【128話】ランディ、スカウトされる
遅れて申し訳ございません。
作者は元気です。
ランディの周囲にはそうそうたる、メンバーが集まっていた。
そう、公爵令嬢であるエリザベートが、大したことなく感じる程に。
次期国王、次期国王の夫人であり国王の娘、女王に国王、剣聖、王子に王女、多数の公爵。
ランディが『爵位や地位を気にする人は2階の第一区画に帰ってください』とキッパリ言い切っていなければ、お互い牽制しあい、ギクシャクしたかもしれなかった。
そんな、和やかな雰囲気をだしながら、この集団は楽しく盛り上った。
宴会好きのランディのなせる業かも知れない。
そんな、雰囲気はさらに人を引き寄せ『降りてきた第一区画』と後に侯爵たちが、語っていた。
自己紹介とランディ自慢を繰り広げながら、場か沸くなか、想像以上の活躍ぶりにあきれ果てて、逃げようとしたロイエンとクラリスだったが、ランディ
の両親というだけで、周りが逃がさなかった。
『いったい、どうすればあのような神童が生まれるのか?』
『幼少期のランディの話を聞きたい』
『彼のバケモ、凄さは何歳くらいから発現したのか』
など、質問が殺到していた。
◆
◇
◆
え~、ただ今、予想だにしない出来事が起きています。
1部の大貴族に囲まれていて、既に2階の第一区画より賑やかになりかけています。
アルテシアンナに出掛けた時に知り合った人たち以外にも、多くの貴族が何かに釣られて集まっていた。
白目で泡を吹いていた、ロイエンやクラリスもようやくなれてきた様で、僕の幼少の失態を面白おかしく話している。
あれっ? 思ったより社交性ありませんか?
気がつくと、初めて見る貴族も混ざって、僕の話を酒の肴にして、楽しんでる様だ。
「しかし齢10にして、一般兵士や騎士を超えるとは、今までの活躍のお陰で、随分と尾ひれが付きましたな」
「相手をした者も、油断した所で、いい戦いをした所で、話が大袈裟になったと見ましたな」
僕目的じゃなく、来賓の貴族目当てで近寄って来た、たぶん侯爵家だと思われるオッサンズも話に混じってきている。
「そんな事はありませんわ。私、彼が3人もの暗殺者を単独で倒すのを、この目で見ていますわ。その頃の彼はたった9歳でしたわ」
エリザ姉さんが、ムッとした感じに出てきて、僕を持ち上げる。
だけどあれって、2人は不意打ちで倒したようなものだしな。
「ほう、ご令嬢は彼の幼少時代に面識があると? しかし、その暗殺者も9歳の少年相手では油断をしすぎたのでは?」
「うっ、それは」
確かに油断していたから、エリザ姉さんも口ごもる。
「当時の彼の相手は、皆が油断していた。聞くところによると、8歳の彼はもっと大人数の盗賊を倒していたと言う」
「ウ、ウエストコート公爵!?」
「お父様」
「えっ? お父様!?」
話に参加して来たダンディなおじ様に、ビックリして、エリザ姉さんが娘だと知って、さらにビックリしてるどっかの侯爵。
「だが、半人前の盗賊程度では、彼の強さは図れまい。なぁ『100人切りのランディ』?」
そう言えば、盗賊倒しすぎて、そんなあだ名が付いたことがあったな。
「ウエストコート公爵、いくら彼が強者でも、それは少々大袈裟になっているのでは?」
こいつも、ナントカ侯爵って自己紹介していた人だ。
どうやら侯爵陣営は、僕の武勲や噂を信じたくないようですね。
ダンディ公爵が『そうなのか?』って、感じで見てるから、当時の状況を話してあげよう。
「そうですよ、いくら何でも100人の盗賊をまとめて相手して楽勝なんて無理ですよ。僕はただ、退路の断たれた盗賊を2、3人ほど同時に相手をして、それを数十回繰り返しただけです。結局80人しかいませんでしたからね。100人切りとは、当時の任務で倒した合計の数の事なんで、実際は大した事ないです」
「…………」
「ヌハァ! 流石はランディ殿。そのような話を余は聞きたかった。兄上や姉上もそう思いませんか?」
