【148話】ランディVS双子姉妹
双子の妹の方と、闘う事になった。
先ずは小手調べで、ちょっと早いパンチをお見舞いする。
僕のパンチは止められ、下に逸られて左胸に肘打ちがくる。
僕は盛大に吹き飛ぶ。
「当たりがずれたのに、吹き飛んだ?」
「シュガー、あいつ、自分で飛んだわ」
「えっ!?」
ヒットポイントをずらして胸で受け止め、それと同時に飛んでダメージを逃がしたのを見抜かれた。
しかも、僕の攻撃を簡単に見切った。
20歳かそこらで、何て技術を身に付けてるんだ。
ペンタゴン並の才能だぞ。
「エロガキにしてはやるじゃん。だけど、同じ手は使えないわよ」
なら、もう一度、先ほどよりも少し早いパンチを繰り出す。
「甘い!」
これも、簡単に止められたが、僕もこの瞬間、拳を引き、肘打ちに変化させて相討ちに持っていった。
「ぐっ!?」
「シュガー!」
小手調べだから、そんなにダメージはないはず。
それに、あの豊満な胸の下は、鍛えられた筋肉で守られていた。
「半殺しよ、肘とはいえ、私の胸を堪能するなんて、半殺しよ!」
堪能まではしてないんですが、一応闘いに集中してます。
僕の攻撃を、半分以外の力で殺しきり、反撃をする妹のシュガー。
その反撃を螺旋の動きを使い、逃がして蹴りを当てる。
だが、これも力を利用され空振りする。
「ちょっと、このエロガキ、おかしいわよ? 何でこんな事が出来るのよ?」
それは僕のセリフだ。
軽く闘ってるとはいえ、僕の攻撃を全部受け止めるか弾いている。
しばらくシュガーと闘い続ける。
仕組みは完全に理解出来ないが、僕の3分の1の力さえあれば、完全に僕の攻撃を封殺できるみたいだ。
だから、もう少し早く重く、受け止めにくい角度で攻めてみる。
やっと、まともな一撃を与えたけど、伝わるのは筋肉の感触。
「こんな相手、はじめてだわ……エロガキ、名前は? 私はシュガーナ」
「ランディ……」
「ランディね。その歳であの技量、無言の肉体強化魔法、素晴らしいわ。エロガキじゃなかったらお付き合いしても、良いくらい」
僕は『エロ』だけど『ガキ』じゃないんだな。
『オヤジ』だ。
それに、肉体強化魔法は使えないよ。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
今のは肉体強化魔法!?
こっからもっと強くなるのか。
すごい……いや、勿体ない。
「これは肉体強化魔法の5段階目。私はこれを習得するのに15年も費やした。早く動けるために、反復練習をしてきたの。この意味が解るかしら?」
ああ、解るよ。
竜神のギフト持ちで、肉体強化魔法を使えるやつは、たいがいそう言った訓練を積んでる。
例外はテスター他、ごく一部だろう。
こんどは、ゆっくりとシュガーが仕掛けてきた。
僕の手首を掴み、押して引き、斜めに押したら、回転投げを仕掛けてきた。
もろに術中にはまっちゃった。
どうせなら綺麗に投げられ、その隙に相手の手首を掴み返して、着地と同時に背負い投げをする。
「ふっ」
しかし、背負い投げは失敗に終わる。
完全に押さえ込まれてんじゃん。
仕方ないから、足下をチマチマ攻撃しながら、チャンスを待つことにした。
「くっ、あっ、はっ」
ほうら、やっぱり。
シュガーの異常な技術も、バランスが取れてなければ、半減するようだ。
シュガーが一旦距離をとって、僕に指を差す。
ん? と思っていたら、目の前に小さな炎が出現して前髪を焦がす。
そして、バランスを崩した僕に向かって、蹴りを放つ。
「シュガー、いけない!」
シュガーの蹴りを腕を捻りながら、逸らして蹴り返す。
「くっ、もう一度……」
シュガーは、またしても僕に向かって指を差す。
シュガーのあれは、飛ぶ生活魔法だ。
レジーナとアリサが使う、便利な料理技。
殺傷能力は皆無だが、相手の虚を突く素晴らしい技だった。
だけど、甘いよシュガーちゃん。
「避けた!?」
そのまま、シュガーの発火攻撃を避け、最後は火を顔で受けとめ、攻撃する。
シュガーはバランスを崩したのか、僕の連続攻撃を殺しきれない。
良い一撃を与えようとしたら、姉が割り込んできて、止められた。
「お姉ちゃん……」
「シュガー、貴女ではこの男に勝てない。私がやる」
妹と全く同じ構えを取り、気合いをいれる。
「はっ!! 私は肉体強化は6段階めまで使えるわ。私の名前はソルティナ・クロウニンよ」
フルネームにはフルネームで答えるのが礼儀。
素敵なお尻を見せて貰った事だし、ちゃんと答えねば。
「ランディ・ライトグラム、折角のサプライズプレゼント、この記憶は永遠のメモリーにする。負けてあげないよ?」
ソルティは一瞬ピクッとしたけど、隙を見せない。
代わりに、シュガーが思いきり驚いてくれる。
「ライトグラムって言ったら、ここの伯爵の名前でしょ? 嘘っ!?」
「いや、ランディはここ一帯の領主で間違いない」
おっ、ダナムも復活していたか。
シュガーにちょっと手こずったから、ソルティには悪いけど、早めにケリをつけるか。
……
…………
