【135話】年齢150歳の雑魚
この私の名前は、カマドーマ。
至高の御方、バハムアーク様に命と名前を頂いた、この世に生まれ出て150年の、高貴なる存在だ。
私はバハムアーク様から賜ったマジックアイテム『ランクサーチグラッセーズ』を装備している。
1日3回しか発動できないが、これを使って確実に獲物を捕らえている。
本来ならば、町の人間がもっと油断したところを襲うのだが、もう少しでバハムアーク様が自由に活動出来る様になるから、気が急いてしまう。
「ククク……いたいた。ランク2が2匹、つがいで歩いている。120年前から町を二分割させ、仲違いさせてからは、幾度かこのような愚かな餌がくる。ククク……笑いが止まらぬな」
「ランク1は、ゴミ。ランク2は、弱者。ランク3は私と同じ強者、ランク4は至高の御方の様な超越者か……私はランク3の中でも強い方だと言われたが、万が一もある。が、確実にランク2の餌が来た時だけを狙い、生きたまま切り刻み、じっくりと狩るのだ。ククク……いだだきまぁす」
私は餌の前に立つ。
「キャア!!」
「バカな!? ここは魔獣の来ない安全地帯の筈じゃ」
「ククク……バカめ。それは至高の御方が操作した結界だ。だが、この私だけはそれを潜り抜ける事が出来るのだ。さあ、バハムアーク様の贄となれぇ!!」
「なっ? 言っただろ? 知能の高い魔獣が犯人だって」
「こ、これに俺の妹が殺されたのか? それに120年前からって、そんな」
なんと、後ろから人の声がした。
振り向くと、少年と青年が2人、この私を見ている。
「ククク……何処にいたんですか? 予想外ですが、贄が追加になりました。ランク2とランク……ん? ククク……メガネが曇りましたか? 」
私はメガネを拭いて、かけ直す。
「ククク…………少年は、ラ、ラララ……ランク5!? あ、あり得ない、あり得ないっ!!」
◆
◇
◆
馬の胴体に、リザードマンの上半身が合体した変な生き物がいた。
しかも、メガネは装着してるし、やたら独り言が多い。
その独り言のお陰で、町を仲違いさせた犯人はこいつだと、手間なく判った。
ただ解せない。
この魔獣が口にした『ランク5』の単語。
剣を持っている事から、クレリック呪文を扱う魔獣とは想像しづらい。
戦士を昇華させた職業ならあり得るのだが、恐らく、眼鏡にクレリック呪文が内包されいるのだろう。
「ククク……間違いだ、ランク5なんか聞いた事がない! きっとゴミ以下の存在に違いない! この150年を生きるカマドーマ様を驚かせた罰だ、死ねぇ!!」
この魔獣の降り下ろす剣は鋭い。
しかし、タイミングが分かりやすく、避けるのは難しくない。
カン!
軽く反撃しても、硬い鱗のせいで、ダメージがあまり通っていなそうだ。
ならば……
「ククク……やるな? だが、これならどうだ『ダークベビースラッシュ!』」
正確で早く重い一撃だと感じ取れるが、正確さが余計だった。
タイミングが分かりやすいから、正確さも相まって、攻撃が分かりやす過ぎる。
「す、すごい、トウセンさんに勝ったのも偶然じゃないのか」
トラジ、感心してる場合じゃないぞ。
さあ、もっと攻めるぞ。
「第3レベル呪文……リバース……シリアスダメージ」
回復呪文の逆呪文でダメージを与えたあと、持ってきたハンマーで頭部を叩く。
「ゴハァッ……クレリックのリバーススペルに、ダブルアタックだと!? し、しかも詠唱を省いた?」
ちょっと待て、呪文と攻撃を併用する戦闘法『ダブルアタック』を知っているのも驚いたが、クレリック呪文の逆呪文を知っているだと。
「クレリック呪文……しかも逆呪文を知っているのか? おい、リザードケンタウロス、お前に色々聞きたいことが出来た」
「ハヒィッ!? ラララ、ランク5……ゴキュ。ヒヒィィィィィィン」
上半身リザードマンのくせに、馬みたいな悲鳴をあげて逃げ出しやがった。
状況判断も正確だ。
下半身は馬だけに、速いな。
「神速!」
「速い!? 今回の領主は何者なんだ?」
全力で逃げるリザードタウロスの後ろ足をハンマーで破壊して、動きを封じる。
聞きたい事もあるし、トラジの妹を殺害した犯人だろうから、瞬殺は止めておくか。
「トラジ、早く来い! 妹の仇なんだろ? さて、あいつが来る前に聞いておこうか、リザタウロス。何故クレリック呪文を知っている?」
「…………ククク……この私もここまでか。バハムアーク様! 謎の化け物相手に、私はここで朽ちる様です。ならば最後の贄はこの私、カマドーマで御許し下さい。私はリザタウロスではない!!」
リザタウロスは剣を僕に投げてきた。
当然、避けるが、その間にリザタウロスは自身の爪を伸ばして、自害してしまう。
