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【117話】王神流剣術

 オステンバーグ公爵殿下との面会は、まだ叶わないが、この国の2人いる代表ヘキサゴン・ベルデタルとペンタグラ・ベルデタルの指南役の人と話すことが出来た。


 いわゆる、ここの剣士No.1って人だ。

 立場としては、3番目くらいみたいだけど


 僕は、この人と問答を繰り広げている。


「ねぇ、その古の指導書は、フォルツ殿下が処分した証拠はないんですよね?」


「確かにないが、他に怪しい者がいない。疑い拘束するのは妥当だ」



「犯人を不明と仮定して、そんな大事な物を盗まれる方にも、責任はあるんじゃない?」

 

「解っている。そのせいで次期剣聖、ヘキサゴン様の立場が良くないものになっている」



「そんな貴重な物なら、写しとかたくさんあるんじゃないの? そうしてれば、大事件に変わらないけど、ここまで拗れなかったんじゃない?」


「写しはある。が、最後の1ページだけ、意図的に写さなかったのだ。理由はわかるな?」



「で、いつフォルツ殿下と面会が出来るのでしょうか」


「すまぬな、今はまだ分からないとしか言えない。かわりに好きなだけ滞在を許可する」



 と、言うわけで。

 無駄に数日が過ぎた。


 仕方ないから、もう少しまわりと仲良くなってから、対策を考える事にした。



 ここは簡単に言うと、大規模な道場に近い雰囲気を出している。


 そして、気づいてしまった……『古の指導書』の正体を。



 それの正体は、王神流剣術だ。


 しかも、訓練内容は基礎だけだし、派生の短剣術、長剣術、槍術、棒術等は伝わっていないのが分かった。


 したがって、使い手の向き不向き関係なしに、皆一様に剣術を修行していた。


 僕は、転生前よりさらに遡り、融合前の記憶を引き出すと、50年ほど王神流棒術を訓練した過去があった。


 だけど、いくら修行しても王神流の奥義、秘奥義は体得できなかった。


 苦い記録だけど、停滞していたお陰で基礎は嫌と言うほどやっていたから、王神流の基礎から奥義に至るまでの過程は手に取るように解る。


 ここは強さが、地位にほぼ直結する場所。


 僕も木刀を貰って、日々の訓練に参加した。



 2日後、指南役が僕のところにやって来た。


「木刀の剣士ライトグラム殿、そなたは以前この国で修行をしたことが?」


「いえ、ありませんが?」


 すると、少し考えた後、もう一度質問される。


「では、そなたは誰に剣を教わったのですかな?」



 さすがに、それは言えないな。

 記憶の引き出しにすら、名前がないからな。


「その質問は、僕と稽古をする事を答えにしても、良いですか?」


「ほう、剣筋から師範をたどれと? 面白い事をする。不甲斐なければ剣筋を見る前に倒れてしまうぞ? おい、私にも木刀を持ってこい。さあ、このペンタグラ様の指南役ロシナンテが稽古をつけてやる。自慢話になるぞ」


 そして、僕と指南役の稽古が始まった。



 ……

 …………


「違う! そうじゃない! ただ早く振れば出来ると思うなっ、肉体強化とは考えがまるで違うんだ!」


「はいっ!」


「ダメだダメだ、うわべの基本しか出来ていないじゃないか? 闘気を感じろ! そうだ、身体を守る力だ」


「はいっ、師範殿!」



「僕と戦うにはまだ早い。受け続けてやるから、今のを500回反復しろ」


「わかりました!」



 なんだか、ギャラリーが増えている。

 そんなに稽古が珍しいのか?


 しかし、稽古をつけている内に、僕の身体にある変化が起きた。


 今まで感じた事のある身体の内側に宿る力が、表面に出るような感覚は、まさか……

 この肉体は、王神流に向いていると言うのか?


「師範! 身体が、右腕が熱いような気がします」


 お前もか。

「そうだ、それが闘気だ! そのまま闘気を練り上げろ、やり方はこうだ!」


 僕は、ロシナンテと一緒に闘気を練り上げる。

 イケる、これなら奥義にたどり着ける。


 闘気を練り上げていたら、身体の表面に力が行き渡る気がした。


「師範!?」


 なんと奥義を開眼するのも同時か。


「よし、技を発動しやすくする言葉を教える。いいか?『王力剣奥義、正』だ。行くぞ」


「はいっ」


「王力剣奥義、正!」

「王力剣奥義、正!」


 バギン!