「そうだな、私はアルテシアンナ王国での活躍が聞きたい」
そう言ったのは、ドリアさんの兄さん。
「あら、私はムアミレプ王国の話が聞きたいわ、ちょうど、アンジェラ女王もこの場に居られるのだから」
そんなことを言ったのは、ドリアさんのお姉さん。
自分の口から、話すのは恥ずかしいのだけど。
そう思っていたら、ドルデルガーさんとアンジェラ女王が、ちょっと美化して、みんなに話をしてくれました。
そんな話はどうもむず痒く、体ごと向きを変えて他に視線を向ける事にした。
この城は、2階から1階が見下ろしやすい構造になっているが、1階からも2階の手すり付近はよくみえる。
物凄く悔しそうにしている、だメッサー侯爵。
指を差して笑っている、バカ王子様。
唇を読んで王様に報告している、王宮騎士たち。
首をフリフリしながら困った顔をする、王様。
見ていて楽しい。
しばらく人間観察をしていたら、オステンバーグ公爵が、僕に話しかけてきた。
「我が息子を救った事を始め、呆れるくらいの功績だな、その分ではもう伯爵の位をもらってもいい頃だな、進言してみるか」
「お待ちください!」
「む? そなたは?」
「はっ、私は王都に居をかまえます『ダベッキー・カワヤン』と、申します」
僕目当てでなく、公爵や来賓に釣られたであろう、ダメッキーさんが、しゃしゃり出てきだ。
「多大な功績を挙げたと言っても、そこの少年は15歳かそこらの若輩者。伯爵家に陞爵など早すぎるのでありませんか?」
「その通りでございます。爵位とは子供の玩具ありません。あ、申し遅れました。わたくし、ザメダー・マジダー侯爵と申します」
もう1人やって来たのは、空気の読めないダメダー侯爵。
上で、ハンカチを噛んでいる、だメッサー侯爵と列べて、駄目侯爵三兄弟にしたい。
この場で僕を、子供扱いしたらみんな不機嫌になるんじゃないかな?
見ると、予想に反して不機嫌そうなのは、自国の公爵軍団だけだった。
なんか、来賓軍団は嬉しそうだ。
何故?
「ヌハァ!! ランディ殿、もし地位が欲しいのでしたら、余の席である『増食大臣』を差し上げましょう。ヌヒョォ! これは、チャンスですな兄上」
意外なとこからヘッドハンティング!?
「こら、ドリアよ。彼の功績を聞いたのなら、大臣は『闘食大臣』が適任だろ? なあマリ姉」
「パスタ兄さん、話を確りと聞いていて? あの方は『育食大臣が適任です』」
「ドリア、パスタ、マリネ、自分の職をなんと心得る! ここは『ターベール五大臣』の特別総顧問を創設し、着任してもらう。そうすれば、アルテシアンナとムアミレプとのこれまでない太いパイプが作れるぞ」
勝手に僕の転職先が決まっている件。
「ランディよ、そなたが出国するならば、アルテシアンナが良いだろう。私が王になったあかつきには、軍部最高司令官か宰相の座を用意できるぞ」
「あなた、それはいい案ね」
ドルデルガーさんとライム姉ちゃんも、無理矢理会話に参加してくる。
サウスコート、オステンバーグ、ウエストコートの3公爵が青ざめる中、アンジェラ女王がのり出した。
「ランディ殿よ、そ、それなら『王配』に、な、ならんか?」
体はぐいっと来たわりには、言葉は恥ずかしげに話すから、ギャップ萌えする。
恐るべしアンジェラ女王、僕のツボを突きながら、婿に来いと言ったようなものだ。
唖然とするエリザ姉さん。
「使徒ランディ様!」
だからその呼び方は止めなさい。
「ベルデタルでなら、剣聖の座をいつでも明け渡す事が出来ます!」
だから、剣が使えないのに『剣聖』は、おかしいだろ?
流石に、大勢の前でこの扱いは不味い。
「ペンタゴン、剣聖ヘキサゴン様は、だいぶ酒がお巡りの様だ。休ませてあげなさい」
「はっ、さっ剣聖様、あちらに休憩する場所があります」
ペンタゴンを連れてきて良かった。
「あ、兄上何をする! 私は酔っていない! 兄上!」
あんたの兄さんは、死んだ事になってんだろ?
