【133話】辺境の町ユタ
私はユタの町、西側の長『サイドウ』
最近、1人の若者が行方不明になったと、知らせが入った。
それは、私もよく知る人物だった。
町の外は、南に行く一本道を除いて恐ろしく危険で、4人1組で狩りに行くように、ルールを作っている。
だから、急に独りだけ居なくなるのは、不自然なのだ。
そう言えば、最近『東側』の様子がおかしい。
まさか、あの卑怯者共の所に寝返ったのか。
いや、それは考えたくない。
あいつは、優しく聡明な若者だった。
しかし、その優しさにつけこんで、東側に騙された可能性もある。
顔を見たくもないが、私は唯一東側と話の出来る『長』なのだから、出向いてみるか。
「町長! サイドウ町長!!」
「煩いわ、そんなに叫ばなくてもちゃんとここに居るわ」
「町長、新しい領主がまたやって来ました」
ほう、またか。
前回は何年前だったか?
たしかあの時は、泣いて帰ってもらったな。
それより前の奴等は、3対1の闘いで負けてから、関所で縮こまって、おとなしくなったな。
「今は、忙しい。早々に泣かせて帰ってもらえ」
この町は屈強な猛者ぞろいだ。
税金は最低限払っているから、誰にも邪魔はさせない。
そう、私達は今を生きるのが精一杯なのだから。
ドガァァァァン!
ドアが破壊された音と共に、15、6歳の少年がやって来た。
「お前たち、余りにも失礼すぎるから、手荒に入ったぞ」
その少年は、東側の長『トウドウ』を引きずってやって来たのだ。
こいつは、いったい何者だ?
◇
◆
◇
僕は今、ユタの町に単身でやって来た。
みんなは、手前の関所でお留守番だ。
話は3日前に戻る。
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キャンブルビクト侯爵領の境から徒歩にして数時間、交易の場となる関所がある。
関所と言うが、それにしては人口がかなり多い。
だが、その住民たちの顔色は悪く、体は痩せ細っていた。
なぜ、こんな農地に適していない場所に人々が多くいるのだろうか。
関所の管理者は3人もいて、ユタの町からやって来る、猛獣や珍獣の素材を、保存食や塩などの調味料、僅かな通貨と交換していた。
先ずは、3人の管理者に面会して事情を聞いてみる事にした。
何故なら、この砦も僕の領地内なのだから。
「ライトグラム伯爵、ようこそいらっしゃいましたあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
なかなか斬新な挨拶ですね。
「○○どうしたぁぁぁぁぁ!!」
「えっ? うぉぉぉぉぉぉ!!」
な、なんですかこの3人組は?
……
…………
実はこの3人組は、僕と面識があったのです。
気付くのが遅れたけど、僕がウエストコート学院で八武祭に出掛けた時に出会った、七味鳥をくれたお兄さんトリオだった。
注:ランディが七味鳥を奪いました。
僕にだいぶ怯えているようだけど、なにかしたっけ?
注:襲われたランディが返り討ちにして、裸に剥いて縛り上げました。
まあ、この3人組にいろいろ事情を聞いたので、ある程度の事は理解できた。
「じゃあ、僕はみんなを置いて挨拶に行ってくるわ。ここから徒歩で5日くらいかかるんだっけ? ならば一部の者は、翌日に食糧を積んで出発させよう」
「伯爵様、お言葉ですが、この場に余分な食糧は……」
解っているよ、ここの食糧事情は把握してる。
明日はクリエイトフード祭りだからな。
……
…………
「第2レベル呪文……クリエイトフード」
既に昨日からの呪文を合わせて、8500食のカロリーメ○トを召喚した。
僕の1食は一般人2人分だから、大人17000人分だと思っていい。
さらに追加して、クリエイトフードフリーでは、調味料を塩500㎏、胡椒200㎏、砂糖200㎏を召喚した。
「アワアワ……は、伯爵様、い、い一体これは!?」
「小手調べで驚いていたら困りますね。ほら見なさい」
僕は王都から連れてきた皆さんに、手を向ける。
ほら、尊敬の眼差しで見たり、呆れた表情だったり、ぐったりとして諦めてるような感じのみなさん。
あれ? 僕の想像とだいぶ違う。
「コホン、とりあえず5分の1を馬車に積み込んで、残りは僕の名前で食べ放題しちゃって下さい。色々やることはあるけど、まずここの活気を取り戻す。後は行き当たりばったりで、手を打つ。面白い手をね」
3人組は、お互いに抱き合って震えていた。
失礼な。
翌日、戦闘よりの呪文編成にして出発する。
すると、寝泊まりした家から砦の門まで、人、人、人の行列だった。
なんで?
