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【118話】ペンタグラ・ベルデタル

 ペンタグラ視点


 もう少しだ、もう少しでこの俺が剣聖になれる。


『古の指導書』盗難事件で、ヘキサゴンの信用を落とし、有力者に声をかけた。


『真に強い者が剣聖になるべき』だと。


 後は、頭の固い国王とロシナンテだが、目の前で俺の力を見せつけてやれば、納得しなくても、言い返す事は出来まい。



 ロシナンテも俺より強かったのは半年前までだ。

 今なら、何とか勝てるはずだ。

 もう、俺に逆らう奴はいないだろう。


 根回しのために、2ヶ月近く聖地(ここ)を離れてしまった。


 帰った後、ヘキサゴンの様子を窺いに道場に出向いたら、予想もしない事を目の当たりにした。


 それは、動きに無駄がなくりなり、キレを増したヘキサゴンの姿で、他の者に剣技を披露していた。


「王神流、王力剣、正!!」


 俺には分かる、今の一撃は物凄い剣圧が伴っていたのを。


「王神流、神速剣、逡巡!!」


 今のも肉体強化とは違った速度の上がり方だった。


 そして、ロシナンテ含めた全ての剣士が、ヘキサゴンを先代にも劣らない剣聖と持て囃す。



 この瞬間、悟った。

 俺の2ヶ月の根回しは無に帰したと……


 ヘキサゴンは俺よりも先に、代々剣聖が体得していた奥義を覚えてしまったのだ。




 だが、認めない。

 それでも総合力なら俺の方が上だ。


 俺は、帰還の挨拶を明日にすると伝え、身を隠した。



 この時の俺は、どうかしてた。

 そう……ただただ、現状を認めたくなくて、俺はヘキサゴンが独りになったのを見計らって、急襲した。



 ふはは、死ねぇっヘキサゴン!


 ギィン!


 ヘキサゴンが独りの時を狙った筈だったのだが、何故か見た事もない少年に、不意打ちを阻まれた。


「くそっ、何者だ」

「使徒ランディ様……」


「その呼び方は止めて」


 だが後に引けない俺は、感情を爆発させるようにヘキサゴンに斬りかかった。


「邪魔するなっ! ヘキサゴンより俺の方が強い! 何故俺が剣聖じゃないんだ。 俺が剣聖に相応しいはずだぁ!!」


「あ、そう言う理由なら、止めません。ヘキサゴン殿に任せます」


「兄者、これはいったい?」


 俺とヘキサゴンは肉体強化魔法で限界まで強化して争った。


 今までの悔しさを、理不尽さをぶつけるように叫びながら斬りかかった。


 叫んだセリフの中に、今回の指導書の一件も吐き出してしまった。



 優勢だった戦いも、ヘキサゴンの奥義により度々ひっくり返された。



 そして、僅差で敗北した。


「くそぅ、俺だってちゃんとした師に付けば……俺だって……な、なんで俺じゃないんだ……」


「兄者……それは私も疑問に思った事がある。現に2つの奥義を使って漸く勝ちを拾ったのだ。だが兄者はやってはいけない事をした。覚悟してくれ」



 無念だ……


「ちょっと待って。第2レベル呪文……ヒール」


 なんだ? 怪我が治った? しかも体力まで回復しただと!? いったいこいつは何者だ?


「使徒ランディ様?」


「それは、止めてって言ったじゃん。それでさ、ペンタグラだっけ? 何故剣聖が俺じゃないのかって言ったよね? 教えてあげるよ」


 すると使徒と呼ばれた少年が、練習用の棒を俺に放り投げた。


 それは木刀に切り出す前の棒で、そこそこ長い物だった。


「先ず軽く打ち合いながら教えますか」


 少年はそんな事を言いながら、ゆっくりと弧をえがくように攻撃してきた。


 遅い攻撃だったのに、受け止めるのがギリギリになってしまう。


「遅い! それに受け止め方が違う!」


 少年は何度も何度も厳しい攻撃を繰り返していた。


「僕の攻撃を真似してみろ」


 あれだけ、俺を打ち込んできた攻撃だ、見よう見まねくらいなら出来るだろう。


 ブンッ


「えっ!?」


 だが、俺の攻撃は自分の思った以上に身体が動いてくれた。


 だが、同時に弧を描くような動きで防御された。

 いや、防御の瞬間、棒が捻るように動いていなかったか?


 そして俺の脚に棒が叩きつけられる。


 防御の動作から流れるように攻撃に入っただと!?


 つい癖で、習ったやり方で攻撃をすると、今までの3倍仕返しをされる。


「動きがぎこちない。話にならんなっ」


 またしても少年が襲いかってきたが、少年の真似をしたら綺麗に攻撃を防げた。

 しかも、余裕がある。


 そのまま攻撃をすると、少年が防御する。


「やれば出来るじゃないか。だが捻りが甘い」


 弧を描くように、捻りを加えながら、しかも攻防一致の動きで……


 無茶を要求しているはずの少年なのだが、何故か思い通りに動く。


 この高揚感と達成感はなんなのだ?


 気がついたら、俺は少年と互角に打ち合っていた。


「いやぁ、これだけ才能溢れる天才は、中々いないよ。ちょっと嫉妬するな」


 急に攻撃がテンポアップした。

 くっ、ついて行くのがやっとだ。


 だが、この戦い方だと、不利な状況でも攻撃に転ずるチャンスが訪れる。


 戦いが楽しい。


 もう何回も手痛い打ち込みを貰ったが、まだ戦っていたい。


 これが最高の師と戦うと言うことなのか。


「どうだ? 理解したか? お前は王神流よりも、この技法が身体に合っていると言うことを」


「えっ?」


「見て直ぐに解ったぞ。王神流は様々な剣士が学べる流派だが、極一部だけ向かない人間がいる」


 ま、まさか。


「円軌道を多用する攻防一致の戦い方を、生まれつき身体で理解している天才は、王神流では大成出来ない」


 この瞬間、最大の攻撃が俺に打ち込まれ、身体と心に衝撃が走った。


「お前の祖父は気づいていたんだな。なまじ身体能力が高かったから、ずっと努力していたから、お前は分からなかったんだろう。お前に王神流はマスター出来ない。何故なら素晴らしい別の才能があるからだ」


 俺は、少年の言葉を何度も反芻していた。


 なんだ……一番の愚か者は俺だったんだ……


 それに気づかず、今までの俺はなんて事をしていたのだ。


「ヘキサゴン……すまない。俺が馬鹿だった」


「兄者……」


 泣いて済む事ではないが、涙が止まらない。

 だが、既に他国の貴族まで巻き込んだ責任は取らねばならない。


「ヘキサゴン、俺を殺せ。そうすれば、この一件は何とか収まるだろう」


「……兄者、すまん」


 ヘキサゴンの剣が、倒れている俺の心臓に向かって突き下ろされた。


 が、剣は大きく外れて、床に刺さった。


「使徒ランディ様? どうして」


 よく見ると、少年が棒で剣の軌道を逸らしたのが解った。


「今ので、あのペンタグラは死んだ。 その死体、僕が貰っても良いよね?」


「えっ? あ、あの、しかし」


 この少年は何を言ってるんだ?


「もう一度、言うね。死体くらい貰っても良いよね?」


「は、はい。構いません、使徒ランディ様」



 こうして、俺は謎の少年に命を救われたのだった。

ランディ「新しいオモチャゲットー」


兄弟「えっ!?」


弟「えっ、あのときの感動は?」

兄「あの、俺が泣いたあの涙は……」


ランディ「…………兄弟が殺し合うなんて、よくないぞ」


兄弟「後付けっ!?」

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