【145話】集結①
case1 ハベンスキー
ワシは今、暇をもて余しとる。
ウエストコート高等学院の学院長を辞任したからだ。
最後の最後で『高等学院にウエストコートあり』と知らしめてからの辞任だったので、継続の要請もあったのだが、高齢を理由に引退した。
ワシが引退しても、両手魔法の技術は引き継がれるし、回復魔法もランディとアリサがいた時ほどではないが、平均を上回る習得率を維持している。
暇になったとは言え、何か生き甲斐を見つけないとな……と、思っていたら。
国から、書状が届いた。
書状の中身は、あの辺境の地『エスパル』で教師にならないか、との事だった。
乗り気はしないが、最後まで書状を読んだら、気が変わった。
エスパルの領主の名前が記されていたからだ。
エスパルの領主名前は、ランディ・ライトグラムと、書かれていた。
「さて、骨を埋める土地が、あのエスパルになるとはな」
ワシは急いで、引っ越しの準備を始めた。
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case2 レオパルダ
「パルダ、すまないね、足手まといになっちゃって。いっそのこと母を捨ててもいいんだよ。パルダ1人なら……」
「お母さんっ! 駄目だよ、そんな弱気になっちゃ」
母は私の回復魔法では治らない、謎の病気を患っていた。
ここ最近は、状態が悪く、誰か付きっきりで看病しないといけないくらいだ。
今までなら仕事が終わってから、お母さんの面倒を見てれば何とかなったのだが、それが出来ないせいで、仕事を取るか、お母さんを取るか選択を迫られたので、今の仕事を辞めてしまった。
先代の国王から、獣人の扱いは徐々に良くなっていったが、こんな事態になると、周囲の冷たさを感じてしまう。
私はある噂を耳にしたので、賭けに出る事にした。
かなり遠いが、ノースコート地方にあるエスパルと言う領地は過酷で、かなり住み難い所らしい。
ただ、猛獣や魔獣と戦って生活を得る土地なのに、回復魔法使いが殆どいないと聞いた。
ここならば、回復魔法を使う私ならば、獣人と差別されずに働けるかも知れない。
幸いお母さんは、看病さえしていれば、移動にはまだ耐えられる。
ここで貯蓄を食い潰すより、エスパルに懸けて見ようと思う。
私は、東西の仲が悪いと言われているエスパルの町、ユタに行く事にした。
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case3 テスター・バスター
俺は毎日、猛特訓に明け暮れている。
理由はこれから戦争が始まるからだ。
今回の戦争は、王宮騎士が3分の2も出動する例年にない事態になっている。
俺が子供の頃は、小競り合いを毎年していたらしいが、ここ10年近く戦争はない。
しかし、ここに来てアカシア王国軍の動きが活発化してきたのだ。
理由は、王族特務隊が命がけで持ち帰った、新型の鎧だろう。
アカシア王国は新型の鎧を軍隊に配備して、戦争を仕掛けるかも知れないのだ。
こんなとき、俺とジョーシンさんが団長に呼ばれた。
もしかしたら……
「ジョーシン、テスター、待っていたぞ。私も忙しい、早速だが本題にはいる。例年、新人研修に使っていた施設を移す事になった。理由はその場所が更なる訓練を見込めて、場所も王都より10日も近くなる」
「団長、それでその話がなぜ、私とテスターに?」
ジョーシンさんが、俺が思った事を代弁してくれた。
「そこの領主が問題なのだ。調査隊に非があったのは間違いないが、身体中に痒くなる草を入れられ、縛られて馬にくくりつけられて戻ってきたと言う」
団長の言葉が、ちょっと信じられない。
「団長、調査隊も退役した王宮騎士じゃ」
「ああ、衰えたとは言え、そこいらの騎士より強い。その7人の調査隊を単独で倒し、その昔、王宮騎士が浄化に失敗し、闇の公園と呼ばれた、大魔境エスパルを、たった数日で浄化した化け物が今の領主だ」
「そ、その名前は?」
ジョーシンさんが聞いてきたけど、俺は訳が解った。
このタイミングで呼ばれたなら、その領主は俺とジョーシンさんが知っている人物だ。
「エスパルの領主、ランディ・ライトグラム伯爵、おそらく今の彼奴は私とスクット・リッツの2人がかりでも勝てはしないだろう」
今、ノースコートに行くことは、アカシア王国との戦争に外されたと同義だと言うのに、胸が高鳴る。
ふふ、ワクワクしてきたぞ。
「あの、ランディか……もしかしたら、戦争に行った方が楽なんじゃ」
「……」
「……」
ジョーシンさんそれは言わない方が。
「ジョーシン、テスター。これは上からの勅命である! 至急エスパルに赴き訓練場所を確保せよ」
「はっ!」
「はっ!」
こうして、俺とジョーシンさんはエスパルに旅立った。
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case4 ガルサンダー
我が主、ランディ様がいなくなってからしばらく経過した。
元子爵邸付近は、新たな商会が多数参入し、賑やかさは変わらぬと見たが、徐々に人が減っていき、今や半数以上が閉店してしまっている。
主殿と同じことが出来るわけないだろうに。
仕事仲間のアルテリオンが、予想より早く戻ってきた。
しかも血相を変えて。
まさか、王命であるシャンプーとリンスの買い付けに失敗したのか?