「ライトグラム様、ばんざーい!」
「ライトグラム様、ばんざーい!!」
「伯爵様、頼みます!」
「伯爵様、頑張ってください」
砦を出るまで、この声援が続いた。
この砦の住民は150年前に滅んだ、『ナパ』と言う町の人々の子孫だった。
『ユタ』では許容量が足りず、ギリギリ自給できるこの砦付近に居をかまえ、いつか帰れる日を夢みて、150年間も貧しさに耐えているんだとさ。
先祖の意思を守り続ける気持ちは、理解し難いが、
尊敬に値する意志の強さを感じた。
どこで話が、すっ飛んだか分からないが、食糧以外の気持ちが声援に込められていた。
罵声には馴れているけどな……
僕は、格好つけて指を1本突き出し、真上に腕を上げた。
「ライトグラム様が、1年で町を取り戻してくれると!?」
「ご先祖様の悲願が、叶うのか」
「ライトグラム様!!」
「やはり、昨日の剣士が言っていたのは間違いない使徒様が帰ってきたんだ」
「使徒ランディ様」
「わはは、見たか! これがベルテタルの救世主、使徒ランディ様だ」
「使徒様! 使徒様! 使徒ランディ様!!」
「使徒様、われわれの故郷を!!」
「ついでに、我々にも王神流の奥義を!」
そんなつもりで指を立てた訳じゃないのっ。
それにしても、この盛り上がりヤバくないですか?
カロリ○メイトに、麻薬でも混じってたかな?
しかも、ベルデタルの剣士が混じって、余計な事をしたのが発覚した。
後の訓練は厳しいものになるだろう。
『帰ってきた』の単語も気になるが、今はユタだ。
おかげで、調子の狂ったまま走った僕は、1日でユタの町に着いてしまった。
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ユタの東側に着いた僕は、情報収集の後、失礼過ぎるトウドウさんをタコ殴りにして、今は西側にいる。
西側の町も様子も見ると、貧しいながらも、結束して暮らしていると感じる。
東側と変わらない生活をしている。
良い町じゃないか。
東西で喧嘩している事を除けばね。
しかし、一部の人間は僕に冷たい。
領主に悪いイメージでもあるのだろうか?