かなり酔っ払ってるようだな。
うおっ!?
凄い殺気、誰だ?
殺気をたどると、物凄い形相をした王様が、下を睨んでいる。
ああ、王宮騎士が唇を読んで、今の会話を真似して喋ったんだな。
少しくらい気を使って、テキトーな事を、話していれば良いのにな。
「は? えっ?」
「あっ、あれっ?」
ダメンズ侯爵も、ようやくおかしな雰囲気を察した様だ。
まさか、他国からスカウト合戦が繰り広げられるとは、想像もしなかっただろうからな。
僕だって驚いたんだからな。
音楽の曲調が変化した。
「きゃっ」
エリザ姉さんが突然僕にしがみついてきた。
「エリザ、丁度良い事に音楽が変わったな、ついでにランディと踊ってあげなさい」
「えっ? あっ、ラ、ランディ。私と踊りましょうか」
恐るべしダンディなおじさん。
曲が変わった瞬間に、自分の娘を突き飛ばして、場の流れを変えるとは。
まさかと思うが、音楽を変えさせたのも、おじさんの手の内か?
「ランディ。ほら、こっちよ」
エリザ姉さんに顔をそっと両手で掴まれ、無理矢理見つめ合う。
そして、ゆっくりと音楽に合わせて、踊ってみた。
暫く、踊っているとエリザ姉さんが話しかけてきた。
「ランディ、私ね……侯爵令嬢の立場を利用して、あなたの商会を丸ごと手に入れようと思っていたの」
「ビックリな発言ですね。でも、その話の流れだと、しないんですよね? 今なら実行出来ると思いますよ」
今のランディ商会なら、潰される事はないがウエストコート公爵の傘下に吸収するのは、不可能じゃないはずだ。
「ふふっ、私が欲しいのは、ランディ込みの商会だったの。強引な手段を使えば、一番大事なのが手に入らなくなってしまうわ」
エリザ姉さんは熱い眼差しで、僕を見る。
こんなにストレートに言われたのは初めてだ。
レジーナといい、エリザ姉さんといい、何で男を見る目ないかなぁ。
「うふっ、困った顔ね。でも今は私がランディを独り占めよ。ふふっ、今だけは誰にも渡さないから」
エリザ姉さんは、一体僕の何が気に入ったのでしょうか。
僕って、貴族に好かれる性格じゃないんだけど。
でも、ごめんねエリザ姉さん。
僕は、期待に応える事は出来ない。
だけど、今はずっと踊ってあげるね。
こうして、面倒くさくも楽しい、一大イベントを過ごした。
◆
◇
◆
城内入りしたとはいえ、まだ僕は子爵だ。
帰りは早々に立ち去り、他の貴族のお誘いも、日を改めて誘って貰う事になった。
「ランディ、お前、アルテシアンナに補給物資を運びに行っただけで、どれだけトラブルに巻き込まれていたんだ」
「しかも、全て円満解決しちゃうなんて、あの話って、本当なの?」
パーティで話していた、僕の武勇伝を蒸し返された。
適当に誤魔化しているあいだに、もうすぐ自分の屋敷に着きそうだ。
「ん? 何かおかしい……チリチリする」
ロイエンが急に真顔になった。
そして、少し遅れたけど僕も違和感に気づいた。
「たしかに、おかしい……なんだ?」
ペンタゴンも真顔になったところで、3人の言葉が重なる。
「襲撃!?」
「戦闘痕?」
「敵襲!!」
さすがロイエン、僕より長く屋敷に住んでるだけあって、違和感の正体にいち早く気づいた。
そして、ペンタゴンも僕とほとんど同じ答えに、雰囲気だけで、たどり着いた。
ここには御者とクラリスもいる。
下手な動きは不利を招く。
「父さん、ペンタゴン! 母さんと御者を守って!」
「ははっ!」
「ランディはどうするんだ?」
僕はこの張り詰めた空気の正体を探りに行く。
「一足先に、様子を見に行ってくる」
僕は馬車を飛び下り、全速力で屋敷に向かった。




