【157話】偵察返し
すみません遅れました。
恐らく1人を残して、アカシア王国と思われる密偵は殲滅させた。
これで、来年起きるであろう戦争は、例年とは違った戦いになるのは間違いない。
僕の予想だと、国境地帯の十数ヵ所に、陽動部隊を展開して、遊撃、挟撃や破壊工作など、様々な嫌がらせをすると見た。
次の戦争での、アルカディア王国側は兵力5万弱、アカシア王国が例年通りだとしても、2倍に届かない。
補給線を襲われたり、ピンポイントで遊撃、挟撃などされたら、大敗もあり得る。
そして、アカシア兵の一部がエスパル経由で来るのは、密偵がいた事から確信できる。
一応、有刺鉄線の攻略法は教えたから、その方法で攻略してくると信じたい。
思いもよらない方法を使われるより、対処がしやすいからな。
問題は、エスパルにやって来るアカシア兵が、どの程度の規模でやって来るかだ。
50なのか、100なのか。
軽装なのか、新型鎧で来るのか。
新型鎧で来るのなら、どんな手段を用いて谷を渡るのか。
僕は、2ヵ月ほど間を置いて、単身でアカシア王国側に乗り込むことにした。
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そして、2ヶ月が経過してアカシア王国に潜入していた。
3日ほど費やして見つけたのは、僕の足で半日の距離にアカシア王国軍と思われる施設だった。
その施設は、殆ど空っぽの駐屯地と何かをしまっておく施設だ。
僕は自分の考えの甘さに、衝撃を覚えた。
駐屯地は少なくとも、3万人ほど待機が出来るほど広大だった。
3万人全てが集結するとは限らないが、兵力100って事はないだろう。
駐屯地は殆ど無人だが、何かの施設は人が多くいる。
夜になるのを待って、施設に侵入する事にした。
……
…………
敵兵の目を掻い潜って、見つけたのは、1000着を超える新型鎧に剣。
そしてその奥にある、巨大な建造物。
ば、バカな……こんな物を造っていたなんて……
確かに、あの軽量で丈夫な金属を使えば、可能だが、そんな発想をするとは。
ま、不味い。
アカシア王国の狙いは、挟撃でも遊撃でも破壊工作でもなかった。
狙いは恐らく、兵力の空になった王都。
だが、王都に着く前にエスパルは蹂躙される。
せめて、1つか2つでも破壊をしないと。
僕はその建造物を破壊しようと、少し近づいた。
ビーッ!! ビーッ!! ビーッ!! ビーッ!!
なんだと!?
警報? 僕が人の気配を察知出来ずに、警報を鳴らされただと!?
辺りを再度確認すると、この世界では見たことがない物が、僕の直線上にあった。
ま、まさか赤外線? くっ、遺跡のマジックアイテムか。
警備兵の反応も早く、かなりの数の人の気配がしてきた。
「第3レベル呪文……プロテクションノーマルミサイル」
この呪文を唱えた10秒後、短い形の矢が飛んできた。
ボウガンだと!?
しかも、狙いも正確だ。
なるほど、特務隊が満身創痍で帰ってくる訳だ。
僕も建造物の破壊はあきらめて、逃げ帰る。
次々と増えていく追手。
中には新型鎧を装備して馬に乗っているのもいる。
火矢を使い、僕のいる場所を仲間にも特定させて、一部は先回り、他は退路を限定させるように移動する。
「矢が何本か当たっているのに、速度がおちねぇ」
「人神の加護、いや人神の愛をもっているギフト持ちかも知れない」
「生け捕りは諦めよう。確実に殺せ」
追手の声も、よく聞こえる距離まで近づいてくる。
「第1レベル呪文……コーズフィアー」
相手の馬に恐怖を与える、呪文を使い追手を撒く。
この鬼ごっこは半日近く続いた。
プロテクションノーマルミサイルも、24時間対応の強力な呪文をかけ直し、国境のある谷までもう少しのところまで来た。
後は、助走をつけて向こう岸までジャンプするだけなのだが。
僕はちょっとだけ考え事をしていた。
「恐らくこっちだ」
「逃がすなっ」
「投光器を持った、騎兵が直に来るぞ」
もう近くまで来ているのか。
では、先程考えた作戦で行くか。
アカシア兵に気づかれるのを覚悟で、谷に向かって走る。
「いたぞ!」
「ファイヤーボール!」
「ファイヤーボール!」
攻撃魔法使いもいたか。
ちょっと熱いけど、都合がいい。
僕は谷を飛び越える様に大きく飛んだ。
「なっ!?」
「ファイヤーボール!」
「ファイヤーボール!」
「ファイヤーボール!」
3発のファイヤーボールの内、2発が僕に命中した。
そして失速した僕は、向こう岸までたどり着かず、切り立った崖に吸い込まれるように、ぶつかって行った。
「やったか?」
「ああ、仮にファイヤーボールに耐えられても、転落死だな」
「念のため、投光器で崖を照らせ」
……
…………
「見つからないな、間違いなく死んだか」
「だが、たった1人とはいえ、我々の包囲網を掻い潜りここまで来たんだ。これが噂に聞くアルカディア最強部隊、王族特務隊か」
「アルカディアも流石たが、密偵の話だと、本当に凄いのは十数人にとどまるらしい」
「そうだ、一般兵の錬度はアカシア王国が上なのだ。その証拠にあの男は自国に帰れず転落死だ」
「念のため、投光器を朝まで使い、確認せよ」
「はっ!」
他にも色々兵士が話していたが、聞こえていたのは、この程度だった。
僕は『ハイディングミネラル』で崖の中にダイブしたのだ。
鉱物の中では、空中浮揚の感覚でしか移動出来ないから、ゆっくりと移動してナパの町に帰った。
せっかくここまで町を発展させたのに、その全てが台無しになる。
僕の帰る足どりは、思いの外、重かったのを感じた。