 お互いの木刀が衝突して、粉々に砕けた。


 ロシナンテは、自分の腕と砕けた木刀を交互に見ている。


 自分の限界だと思っていた地点から、さらに

 1,3倍の剣圧で攻撃出来る。

 これが闘気を攻撃に変換して戦う、王神流の奥義だ。


 王神流の基礎は、闘気を練り上げるための準備運動でしかない。


 だから、素質のない者はいくら修行しても、奥義には到達しない。


 この転生した肉体は、王神流を使える素質があったんだ。



 ドスン


 ん? 何の音だ?



 ロシナンテは、両膝を落としていた。

 疲れたのかな?

 それとも、奥義に失敗して闘気を減らしすぎた?


「あぁ、解る、解るぞ。これが先代の仰っていた、基本の向こう側だったのか? 師範、感謝致します。ついに代々の剣聖しか、なし得なかった王神流の上位者になる事が出来ました」


 その姿勢のまま手を合わせる。


「ですが、あ、あなた様の正体はいったい……」


 手を合わせながら、難しい質問をしないで下さい。



 すると、予想もしない所から、想像もしない人物の声が聞こえた。


「ヌハァ! この使徒様の凄さを理解したか? ヌフゥ! この方は古の神器を製作した人物に縁のある方。ヌホァ、それはこのターベール王国、第3王子、ドリア・フォン・ターベールが保証する!!」



 なんと、ドリアさんと御付きの人が2名、そこに居た。

 どうやってここまで来た?


 いきなり、しゃしゃり出たドリアさんに戸惑う、剣士の皆さま方。


 そのうち、誰かがこう口にした。


「古の指導書を作成した人物に縁のある者なら、見せてみれば良いのでは?」


 そして、指導書の写しを見せて貰う。


 ずいぶんと汚い文字に、一部この世界の言語で解説を追記している。


 メインは絵で描いているため、文字は読めなくても使い物になるが、コツを掴むための説明は翻訳されていない。


 そして、最後の文章はこうあった。

『次に記載する奥義、どちらかの修得で王神流中位と名乗れる』



 僕は、ロシナンテに失われた最後のページを、説明する。


 どうやらロシナンテは、原本を見たことがあったのだろう。


 僕が指導書に記載されている、別世界の文字を読めると信じたようだ。


「文面から推測すると、最後のページは『王力剣、正』と『神速剣、逡巡』だな」



 そんな事を呟いていたら、ロシナンテが土下座の形をとった。

 そして、ドリアさんを見て質問する。

 

「このお方の御名は?」


「ヌハァ! 使徒ランディ様だ」


「感謝する。使徒ランディ様! どうか我々をお導き下さい」


 ロシナンテの言葉を皮切りに、みんな僕に向かって土下座をしてきた。


 止めて、そう言ったのは求めてないの。

 オステンバーグの殿下を返してくれるだけでいいの。



 しかも、ヌハァヌホォ五月蝿い奴から、僕がアルカディアから数日でたどり着いた事が明るみに出てしまった。


 本来なら『そんなバカな……』と言って、信じるわけがないのだが、みんな信じきってしまい、僕を見るその輝く瞳に晒されるのが辛いです。


 殺意と恐怖の視線には、慣れているんだけどなぁ。


「そうだ、使徒ランディ様、あなた様にこそ剣聖の名が相応しい」


「全力で断ります」

 アホですか? 剣の使えない剣聖が、相応しいはずないでしょ?


 あのおデブちゃんはヌヒィ、ヌフゥと喧しいし。


「他の事でしたら協力しますので、フォルツ大使を返してくれませんか? 僕ならあの2種の奥義を体得した者だけに開かれる、秘奥義を指導書に追記出来ます。どうですか?」



 すると、ロシナンテ以外数名が、再び土下座してしまった。



 しまったぁ、言い過ぎた。

 もう、この人たちの扱い、難しくてイヤ。


「使徒ランディ様、ヘキサゴン様をお救い下さい」


 急に切羽詰まった顔に変わったのを見てしまった。

 あぁ、嫌な予感がするよ。

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