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【162話】事件

 キャンブルビクト侯爵の荒くれ者たちが、ちょいちょい問題を起こすが、直ぐにうちの自警団に連行されて大きな問題には発展しない。


 むしろ、鼻の下を伸ばしながらシュガーに連行されている。


 このあと、ダナムにアイアンクローのお仕置きが、待っているのに。


 そして、また別の場所では、ソルティーに叩きのめされて、連行されている。

 あっちは、ダナムの所じゃなく、王宮騎士の駐屯地、テスターのいる場所か。

 テスターのアイアンクローは、ダナムより命の危険があるぞ。


 そう言えばあの4人、仲がいい気がする。


 また、別の場所では、アリサやママパルダに引きずられて、しょんぼりしている。


 統計を取ると、シュガー、ソルティーが当たりで、ママパルダ、アリサが外れなのだろうか、ママパルダはオバチャンで、アリサは絶壁だから……


 まったく、ママパルダだって充分に許容範囲だし、アリサもかなり可愛いのにね。


 テスターやダナムにお仕置きされて、ぼろ雑巾になった荒くれ者たちは、あまりにも可哀想だから、俺がこっそりクリエイトフードフリーで出したおやつを上げている。


 解りやすく言うと、一缶500円級のサバの缶詰めにマヨネーズ、玉ねぎのみじん切り、醤油を垂らして、かき混ぜたやつだ。


 これから、命懸けの戦争をするんだ、荒れちゃうのも解るからな。


 荒くれ者も、改心したのか、泣いて帰っていく。


 しかし、荒くれ者たちの検挙数は、日に日に上がるばかり。


 意味が解らない。


 荒くれ者どもと言っても、ユタの戦士よりも弱いせいか、住民に恐怖はなく『面倒臭いわね』程度にしか思われていない。



 だが、そんな平和な日々は終わりを迎えそうだ。


 収穫の時期が終わったあたりから、国境扱いしている谷の向こう側に、兵士を散見するようになったのだ。



 ◇

 ◆

 ◇



「ヌハァ! 今は兵士をほぼ見かけませんが、近日中に1万を超える兵が集まりそうですな」


 そうかドリアさんも、この状態から理解できるか。


「しかし、敵兵を確認したと言って、他の貴族は信じて応援を出してくれるだろうか?」


 そこら辺の勉強はしなかったから、説得する方法が解らない。



「ヌホゥ! それならばこの私、ドリアがいって参りましょう。ヌフゥ、身分を証明する物を持っていけば、間違いなく話は聞いてもらえるでしょう」


 そうか、ならばドリアさんに頼もうか。


「解った、ドリアさん頼みました。お供は何人連れて行く?」


「ヌハァ、今回はドロワット、ゴーシュは置いて行きます。3人ほど供を連れて行きますぞ」


 思ったより少ないが、多くても移動に時間がかかるだろう。


 僕はドリアさんを、この場で見送った。



 ◇

 ◆

 ◇


 大軍ならば、谷から森まで距離のある場所が戦場になるだろう。


 当然それを予想して、道や罠をつくり、設備を建てた。


 整地した道を通れば、馬で半日もかからないが、鎧を着た兵士だったら1日と半分近くかかるだろう。


 そんな距離にこの新緑の町ナパがある。


 既に戦争に関われない住民たちは、ユタの町に避難やルネの町に避難済みであり、一般人は後方支援のために残っているだけだった。



 早ければ、ドリアさんはウラタギリタ侯爵領から戻ってきている最中だろうか。



 陣を敷いて、アカシア軍を迎え撃つ。


 ついに、アカシア軍が集まり出した。


 エアリアルサーバントを、使ってはるか上空から偵察したが、見えない部分にも軍隊がいると想定しても敵兵は3万に満たない兵力だった。


 推定2万5千って所だろうか、これなら勝てないまでも時間稼ぎなら出来そうだ。


 こちらの兵力は約3千、一人辺りの兵の強さは向こうの方が上、ふっ、圧倒的不利な状況なのになんで、皆はここに居るのか。



 敵兵が、集まり増える度に、唾を呑み込む味方の兵。


 その中でも、先陣を切ろうと僕に要求するいくつかの部隊。



 僕は『まあ、待て』と言って抑える。


 戦い方は、アカシア軍の出方で決まるんだ。


 さあ最初は、()()来るのかな?