レイズデッドを使ってまで聞きたい質問じゃないから、諦めるか。
それに、事情をしっているのがもう1人いそうだしね。
バハムアークか、覚えておくよ、リザロス。
「はぁ、はぁ、こいつ、死んだのか?」
「ああ、ちょっとやり過ぎたから、自害しちゃった。だが聞いていただろ? トラジの妹を、いや120年間にわたって、この町の人々を殺害していた犯人を」
僕とトラジは、ハイディングミネラルで岩の中に隠れていたんだ。
それと、安全地帯と危険地帯の境界付近で待機していたんだ。
たった2日目で当たりを引くのは、イージー過ぎるけどね。
トラジ以外にも、証人もいるし、東側と西側の仲違い事件は一件落着だ。
……とは、行きませんでした。
リザードマンタイプのケンタウロスを、持ち帰り、町の人々に見せて、説明した。
だが、町の人々は呆然としていた。
それはまるで『こんな化物に町が東西で仲違いされていたの!?』とでも語っている様だった。
だが、数時間で元気を取り戻して、東西をひとつの町に戻すと決まった。
だけど、東西の不仲の原因は取り除いたのに、どうもギクシャクしてるんだよな。
特に、町長の2人が。
でも、子供たちは遊び相手と遊ぶ場所が増えたから楽しそうだ。
僕は改めて、この町について説明を受けた。
この町ユタは、広さのわりには人口が800人を少し欠ける人数で、かなり少ない。
理由は農地の少なさや、魔獣猛獣により生存圏が限られているためだ。
ユタは中央に大きな柵を作り、東西で分ている。
その、間隔は100メートル程あるので、みんなが来たときの拠点にしようと思う。
あと、町の南側の大森林は猛獣が多く棲息して、少しでも油断すると、こちら側が捕食されてしまう程なのだとか。
気になるのは、100年以上前はなんとか、討伐していたと言う話なので、町の戦力が落ちたか、猛獣がパワーアップしたと言う事になる。
北側は魔獣の棲み処で、ある意味では猛獣より厄介だと言っていた。
ある意味とは何だろうか。
ただ、こちらには対処法があるらしく、詳しくは教えてもらってない。
その北側、正確には北西側になるが、地下に降りる洞窟があって、そこで売り物になる、鉱物や素材を手に入れて、僅かな金品と交換している。
そして、洞窟から北東に進むと、150年以上前に滅んだと言われる、もうひとつの町がある。
ここは、洞窟の魔獣よりも手強いらしく、今は遠目からでも見ていないらしい。
もう、廃墟になっているな。
今日は時間もないので、北側の魔獣見学に出掛けることにした。
どうも、町人が話す魔獣の話が、頭に引っ掛かるんだよな。
今回は、初回と言うこともあって、東西の戦士3人づつと、僕の計7人で視察に出掛けた。
先ずは、村の中央にある湧水に集まり6人が竹筒に水を入れていた。
飲み水は別にあるのだから、別の異図があるのだろう。
湧水を溜めていた桶は、少量しかなくて、6人が竹筒に水を入れたら空になってしまった。
その都度、僕を見ながらニヤニヤする。ユタの戦士。
あぁなんか悪巧みをされてる気がする。
ユタの戦士は3種の装備をしていて『短剣と盾』『剣と小盾』『大ハンマー』が2人づつの編成だった。
恐らく、この編成と竹筒の水が、北側の魔獣対策なのだろう。
深い森を歩くと、僕を見ながらニヤニヤしつつも、緊張しているのが解る。
いったいどんな魔獣がやって来るのだろう。
少し歩くと、前方から特定の種類の魔物の気配を感じる。
ま、まさかこの気配は……
遅れてユタの戦士も、魔物に気づいたようだ。
「いた」
「数は1体か」
「それなら、対処できるな」
「領主様、これから魔獣が来ますぜ、びびって腰を抜かさないでくれよ」
「領主様って、強いんだよな? 1体相手にしてくれねえか? その強さを見せてくれよ」
「へへ、何かあったら、助けますって。お礼は貴族様の飯で良いですか? 持ってるんでしょ? もちろん6人分な」
話す順を追う毎に、口数が増えてきてる気がする。
しかも、後半の3人は生意気だ。
僕を領主と認めた様だけど、敬ってはいないね。
骨のある戦士達で良い事だ。
だが、一番の興味はこの先にいる魔物だ。
死の気配を纏ったアンデッドモンスター、グールが生肉を求めて徘徊していた。
バカ王子「ランディのいない弊害は他にはないのか? 俺は各種定食が消えたのが痛い」
イケメン「まさか、たった1商会が消えるだけで、これほどの影響が出るとは」
弟子「アルテシアンナ、ターベール、ムアミレプの王都への交易が減少するようです」
信者「我が王が頭を抱えて、一部の侯爵に呪いの言葉を投げ掛けていた」
キンジ「次回の神罰転生は文字数、増量になるッスよ。次回神罰転生『魔獣と猛獣』よろしくッス」




