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【12話】ロイエンルーガ・ダーナス

 オレは、ロイエンルーガ・ダーナス。


 貧しいが、これでも准男爵の家名を持つ貴族だ。


 先の戦争や、畑を荒らす害獣の大発生で、高額の借金をしてしまったが、(半分はロイエンの管理能力が無いせい) 妻のクラリスと幸せな生活を送っていた。


 オレ達は、なかなか子供が出来なかったが、ついに、待望の赤ん坊が生まれた。


 名前は『ランディ』と名付けた。



 この子は雇った使用人『アイシャ』に言わせると、泣くことがかなり少ないって話だが、全く泣かない訳じゃないし、楽で良いじゃないかと思った。


 それに、この子は『パパだよ~ん』と言うと、ニコッと笑ってくれる……なんて可愛いんだ……親馬鹿と言われるだろうが、きっとその笑顔で多くの女性を魅了するだろうと思った。


 ところがある日、妻のクラリスが突然、母乳を飲ませるのを拒否したんだ。


 あの時は、本気で焦った。


 たまたま、半年前に夫を亡くした母乳の出る未亡人を見つけ、急遽雇ったのだか、彼女は大当りだった。


 彼女は、ランディを我が子以上に可愛がってくれている……取りあえず一安心だ。


 しかし何故クラリスは、授乳を拒否したのだろう……理由は決して教えてくれなかった。


 しかし、ランディの事を気にかけているし、ランディを見ている顔が罪悪感に溢れた顔をしているから、自分が悪かったと自覚はしてる筈だ。


 だが、その罪の意識からか、クラリスはランディと距離を置くようになってしまった。



 アイシャとレジーナが言うには、この子は異常な程、頭が良いらしい……『判定の儀式』をするのが楽しみだ。


 もしかしたら、ランディは『ギフト持ち』かも知れないな。



 しかし、町に出掛けて『判定の儀式』をした結果、ギフトは無かった。

 まあ、三十人に一人いるかどうかの確率らしいから、期待はしてなかったぞ、本当だぞ。


 それより、我が子の判定結果で驚く事があった。

 なんと、ランディの魔力総量がたったの12しかなかったんだ。


 魔力総量は生涯大きく変わることはないと言われている。


 オレが生まれた時の魔力総量は167。

 今は、ここ数年測っていないが180だった筈だ。


 我が国に在る、八つの高等学院に通わせれば、魔力総量は上がり易くなるかもしれない……


 しかし、あの学院の入学金は、べらぼうに高い。

 ギフト持ちやレアな才能を持っていれば、入学金が免除になるって話だが、ランディの魔力総量はたったの12……推薦入学なんて無理だ……ああ不憫だ。


 しかし、それがクラリスとランディの距離をさらに空ける事になって、クラリスは塞ぎ込むようになった。


 どうやら、ランディを魔力無しで産んだ事に、クラリスは責任を感じてしまった様だ。

 オレは、どうすればいいんだ?



 しかし、そんな心配を他所に、ランディはスクスクと育っていった。


 言葉も一歳で、かなり出ている。

 もちろんオレの事は『パパ』と呼ばせている。


 ランディは、みんなの事も名前で呼べるんだが、何故かレジーナだけは言いづらいのか『ビッチ、ビッチ』と言うのだ。


 不思議だ……あの年齢で意味の有る言葉は話せない……しかし『ビッチ』の単語に、意味が有るような気がしてならない。

 いったい『ビッチ』とは何なのだろうか……



 △▲△▲△▲△


 我が家の借金のせいで、長期間の出稼ぎに出ていた、執事のシープレスと護衛のセナリースが戻ってきた。

 彼らは、オレが准男爵を拝命したときに、国から支給された使用人だ。


 莫大な借金を作ると、年単位で国に一時返却するのだが、今回は五年間で長かった。


 魔力総量は無いとは言え、オレの子だ。

 今から鍛えれば、並みより上の剣士くらいにはなれる筈。


 セナリースと稽古をつけようと思った。

 しかし、ランディは剣を持った途端に、嘔吐して倒れてしまった。

 うちの子は何か呪いで受けているのか?


