【158話】ランディ大誤算
ついに、ブックマーク一万件を達成いたしました。
記念としまして、3日連続投稿祭りを実施いたします。
俺、頑張れ!
あっ皆様の応援のお陰です。
僕は、自分の部屋で髪をかきむしりながら、苦悩していた。
ここのところ、全く思い通りに事が運ばないからだ。
予想外のことは沢山あっても、結果は良いものに、なっていたから気にしなかったんだけど、ここに来て、悪い方ばかりになってしまっている。
100人単位で攻めてくると思っていた。アカシア王国は、万単位の兵を駐留できるスペースを用意していた。
しかも、新型鎧も数千はあった。
はっきり言おう。
敵は少なく見積もっても、半日で全滅させられる兵力差だ。
僕は、町の人々に説明して『ナパ』『ユタ』『ルネ』から全て撤退して、他の領地に大移動するよう提案した。
だが、この提案は使えなかった。
主な原因は砦の町『ルネ』から、深緑の町『ナパ』に移住した人々の事だ。
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「…………と言うわけで、アカシア王国の収穫が終わった頃、ここに大軍隊が攻めてくるんだ。領主の命令でも頼みでもある。エスパルを放棄して逃げてくれ」
みんなを集めて、言ったものの、あまり信じてもらえなかった。
しかし、僕が繰り返し伝えた事で、もしかしたらあるかも知れないとまで思ってくれたが、そこまでだった。
「伯爵様、この地を移動したところで、どこに住もうと言うのです。伯爵様なら100や200の民を食べさせる事は出来ましょうが、すでに3つの町を合わせると、3千人もの民がいます。とても幼子のいる家族には耐えられないでしょう」
「伯爵様、我々の悲願はご存知でしたよね? 我々は生き甲斐はこの町にあるのです。それを出ていけとは、死んでくれと言ってる様なもの。大恩ある伯爵様に申し訳ないのですが、私はこの地で骨を埋めます」
くっ、この馬鹿共が、100年間の思いとは、それほど重いのか。
こうして、死んでも逃げたくない民は100人以上も居たんだ。
「ならば、虐殺、奴隷も覚悟しておけ。そして戦う者は殆どが戦死だぞ?」
「領主様はいかがなさいますか?」
「悪いけど、僕に死ぬつもりは全くない。最後まで戦い、全てを見届けてから逃げる」
「伯爵様」
「領主様」
「使徒様」
この台詞のどこが失敗だったのだろうか、逃げる選択をした者たちまで、残留を決意してしまった。
戦う事を選んだ者たちは、負けて死んでもしょうがない。
しかし、戦えない者たちも多いのだ。
アカシア王国軍が、戦う者たち以外は殺さない軍隊だと思いたいが、世の中そんなに甘くない。
まずは、避難経路の作成と訓練だ。
線路は『砦の町ユタ』から『深緑町ナパ』まで複線で出来ているから、一部スペースのある場所を複々線にしてしまおう。
戦線を国境の谷とナパの外側に展開させて、戦っている間に避難させる。
さて、このエスパルで絶望的な戦に参加するのは、おそらく300人って所か。
敵を3万と考えると、絶望的な差だな。
王都にも援軍要請の書状は送ったが、現段階じゃ殆ど相手にされないだろう。
本腰を入れるのは、タタカッタ地方の戦地が、ただのブラフだと、気づいてからだよな。
最短距離で駆けぬけても、20日近くかかる距離か。
キャンブルビクト侯爵や、その他近隣の大貴族に、ここが戦地の可能性ありと伝え、早めの援軍要請も出した。
だけと、キャンブルビクト侯爵から返信は来ず、他の貴族も『敵兵を確認してから要請すべし』との書状が2通着いただけだった。
一度、命を捨てる覚悟で戦争に参加するの者を呼び集め、見定めようとしたら。
2千人近くの人間が集まった。
エスパルにある3つの町を合わせても、今の人口は2千9百人を超えたばかりだ。
見ると、女子供まで武器を持ち、覚悟を決めたような表情で立っている。
どうやら、この町には僕じゃ理解できない郷土愛と言うものがあるらしい。
100年前のアンデットモンスター襲来では逃げたのにね。
その100年が郷土愛をより強くしたのかも知れない。
それに、ユタの民もほぼ全員参加だ。
僕は諦めて、食量を大量に確保するため、町の人を沢山働かせる事にした。
そう、殆ど期待できない援軍が来た時のために。
農地を拡大して、次の収穫を大幅に増大させる。
地下城に入り、マミーのドロップアイテム『丈夫な布』を大量に入手して、耐火製のローブを作りまくる。
クリエイトフードを毎日コツコツと使い、保存食とする。
新ベルデタルの剣士団をこき使って、修行と生産を同時に行う。
何をやっても、勝てるイメージは浮かばないが『何もしない』なんて事は出来ない。
あとは、王都に頼んだ援軍がどの程度来てくれるかに、賭けるしかなかった。
あまり、期待はしていないが。
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◇
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アルカディア王国のある場所で、軍事会議が行われていた。
軍事会議の中身は、アカシア王国の軍部主幹部任期が切れた事実確認がとれた事で、タタカッタ高原に6万を超える大軍隊の編成計画が可決されたところだった。
これは、ランディが王都に送った書状の『アカシアの伏兵攻撃の可能性あり』により、予定より兵力が増強されたためだ。
「これは、かつてないほどの大軍隊になりますな」
「先陣は、我が金翼騎士団にお任せ下さい」
「いや、銀角騎士団こそが、先陣を斬るに相応しい」
「それよりも、あの伯爵の意見はどうする?」
「アカシア王国の国境にいるせいで、恐怖のあまり妄想に囚らわれた様だ」
「いや、いや、ライトグラム伯爵は頭脳明晰だと聞く。あえて二種類の書状を時間差でだし、どちらかに信憑性を持たせる企みがあるのやもしれん」
「それに、他の土地から伏兵を侵入させるのは十分にあり得る」
「ならば、此度の大編成の一端に、ライトグラム伯爵の影響もあったか……」
「では、形だけでも此方の誠意を見せねばな」
「ライトグラム伯爵が戦闘に関して優秀でも、エスパルは広い。50人くらい都合をつけてやれ」
「一戦を退いた、老兵を使っても?」
「見張りが主な役目だろう。構わん」
こうして、更なる思惑が重なり、黒尾騎士団から新兵や老兵が集められ、予定の人数を下回る人員がエスパルに向かって出発した。




