【18話】ランディ本気のロイエンと戦う
僕は、ロイエンと約五メートルの距離を置いて対峙している……やはり、いつものロイエンじゃない。
気合いの入り方がハンパ無い。
そんな中、ロイエンが話しかけて来た。
「ランディ、回復魔法はどのくらい使える?」
どういう意図かな? でも、嘘をつく様な雰囲気じゃない……まあ、ざっとでいっか。
「ん、エクスヒーリングで百回以上……」
「んなっ!? ……そ、そうか、なら大丈夫だな。今からお前は、俺の息子じゃない……好敵手だ! いくぞぉぉぉぉ!!」
ロイエンの様子が見た目で分かるほど、変わってきた……もう、これって殺気じゃん。
「これが、俺の全力……肉体強化魔法の五段階目だ!死ぬなよ」
ブン!!
ロイエンは、いきなり僕の胴を狙って来た。
しかし、いくら速いとは言え、攻撃の瞬間が分かっていたから、棍を上手く使い、辛うじて攻撃を受け流す。
「くっ、受け流せない様に、身体の真ん中を狙ったのに……しかも、この力と速度でも受け流せるのか?」
ロイエンは話ながらも六回ほど、切り込んできた。
木刀でも、切断出来るくらいの勢いだ。
僕は、避ける事に全力をつぎ込んだが、三回も身を避けられず、棍で受け止める事を強要された。
強い……速くて重い……コレが本気のロイエンかぁ……不味い、防戦一方だ……反撃の糸口を見つけないと押しきられる……それに、セナリースも同じ何だが……この二人凄く強くなったよな。
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そう、ランディの相手の隙を見つける特技と、隙を作り出す戦闘技術を何年も受けていたので、ロイエンとセナリースの攻防御技術は驚くほど向上していたのだった。
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一対一で遅れを取るのは、正直ショックだけど、身体はまだまだ子供だから仕方ないか……
しかし、僕には現時点で、二つロイエンに大きく勝る物がある。
それは、戦闘技術と耐久力だ。
僕は、前世の肉体の力を25%しか継承していないが、前世の僕の耐久力は桁違いに高い。
理由は『闘気』だ。
どっかの伝説の剣士みたいに、武器に纏わせて闘うなんて出来ないけど、肉体耐久力を上げることは出来る、気が緩んでなければ、包丁でザクッと刺されても、カッターナイフで刺された程度になる。
闘気は無敵じゃ無いからな?
僕は、その高い耐久力を生かし、ロイエンの一撃を腕で受け止めた。
「な!?」
よし、ロイエンの隙を付いた。
カンッ!! …………ちっ、防御されたか、もう少しだったのに、地力が違いすぎる。
肉体強化魔法……けっこう厄介だな。
だが、この方法は有効だった。
僕は、肉を叩かせて、骨を打つ作戦にして、防御と攻撃を繰り返した。
そうでもしないと、今のロイエンと互角に戦えない。
最初の内は、僕の腕に打ち込む度に、ロイエンの表情が歪んだが、僕の腕が折れない事を理解してからは、腕を打ち込んだ時に出来る大きな隙が、無くなって来ていた。
が、隙が全くない訳じゃない……その僅かな隙を利用して、僕とロイエンの攻防は拮抗していった。
……
…………
そして、最後に立っていたのは僕だった。
体力が無くなったのか、肉体強化魔法の効果が切れたのか、判らなかったけど、ロイエンの動きが急に落ちたのだ。
十キロメートルを全力で走っても、全く疲れないはずの僕が、肩で息をしている。
それほどの戦いだった。
でも、見た目九歳の子供に、本気で戦って負けたロイエン……立ち直れる?
「父さんありがとう……ごめんね……大丈夫?」
僕は、体より心を心配して、聞いてみた。
「……大丈夫じゃないが、俺の息子なら自慢出来る……ランディは戦いの才能があるから、傲るなよ……と体で解らせるつもりだったのになぁ……そう言うわけだ、俺ごとき倒しただけで満足するなよ……爵位に依らない騎士中の騎士……王室騎士団は、全騎士が俺より強いぞ……ついでだ、どうせならそこを目指せ」
「九歳の子供に、何言ってるんですか父さん……」
僕は、都合の悪い時は『子供 』を全面に押し出す……狡い?
僕はね、仲間を探せるだけの財力と権力が有ればそれで良いんだ。
だけど不思議なんだよな……カーズが僕を探せないなんて、絶対に異常事態なのに、心は微塵も焦っていない……転生の影響かな……まあ今は学院に行くことだけを考えよう。
「父さん……一応僕の目標は、騎士じゃないんだけど……」
「な、に、?」
「僕の目標は、悪徳商人だよ…………お金を一杯稼ぐんだ……」
(フフっ、内政チートのプランは出来上がっているのだよロイエン……そのためにも学院での勉強は必須だ……)
「悪徳って、お前…………」
「父さん……清いだけじゃ大金は稼げないよ……そのためにも、強く賢くならないとね……とりあえず次会うときは、無傷で父さんを倒せるようになるよ」
「うっ……親の顔が見たいくらいな、酷い育ちっぷりだな……」
「ふふっ期待してて……」
親は、ロイエンだけどね。
金持ちになって、たくさんの財産を残すのが、ロイエンとクラリスに出来る精一杯の親孝行なんだから……
これから五年間は、学院で知識を身につけて、十四歳から三年間稼ぎまくってやる。
そして、十七歳になったら…………みんな…………
チクリ……おや? 今、胸が痛んだぞ……あれぇ? 胸に攻撃なんて受けたっけ?
まぁいっか……
「父さん……グランヒーリング」
「ありがとう……随分と良くなった……」
う~ん……打ち身は完全に治ったみたいだけど、体力の回復は無しか……
色々、仮説か浮かんでくるけど……この世界の回復魔法は不便だな……
そして、ロイエンの落ち込みは、ボディブローの様に後で来ました。
落ち込むロイエンをセナリースが更に追い込みながら、家に向かった。
……
…………
翌日……僕はみんなに見送られ、この国の誇る最高訓練機関の一つ『ウエストコート高等学院』に向かって旅立った。