姉のソルティは、シュガーよりも、ちょっとだけ強かった。
シュガーより、少しだけ早く、少しだけ巧く、力は同じくらい。
だが、呼吸を読み取る技術はシュガーよりも、だいぶ巧かった。
「な、なんなの!? あのお姉ちゃんが押し負けてるなんて……」
「いや、それはこっちのセリフだ、あのランディとここまで闘えるのは、ハッキリ言って異常だぞ」
「ああ、ランディは王宮騎士を相手にしても、あっさり勝てる程なんだぞ」
ダナム、テスター、そんなに褒めないでくれよ。
調子に乗っちゃうからね。
ソルティの調理に入ろうとして、息を吸い込んだ時、口元に水が出現して吸い込んだ。
それらしい素振りはなかったけど、飛ぶ生活魔法で水を少量出したのだろう。
呼吸が乱れると同時に、襲ってくるソルティ。
真面目になって攻撃を捌きながら、息継ぎをして、ソルティナを見る。
「強いな、2人ともぶっ飛んだ強さなのに……惜しいな」
僕の言葉に、ソルティナが感情を顕にして答える。
「お前も『男だったら良い騎士になれる』とか言うの? つまらないわ!」
いや、そうじゃなくてね。
闘いながら、バラすか。
「いや、勿体ないのは武器を使った戦闘だと、それほど強くないのが判った」
「うっ……それが何だと言うの?」
僕とは別の意味で刃物が使えないと見た。
理由はいくつか思い当たるが、確証はない。
「この練度のまま、武器が使えれば、国中を轟かす戦士になれたものを……勿体ない」
「…………」
しばらく、闘いを続ける。
ダナム、テスター、シュガーが外野で会話をしている。
「あの、領主は男女で差別しないの?」
覗き以外で男女差別はしません。
「ああ、しないぞ。ランディは強いか弱いかで人を見る」
ダナム! お前と一緒にするなっ!
「いや、ランディは笑えるか、笑えないかで人を見るぞ」
テスター、間違ってないけど、それだけじゃねえよ。
だけど、いくら相手の得意分野で闘っているとしても、これ以上の苦戦は、今まで僕と健闘してきた人たちが可愛そうか。
じゃ、僕の基本を見せてやる。
一旦離れてから、ゆっくりと歩く。
「くるっ!?」
ソルティの意識の外から攻撃を仕掛ける。
寸前で気づいて動くが、今までのように攻撃を受けとめる事が出来ない。
そんな攻撃を繰り返す。
良いところで、口元に水が入るが、口内にためて勢いをつけて、ソルティの目に水鉄砲にしてやり返す。
「なんで、あんな攻撃が当たるの?」
「そうか、ランディの攻撃は今が本番だったんだ 」
「えっ、どういう事なの?」
「ランディの攻撃は、対戦相手には物凄く見えにくいんだ」
「テスターの言う通りだ、ランディのあの攻撃は、相手の身体能力が数段上でなければ避けることが難しい」
「うそっ!? だってあの身体能力なら、竜神の加護と人神の加護、両方あるような感じだったわよ? それを数段上回るなんて、そんな……」
「そうだ、今のランディに力で対抗出来るのは、肉体強化魔法を限界まで使ったこの俺様と、竜神の愛を持つテスターくらいなもんだ」
「それでも、速さに翻弄されて。ダナムと2人がかりでも相手にならない」
ソルティを叩きのめしているが、決定的な攻撃は避けている。
素晴らしい、武器が苦手なのを差し引いても、相当強い。
これなら、自警団とかに向いてるかもしれない。
竹を短く切り落とした、玩具の武器ならなれるのも早いかな、今度作ってみよう。
「ま、参った。私の負けです」
考え事をしながら闘っていたら、敗北を宣告された。
だけど、僕を見るソルティの顔には悔しさは感じ取れなかった。
キラキラした瞳で僕を見つめている。
これは……まさか、新しい玩具を見つけた時の瞳!?
シュガーも同様に僕を見つめている。
不味い、僕の自由時間が減ってしまう。
とりあえず、良い物を見たから、後はテスターとダナムに任せるか。
「僕の領地エスパルへようこそ。観光なら、この先の町『ナパ』に行くといい。そうでないなら、そこにいるダナムとテスターに案内してもらって。僕はまだまだやることがあるから、ダナム、テスター、2人をよろしく」
面倒な予感がしたから、僕はこの場をさっさと移動した。
◆◇◆◇◆
ランディを見送った、ダナム、テスターと双子姉妹だが、姿が見えなくなったあたりで、ソルティナが口を開く。
「なんて、孤独なの」
「ん?」
「はっ?」
テスターとダナムは、孤独の意味を理解出来ていない。
「お姉ちゃん、それって……そこまでなの!?」
シュガーナは意味は理解したが、驚いている。
「身体能力はもちろんの事、技の種類が豊富で、そのどれもが深淵まで辿り着くような感じだったわ」
ソルティナはランディの戦闘能力が突出しすぎている事を看破した。
「お姉ちゃんと2人掛かりでも、だめ?」
「そうね、本気の得意分野での彼なら、相手にならない。本当の意味であの人と肩を並べる人間は間違いなくいない……なんて孤独なのかしら」
「……」
「……」
ようやく意味を理解した、ダナムとテスターも、ランディがいなくなった方向を、しばらく眺めていた。