この雷撃のガルに任せてくれれば、良かったのに。
2日後、王都にいる特務隊幹部が全員呼ばれた。
呼ばれたと言っても、王都にいる特務隊は、このガルサンダー、アルテリオン、マテララーンとサンジェルマンバカ王子しかいない。
ボスは特務隊トップで、しかも王族なのに現場が大好きだから、出かけてしまっている。
ここには、王様もサンパウロ王子も同席している。
全員集まったところで、アルテリオンが立ち上がり、頭を下げてから、話始める。
「国王様の要請で至急集まって貰いました。今回の緊急会議の議題は、あのエスパルです」
それは、知っている。
早くその続きを言え。
「ダークソード、俺は一昨日から待たされているんだ。はやく言え」
そうだ……バカ王子の言う通りだ。
「今回は王命もあり、馬を乗り継いで行きましたので、ダークロッドのランディがエスパルの町に着いてから、1ヶ月は経過していない時に到着したのですが、あの不仲な町『ユタ』は完全に統一されていました」
「おお……」
「さすがだな」
「少し早い気もするが、予想はしていた」
さすがは主、しかしバカ王子の言う通り、想像できる範疇だ。
「さらに、ユタの町北側を埋め尽くしていた『魔獣』と呼ばれていた『死のモンスター』を一掃し浄化していました。これにより150年前に滅んだ町『ナパ』を取り戻し、キャンブルビクト侯爵領近くの砦から、移住計画が始まっていました」
これを聞いた2人の王子は『バカな!?』と言って立ち上がる。
こうして見ると、あの王子たちは兄弟なんだと思うくらい似ている。
因みに見分け方は簡単で、聡明な方がサンパウロ王子でバカな方がサンジェルマン王子だ。
「しかし、移住計画は現在難航中の様です。理由は、ユタの町で採れる素材が半年前の10倍になっていて、砦での仕事が激増しているせいでしょう。砦の住民……以降ナパの民としますが、ランディはナパの民から神格化されているほど信頼されています。そしてユタの町では、悪魔や化け物と言われていますが、出会った全ての民がランディを信頼していました」
さすがは主……あの町の民も正しい目を持っているな。
「まだ、何か言いたそうだな? たった1ヶ月足らずで何をしたんだ?」
「いえ、ランディがやったことは後1つだけですが『レール』と名付けた、鉄の棒を地面に敷いて、その上を走らせる荷車を作っていました。砦からユタ、ユタからナパまでをそのレールで移動と輸送を簡易にするものです。詳しくは三日後の会議で。で、今回の一番重要な話は……」
おい、まだ何かあるのか。
「エスパルに『生きた遺跡』が存在していました」
なんだと!?
当然、先に報告を受けていた王以外は、騒然としている。
だが、アルテリオンはそのまま淡々と話を続ける。
「遺跡は現在調べた時点で、低層階ではそれほど脅威になるガーディアンはいません。ですが採掘できる素材も普通の鉱山や、細工屋で造れる物でした。まあ、下層に行けば分かりませんが。他の機関や部署が騒ぐでしょう。こちらとしては、北側に位置するので、特務隊を1名派遣して、定期的に様子を見る、と言うことで纏めようと思います」
よし、主に会う絶好のチャンス。
「そこで、この俺の出番か」
「サンジェルマン、お前はバカか? 王子が長期間、王都を離れてどうする?」
第二王子は本物のバカだ。
結局、俺もずっと王都はなれる訳にはいかず、マテラ・ラーンと交代で、エスパルに行く事になった。
キンジ「こんにちは、スーパーマジックユーザ、キンジっす。今回のタイトル『集結①』って事は、次回は②なんすか?」
ガル「いや、次回は『第7レベル呪文解放』だ。あと1年、あと1年で転生前のランディに戻るぞ」
キンジ「おれも、毎年レベルアップしたいっす」
ガル「午前にアーサー、昼間にカーズ、夜に俺様の修業に耐え抜けば、毎月レベルアップ出来るぞ?」
キンジ「それ、絶対に死んじゃうやつっす」




