にまでなった。
だが、神々は最後の力を振り絞り、殺しても無駄なら『対象を生きたまま転生させる』といった暴挙に出た。
僕は、神々が繰り出す最後の攻撃を喰らってしまった。
薄れ行く意識の中、仲間の声がきこえた。
「しまった!」
「ランディ!」
「この、駄神がぁぁぁぁ!」
三人の仲間の、強烈な攻撃を受けた神々の消滅を確認したのを最後に、僕は意識を失った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ここは……何処だ?
意識を取り戻したが、何も見えない白のぼやけた世界……音も聞こえるが全く判別できない……
うまく思考もまとまらない……でも嗅覚だけはハッキリしている。
あの神共め、いったい僕は何に転生したんだろうか。
人間だよな? ネット小説だと蜘蛛とか蛇とかスライム、ゴブリンなんてあるからなぁ……魔剣とかも嫌ですよ?
ん? なんか良い匂いがする……そして口元にツンツンと柔らかい突起が当たった。
僕は反射的にその突起に吸い付いた。
暫く吸引すると眠くなったので意識を手離した。
▲△▲△▲△▲△
起きては泣き、泣いては寝る、そんな事を何回も繰り返した……僕はいったいどんな生物に転生したんだ?
どうやら、この肉体は深く考えるのが苦手らしい……不味いな……仲間の所に帰るどころじゃ無いな……
またしても眠気が、襲ってきた。
▲△▲△▲△▲△
ふと僕に語りかける声がする。
「ランディ、私の可愛いランディ……おっぱいの時間ですよ」
どれくらいの日々が、経過したか判らないけど、どうやら、人間の赤ちゃんに転生したらしい……しかも今のところ、この体は赤ちゃん以上の力は出せない様だ……恨むぞ神め。
僕は母親と思われる女から、母乳を貰いつつ仲間と合流する方法を考えていた。
しかし残念な事に、思考以外は完全に赤ちゃんだった。舌も思うように動かないから、喋る事も出来ない。
今の僕が出来るのは、母乳を飲むか、泣く事くらいだ……
本当は泣きたく無いが、先程ぶっ放した『う○ち』が気持ち悪い……仕方ない……
「すぅ……うんぎゃぁ! うんぎゃぁ!」
(ほらぁ! さっさとオムツ替えやがれぇ!)
さらに幾日か経過すると、状況も粗方把握出来るようになった。
この家には父親と母親に、あとメイドが1人いるみたいだ。
名前も、聴力が復活した今なら判別出来る。
三十代後半と思われる熟女メイドが『アイシャ』名前だけ聞いてると若くて美人で、可愛いイメージなのだが、現実は違う……残念だ。
二十代前半に見える母親が『クラリス』、今は長い髪を紐で簡単に束ねているが、美人だと判断できる。
しかし、美人なのに全く欲情しない……血が繋がってるせいか? それとも僕が赤ちゃんだからか……
まあ、赤ちゃんが発情しても問題だよね?
二十代半ばに見える、父親の名前は知らない。
だって聞こえるのは『あなた』か『旦那様』だもんな。
一人称は『パパ』だし……
そして、この僕の名前は、ここでも『ランディ』偶然か必然か分からなけど、愛着があるから結構な事だ。
しかし、状況が把握出来たおかげで、以前から懸念していた不味い状況におかれているのを、改めて実感した。
身体能力は赤ちゃんそのもので、自慢のクレリック呪文も使えない……生まれた場所によっては、仲間と合流するのは絶望的だった。
しかも、生後何ヵ月か知らんが、掴みたい物も上手く掴めず、寝返りも出来ない……この体はストレスが溜まる……仕方ないアレを使おう。
す~~~~う……
「ほんぎゃぁ! ほんぎゃぁ!」
(おいこら! 早く抱っこしやがれ!)
父親の名前が『ロイエンルーガ・ダーナス』だって知った頃、僕は生死に関わる重大な失敗をしてしまった。
ようやく……でも、完全ではないが、自分の意思で舌を動かせるようになったので、授乳の度に、母親の乳首を、色々と堪能していたそんなある日。
ちゅうちゅう、レロレロレロ……
「…………」
ちゅうちゅう、レロレロレロ……
「………………」
ちゅうちゅう、レロレロレロレロ……
「も……も、もういやぁぁぁぁぁ!!」
授乳を拒否されてしまった……
しまったぁ!! 舌使いが巧み過ぎたか……
僕は母親に、やってはいけない事をしてしまったみたいだ。
でも、他にすることが無いんだもの……しょうがないよね?
しかしそれ以降、母親から母乳を貰う事は無くなった。
「ほぎゃぁ、ほぎゃぁ、ぴぎゃぁ!」
(マジでお腹すいたんですけど!)
しかし、母親の姿は無い……
母親の説得に、失敗した父親とメイドは、事も有ろうか煮込み野菜を持ってきて、僕の口に流し込もうとしやがった。
「みぎゃぁぁっ! ぷぎゃぁぁ! うんぎゃぁぁ!」
(おい、こらっ! 生まれて二、三ヵ月の赤ちゃんになにしてくれんのよ! 死ぬだろうが!)
その場凌ぎで、メイドが、白湯を持ってきて僕に飲ませる。
「うんぎょょっ?、ふんぎゃぁ! おぎゃぁ、ぴぎゃぁぁ!」
(ぶはっ、熱いよこらっ? 白湯は、ほぼ人肌だろ? 三十九度にして持ってこいやぁ!)
テンパったメイドと父親は役立たずだった……
不味い……僕、死んぢゃうかも……
生後二ヶ月のランディに、餓死の危機が迫っていた。
補足……
何故三神が、回復役のランディを集中して、倒さないか……
ランディの仲間の三人が所有する武器が、神々を消滅可能な武器であったため、優先順位に混乱が生じた……と思ってください。