 アカシア軍の集まりが、思ったより遅いが、ドリアさんもまだ帰ってこない。


 交渉に時間を掛けているのだろうか。

 それとも、兵力を集めてから一緒に来るのだろうか。


 想定より、遅くなっても戦争は、もうすぐ始まる。



 僕は、先手としてある行動をとる。



 ◇

 ◆

 ◇



 ノースコート地方、タカカッタ平原。



 ここでは、アルカディア軍が5万を超える兵力を集めてアカシア王国側を見ている。


 アカシア王国側は今回、例年通りの地点に到着しておらず、ギリギリ目視出来ない場所で一時的に陣を敷いている様に見えた。


 アカシア軍と思われる旗が、日に日に増えていく。


 アルカディア軍司令官は、敵が全力で来るだろう

 と、意味をとらえ『近日中に開戦する覚悟をしろ!』と各将軍に、伝えていた。


 ただ、一部の下っ端騎士や発言力のない兵士が疑問に思った。


 あの場所に、3万もの兵力を集めておける場所があっただろうか? と。


 そして、その疑問が事件に発展するまでには、幾日かの時を要した。



 ◆

 ◇

 ◆



 ウラタギリタ侯爵邸


 ここでは、突如他国の王子が来たことに、騒然となっていた。


 一部の者は、そんな身分の高い者が、突然来るわけがないと言っていたが、ドリアの特徴のある姿を、見たことのある者たちが、多くいたのだった。


 理由は、2年近く前に行われていた、王都での式典である。


 しかも、ウラタギリタ侯爵は第2区画で、挨拶だけであるが、一度会話をしていたのだった。


 当然、ドリアの言葉を否定出来ずに、少々()()()()()あと、覚悟を決めたように話し出した。


「驚きました。まさかライトグラム伯の懸念が本当になるとは……しかしこのヒタドイタ・ウラタギリタの所に来たのは正解です。10日で、いや7日で応援部隊を編成させましょう。取り急ぎ3日後に第一陣おくります。ドリア様には()()出来る精鋭を10名お付けいたします。ライトグラム伯が安心出来るよう、早くお知らせ下さい」


「ヌハァ! 感謝するぞ、ウラタギリタ侯爵殿」



 ドリアは気づかなかった、ウラタギリタ侯爵の言葉の端々にある含みが混じっていたのを。



 ……

 数日後…………



 早馬を使って、エスパル領に向かい、細い道の谷沿いを進む、ドリアたち。



 馬を休ませる為に、少し開けた場所で休憩をする。



 その時、事件は起きた。



「ぐあっ!!」


 ドリアが連れてきた、従者の1人が斬られたのだ。


「ドリア様、悪いんですが、貴方にはここで行方不明になって貰いますぜ」



 直ぐに、ドリアを守るように位置取りをした従者だが、後ろは落下したら即死確実の高さがある崖、正面は武器を持った10人の刺客。


 既に、ドリアたちの未来は、刺殺か転落死の2択しかなかった。



「ヌホゥッ! まさか、まさか貴様ら……」

 ドリアは遅まきながら、気づいた。

 ウラタギリタ侯爵がアカシア王国と内通していた事に。



「そのまさかさ、ドリア様」

「まだ、ほとんど知られていないが、ヒタドイタ様は領地を守るため、アカシア王国と手を結んだのさ」

「だから、万が1つにもアカシア王国には苦戦してもらっては困るんだ」



「ヌフゥ! なるほど、エスパルを占拠してしまえば、ウラタギリタ領は素通り。そして王都までの障害は僅か」




「そうだ。その障害は、ほとんどノースコートのタカカッタ高原にある」

「まあ、そう言うわけだ。うちにこなければ、もう少し長く生きられたのになぁ」



 谷に押し込むように、襲い来る。


 ドリア様を守るように立ち回るが、守りきれるはずもなく、ドリアと2名の従者は転落する。


 既に死んだ残りの1名も、蹴られて崖に突き落とされた。



「くくくっ、任務完了っと」


 ウラタギリタ侯爵の刺客は、動かない事を確認して、去っていった。



 それから、数十分。


 ドリアは奇跡的に意識を取り戻した。


「ヌホゥ……何故あの高さから落ちて生きている?」


 ドリアも、全身骨折してなかなか確認が出来ない。


 だが、従者がドリアの下敷きになっているのにようやく気づいた。


「ゴフッ、そうか、そうだったのか。カハッ……だが、無駄になってしまうな」


 折れた骨は、身体の重要器官を破壊しているのをドリアは理解していた。


「ゴホッ、も、申し訳ありませんランディ様、私は、ドリアはここまでのようです」


 視力を失いつつあるドリアの目に、何かが見えたようだ。


「ゴポッ、ら、ランディ様の幻覚が見える。幻とは言え、最後にランディ様のお姿が見られるとは……このドリア、悪くない死に方でした…………」


 ドリアは最後に大量の血を吐いた後、徐々に冷たくなっていった。

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