【163話】開戦
~アカシア王国エスパル強襲軍駐屯地~
ここに、2万4千の兵力が集まっていた。
だが、当初の予定では、兵力2万5千が動員させる筈だったのだが、とある街で、光る剣を操る謎の人物のせいで、兵の動員が1ヶ月遅れ、今回の戦争に間に合わない事件が発生していた。
おまけに、戦争に参加予定だった特殊部隊に、裏切り者が発生し、それを追うため、参戦が見送りとなった。
だが、エスパル強襲軍の司令官は、全く問題にしていなかった。
密偵の話では、エスパルの人口は多くて3千。
そこから戦える兵をかき集めても800人弱、ただ気を付けなればならないのは、こちらの精鋭にも劣らない猛者が百数十人程度いるらしいとの事だった。
司令官は自軍を油断させないため、少々話を盛ったであろうと考えた。
問題は、敵が少なすぎる事による『武勲』の配分くらいであった。
千人単位で『将』のいるエスパル強襲軍は、工作、補給部隊を除いた、20人の将を見ながら、先陣を誰に任せるか思案していた。
その時。
「司令官殿、敵に動きがありました!」
「なんだ?」
国境を谷で分けられているため、騒ぐような動きなどあるはずもない。
気だるそうに聞き返すと、伝令の話はこうだった。
「て、敵兵が1人が大きなハンマーを持って、挑発するように立ちはだかっています」
司令官は敵は馬鹿なのか? と、考えたが、時間稼ぎだと直ぐに気づき、同時に面白い考えを思い付いた。
(既に、此度の戦争は10日以上も猶予のある日程になっている。さらに制圧にかける時間を2日間と設定している。ならば遊んでみるのもありか……)
司令官は能力ではなく、貴族としての位が一番高い将軍を指名して、命知らずの馬鹿者1人と奥に潜んでいる数百人の兵を殲滅しろと命令した。
『二日やるから、じっくり痛めつけてやれ』と。
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◇
◆
僕は『無茶をするな』と引き留めるのを無視して、独りで谷の手前に立っている。
みんなは、3百メートル後方の森にて、罠を張り巡らせている。
谷の反対側には2万以上のアカシア兵がいる。
こいつらが全員雑魚で1人づつ来てくれれば、僕の勝ちなのにな。
敵に動きがあった。
最初の賭けは、僕の勝ちだった。
巨大な移動式の架け橋が、一基僕の方に向かって進んでいる。
これが、エスパルを強襲できるアカシア軍の秘密兵器だ。
軽量で丈夫な新型金属で造られているはずの架け橋は、アルカディアとアカシアの国境を繋げる事が可能になった。
そして、その架け橋は十基も用意されていたのだ。
それにより、大軍の移動が可能になっていたが、僕の挑発に上手く乗ってくれて、架け橋は一基しか稼働してなかった。
きっと後ろでは、この新兵器に驚愕していることだろう。
「第5レベル呪文……プロテクションノーマルミサイルLVⅡ」
遠距離攻撃の対策をしてから、谷を繋いでいる橋を歩く。
広さはそこそこあるが、戦うには2人分の広さしかない程度だった。
橋は想像以上に頑丈に出来ている様で、なんの心配もなく戦える。
橋の回りに集まる敵兵はおよそ千人、口角がつり上がるほど思い通りの展開だ。
新型鎧を着ていない、弱そうな兵が2人やって来た。
「俺の名はスニケシ、貴様が名のったら開戦だ」
「俺の名はグママタ、貴様が名のったら開戦だ」
出来れば、焦らしてしばらく黙っていたい。
でも、ふざけてる場合じゃないからな。
「僕は、ランディだ。かかってこい!」
緒戦は大事だ、敵の攻撃をギリギリに避け、しかも、余裕のない感じで避ける。
僕の狙いは転落死、この深い谷へ落ちれば、僕以外は生きられないだろう。
時間も稼ぎたいが、敵も減らしたい、何回か敵の攻撃を避けたところで偶然を装い、下から突き上げるように、押し落とす。
手摺もあるのだが、腰より若干高い位置に一本あるだけなので、落とすのも難しくない。
ハンマーを大振りにして、ゆっくり攻撃する。
当然避けられるけど、疎かになった足下を偶然引っ掛けた様に動いて、落とす。
ジェスチャーで『あれ? 勝っちゃった。まあいいや、次』って動いたら先を争うように集まり出した。
それでも律儀に順番を守ってやってくる。
しばらく、これを繰り返したが、50人を超えたあたりで、新型鎧の兵が単独でやって来た。
「お前、手を抜いて戦ってるな。この俺が前倒しで来てやったぞ」
(順番を抜かした者には、この戦争が勝ってからたっぷり飲み食いさせてやると言ったが、それ以上の功績がここにある!)
新型鎧の兵士と戦いが始まった。
僕は、技を1つ追加して戦いに挑んだ。
ハンマーの柄を多用する攻撃を織り交ぜて戦った。
当然、柄では新型鎧には通用しないが、手数を増やして、敵の攻撃を弾き隙を見つけて、ハンマーで攻撃する。
新型野郎は、それすら見切り、上手く盾で防ぐが、視界は奪い意識も上に集中させた。
新型野郎の足と足の間に柄を潜り込ませて、捻る。
バランスを崩して谷底に落下しそうになったけど、まだ堪えてる。
僕は、優しく下半身を持ち上げて、落ちやすくなるよう手伝う。
「ば、バカな、バカなバカなバカな、う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」
今回気を使った点は、真面目に戦いつつも、外野では偶然勝ったように見せる事だ。
実力を隠したお陰か、暫くの間、雑魚兵士と戦うことが出来た。
……
…………
戦い続けて、もう自分の力を誤魔化せないほど、敵を谷底に落とした。
まともに戦うのは不利と気づいて、やっと遠距離攻撃が始まった。
飛び道具完全防御の呪文を使っているから、黙っていても当たらないけど、舞うように動いて避けているように見せかける。
敵側から驚きの声と罵声が聞こえるが、舞うことに集中する。
遠くからの弓矢は鈍く、手さばきだけでも避けられる陳腐な攻撃だった。
その弓矢の合間にボウガンの攻撃が混じりだした。
当たらないが、掠めた事にして、演技をする。
時間稼ぎのためだ、がんばれ俺。
何回か、ボウガンを喰らったふりをした後、回復魔法をかける真似をする。
すると今度は、剣を持った兵士が押し寄せる。
「肉体強化ぁ!」
「肉体強化!!」
たが押し寄せた兵士は谷底へと、行って貰った。
もう、僕が強いと言うことは充分伝わったはずだ。
だけど、架け橋は一基しか降りていない。
理由はわからないが、都合がいい。
このまま独りで時間を稼いでやる。
ついに、魔法攻撃までやって来たが『スペルイミュニティ』を使い、無効化してやった。
魔法攻撃は思ったより長引かなかった。
攻撃魔法使いが少ない部隊なのかもしれない。
その後は、僕の体力を奪うような戦法に変わっていった。
そして、丸一日経過して夜が明けた。