 本気でランディが、可哀想になってきた。



 しかし、ランディは気にした様子もなく素振用の木刀を持って、振り回していた。


 ふっ……口だけは大人の真似をしてベラベラ喋る様になったが、木刀を振り回してはしゃぐ様は、年相応の子供だな……


 よし! 初めはオレが見てやるか。


 走り込みを含めた基礎訓練は、既に五歳の物ではなかった。

 まあ、七・八歳くらいか?


 ランディは、神に呪われているのか愛されているのか解らん。


「ランディ……基礎訓練ばかりじゃつまらないだろ? 木刀でパパに向かって思いっきり打ち込んでごらん」


 いいの? って顔をしているランディに、

「パパは凄く強いんだ、遠慮はいらないよ」


 ……


 突然オレの目の前に木刀が見えた。


 反射的に受け止める。

 カン!


「うおっ!?」

 なんだ今のは……初動が全く判らなかったぞ?


 また木刀が、突然来た。

 カン!


「あぶなっ!」

 まただ……速さも、力も思ったより有るが……子供の範疇は超えていない……はっきり言って鈍い、なら……なんでこんなに避けづらいんだ?



 このやり取りを見ていたセナリースが、ジト目でオレを見ている。

「よう……旦那ぁ、暫く見ないうちに鈍ったか?」


 オレは……弱くなったのか?

 オレは、セナリースに交代させられてしまった。


 ……


 カン!

「なにぃぃ!?」

 カン!

「うわっ……うお!? 」

 カン!

「ぬおぁ!」


 どうやらセナリースも、五年の出稼ぎで鈍っている様だ。


 だいたいあの程度の攻撃なんて、木刀で受ける事無く、余裕で(かわ)せるはずだ。



 △▲△▲△▲△▲△



 ある日ランディは、隣のマツヤ准男爵の三男坊と喧嘩したと、報告が来た。


 マツヤのとこの三男坊っていったら『龍神のギフト』持ちじゃないのか!?

 この報告を聞いて、慌ててランディを探しに行った。


 ランディは、ずいぶんと殴られたようだが、回復魔法無しでも、一週間(この世界は十日で一週間)で治る程度だった。

 どうやら手加減してくれたみたいだ。

 当たり前だな、たしか三男坊は七歳だった筈……


 現地にいる子達から、話を聞いてみたら、悪いのは三男坊だったはずなのに、親のタイムの野郎がしゃしゃり出て、責任を取れとか言って来やがった。


 タイムの息子達は四人全てが天才児だって話だから、調子に乗ってるな……タイム本人は大した事無いのに(頭脳はロイエンルーガよりは数段上です)……


 しかし、あのタイムの野郎、どっかの伯爵とコネが有るらしく、オレに責任を取らせる様に言ってきやがった。


 すると、この農村の領主である、フォルトン子爵はこう言った。

『子供どうしの喧嘩だ……ダナムも軽傷だし、ロイエンルーガ、此方が詫びを入れれば今回の騒動は無かった事にしよう』


 納得がいかない……しかし、この件を拗らせるのは不味いと、駆け引きの苦手なオレでも解る。


 オレはタイムの野郎に、詫びを入れた。


 あの野郎も納得してない様子だが、フォルトン子爵もいるせいか、引き下がった。


 悪いのは貴様の馬鹿息子だろうが!!


「ふん……フォルトン子爵の顔を立てて、これで許してやるわ」


 こんなに悔しい思いをしたのはいつ以来だ?

 いつか、いつか、その顔をすりつぶしてやる!


 その夜に今日の事を話したら、クラリスにこっぴどく叱られてしまった。


 オレは、自分が不憫だと思った。

 しかし、クラリスはちゃんとランディを愛している様だ。

 何故それを態度に出さない?


 クラリスは、ランディを無能に産んでしまったと思い込み、今でも負い目を感じているが、そんなもの杞憂だ。


 たしかに魔力総量が12とか、剣を持ったら吐くとか、不憫なとこは有るが、今なら解る。


 あの子は天才だ。

 マツヤの三男坊に負けた次の日から、ランディは爆発的に強くなった。


 もはや、普通の大人では勝てない……訓練を積んだ騎士や傭兵でないとランディに勝てない。


 そして月日が過ぎ、我が子ランディが八歳になった頃、大きな転機を迎える事になった。



そろそろ連投の限界が近づいて参りました。

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