「私が西側の長、サイドウだ。これはまた若い領主が来たものだ」
ニヤニヤするサイドウは、僕を少年と思って、なめている様子。
「しかし、あんたの出る幕はない。南の集落でおとなしく、こちらが持ってくる素材を、換金だけしてればいい。以前に来た3人組は、腕に覚えがあると言って、ボコボコに負けて帰っていったぞ?」
「知ってる。東西の腕自慢が戦って、それぞれに3対1で勝ったそうじゃないか」
「そうだ、この町周辺は危険な魔獣、猛獣が多く生息している魔境なんだ。あんたら貴族のママゴトに付き合ってる余裕はない。ところで、なぜこいつをここまで連れてきた?」
サイドウはトウドウを指差している。
東側の話は聞いたから、サイドウからも話を聞こうと思っていたんだ。
「うん、君たちは同じ町の人間なのに仲が悪いから、話を聞きに来たんだ。東側は良い町だったよ。そこのトウドウ以外は」
ここから、僕の隠し技を見せてやるわ。
「実は、この町に着いたのは昨晩だったんだ。それでこっそり様子を見たけど、残念だったよ」
「どう言う事だ?」
「どう言う事だ?」
サイドウとトウドウが同時に声を出す。
あら、意外と仲良くなれそうじゃん。
「長! 長ぁ! 東側の奴等が攻めて来ました」
「何だと!? 貴様、東側に付いたのかっ!」
サイドウさんは、想像よりもバカそうなんで、説明はしないで手っ取り早くすまそう。
「バカだな、東の長トウドウを助けに来たんだろ」
サイドウを、トウドウと同じくらいにタコ殴りにして、引きずって外に出た。
すぐに、町の人達に囲まれたので、丁寧に足払いをして、人が集まるまで待った。
東西の人間が、かなり集まったのを確認してから叫ぶ。
ちょっとガルの真似をするかな。
「俺様は、ここの領主と任命されたライトグラム伯爵だ。俺様が来たからにはお前達にしっかりと、税金を払ってもらう。正規の人頭税は今までの2倍だ! 覚悟はいいか?」
ブーイングの嵐が鳴り響く。
良い感じで、悪役の第一歩を踏み出せた。
「だが、俺様も鬼じゃない。この町は魔境を生き残るために、強さが大事な町なんだろ? 東西の一番強い奴等を呼んで来い! 俺様に勝ったら、とりあえず税金の話は、なしにしてやる」
今度は怒りと、笑いの混じったヤジがバンバン飛んできた。
「こんなガキ、サイセンさんが出るまでもない! この俺が、一瞬で泣かせてやる!!」
たぶん西側の若僧だと思うけど、彼に手伝ってもらおう。
若僧が襲いかかってくる瞬間、足払いをして転ばせる。
肉体に残らない、痛みだけを与える部位を何度か蹴る。
「うぎゃああああ!!」
頭を片足で踏みつけ、持っている武器で股間を押す。
「ホデュァァァァァァァ!!」
「ほら、早く呼んで来ないと、顔と股間がグチャグチャに潰れるぞ?」
「ヒギャアァァァァァァッ」
若僧にたくさん泣き叫んで貰ったら、やっとそれらしいのが、やって来た。
「貴様あぁ!! 泣かすだけじゃ許せねぇ! 全身の骨を折って、送り返してやる」
「はんっ、西側の手なんか借りなくても、この俺、トウセンが、バカなガキを追い返してやる。だが今の俺は手加減が出来ねえ、殺されても文句言うなよ?」
どうやら、目的の人物が来たようだ。
さあ、こいつらの調理法で、これからの未来が決まる。
気を引き締めて行くぞ!
剣士「おまえたち、使徒様からの施しものだ」
砦の民「ありがとうございます……あっ、美味しい」
剣士「そうだ、これを用意に生み出すのが、我らが使徒ランディ様なのだ」
砦の民「使徒ランディ様とはいったい?」
剣士「伯爵とは仮の姿で、我らベルテタルの救世主だ。古の技術や書物に精通した神に並ぶ伝説の使徒なのだ!!」
砦の民「ガタガタッ!!」
砦の民「使徒様とはあの、遺跡の住人の使徒様!?」
剣士「その通り! あの方は『食物』『剣術』に精通した、正真正銘の使徒様なのだ!」
剣術「その顔、なにか長年思いを溜め込んでいたのだろう。使徒ランディ様に、任せるがいい」
砦の民「使徒ランディ様ばんざぁい!」
砦の民「使徒様が帰ってきた!!」
砦の民「使徒ランディ様ばんざぁい!」
キンジ「なんか後書きにしちゃいけないようなネタバレがありませんか?」
カーズ「大丈夫、たった一行。セーフだとおもいますよ」




