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【115話】嵐の前の楽しさ 後編

遅れてしまいました。

 ただ今、僕はサンジェルマン王子にくっついて、法務局のある場所に向かっている。


 しかし、王様に絶対的な権力がない事から、似たような機関はあると思っていたけど、名前からしてしっかりとした機関だと思われる。


 一応言っておくけど、気に入った人間を准男爵にしたり、無礼な人間(貴族を除く)を始末する事は、王様なら容易い。


「ダークロッドよ、お前んとこのキャベツ盗難事件は、どうなってんだ? 流石に特務隊は出せねぇが、協力してやっても良いぞ」


 話が飛んで、以前の事件の話題が出てきた。


「いえ、ご心配には及びません」

 特務隊にしろ、王族にしろ手伝っちゃまずいだろ。

 野ネズミ退治に王宮騎士団が出動するようなもんだぞ?

 それに、街中でコードネームを使うのは、恥ずかしいからやめて。


 実は、食材の基礎となる野菜に注目されて、キャベツが盗まれる事件があったんだ。


 それについては、このイベントが終わってから語ろう。


「……犯人の目星は付いているんで、この後見学に行きますか? 時間もかからないし、面白いのが見れるかも知れません」


「ほう、面白いとな? 俺は色々と忙しいのだが、時間がかからないと言うなら、見に行ってやろう」


 本当に忙しいのかな? 王子様(この人)



 ◆◇◆◇◆


 僕は、副長官の個室をこっそり見学できる場所で、王子様の活躍を心待にして覗いている。


 しかし、王子様も特務隊のメンバーだと実感した。

 こんな絶好の覗きポイントを、把握しているとは。


 おっ、2人のやり取りが始まる。

 じっくりと様子を見よう。


 王子様は副長官補佐のやらかした出来事を説明していた。


 話が、あらかた終了したら副長官が口を開いた。


「サンジェルマン様、この程度で貴方が直接出向く案件ではないと愚考いたします」


「で、どうするつもりだ?」


「まぁ、この程度でしたら、減俸3ヶ月が適当ですが、実際はシュツベルトの反省度合いに左右されます」


「足らんな」


 王子様の言葉に同意する。

 たりねぇ! 尻の毛一本も残さず毟ってやりなさい。


「は?」


「罰が軽すぎると言っているんだ。この国の法を司る機関の人間が、不正をしたのだ。そんな事で済むと思うか?」


 しかし王子様の言葉にも、副長官は動じない。


「サンジェルマン様、申し訳ありませんが、これも法務局が決めたルールなのです。いかに王子様であろうと、それを覆す事は出来ません。それがこの国の法なのです」


 もしかしたら、法務局は治外法権なのかも知れない。

 だとしたら、まさか……


「解った」


 解るなよっ、バカ王子がんばれ!


「ところで、お前は殺処分する事に決めた」


 なっ!?


「は? それはいったい!?」


「まあ、いきなり殺されるのも可哀想だから、説明してやるか。俺の仕事はお前くらいなら知っているだろう。国家や王族に害する者を排除する機関」


「お、王族特務隊……」


「完璧に公正でなければならない法務局での、看過出来ない不祥事を起こしたバカ者の上司。そんな人間を生かしたままにしておくと、我が国にとって不味いと俺は判断した」



 みるみる顔が青ざめて行く、副長官。

 もっと、やったれ。


「し、しかし死刑は……」


「確かにお前の言うように、俺は罰則を決められねぇ。だから死刑じゃなく、処分だ。まあ、他人から見れば『国家反逆罪』に見えなくもないが……」


 王子様は、剣を抜いたかと思うと、副長官に一瞬で肉薄して、剣を振った。


 副長官の頬に赤い筋が浮かび上がり、耳がぱっくりと切れる。


「ひいっ!」


「もちろん、後悔してもらうために、ゆっくりと切り刻んで行くぞ、俺の斬撃は痛くないから安心しろ。初めだけはな」


 そうそう、最初は熱く感じるんだよな。

 むっ、副長官が動いた。

 全力でジャンプしてから、流れるように土下座に移行した。


 意外に身体能力があるぞ。


「も、申し訳ありませんでしたぁ!! シュツベルトは極刑にいたしますので、殺さないでくださいっ!」


「それだけじゃ駄目だな。あのバカには、生かしたまま地獄を見せてやれ。少なくとも3年間は生かしてやれよ? そして不誠実者はこうなると民や局員にも解りやすく処罰しろ。いいな?」


 この瞬間、副長官の頬が反対側にも傷が出来た。


「あひぃっ! 解りました。しかし長官にどう説明すれば」


「長官? あいつは、全地域に粛清の旅に出掛けてる」


「えっ?」

 えっ? ……やだハモったよ。


「モルド長官は、家族が長官の名前を出して、やりたい放題だったから、一族丸ごと処分しようとしたら、こうなった。知らなかったのか?」



 やはり、王子の仕事は法務局の腐った部位を刈り取る事だったのか。

 そして、僕の定食屋に来ると調査済みで、網を張っていたのか。


 特務隊は侮れないな。

 長官と副長官2人を締め上げるだけで、法務局全体を引き締めるつもりだ。


 他にも、やられた役人がいるかも知れないけど。



「と言うわけで、好きにするがいい。ただあのバカの処罰に俺が満足しなかったりしたら、解ってるな?」


 今度は、副長官の髪がはらりと落ちて、天辺に地肌が見えるようになった。


「は、ははははい!! しっかりと対処挿せて頂きます」


 再び土下座しなおす副長官の下半身は濡れていた。


「今後、あんなバカ者を生み出すなよ?」


 格好良く身を翻して、王子様は部屋を出ていった。


 すげぇ、僕の見える範囲内だけど、誰も殺すことなく綺麗に解決しやがった。


 僕だったら何人始末していただろうか。


 アーサーやガルと似たような事をした時は、上手く行かなくて、さんざん戦争したあげく、国王が負けを認めて詫びるまで、戦線が拡大するからな。


 よし、僕も特務隊から勉強して学んでやる。



 こうして、権力を振りかざす事件から見学していたら、法務局全体の粛清をする場面まで見てしまった。




 ◆◇◆◇◆



「流石です、ダークスピア。ただ速いだけじゃなかったんですね」


 僕と王子様は、とある畑に向かって歩いていた。


「もう、人も少なくなってきたから、名前でいいぞ、ランディ。あと俺を褒めているのか、バカにしてるのか判らない言葉だな」


「褒めてますって、サンジェルマン様。あっもう直ぐ到着します」


 僕が王子を連れて来た場所は、広大な畑だ。

 ここは、僕のキャベツを盗んで植え直し、実らせた種を、蒔いた畑だ。


 既に苗も大きく育って来た頃だ。

 うんうん、成長が早い。


「こ、これはどうなってんだ? 野菜に詳しくない俺でも判る。いったいどれが盗まれたキャベツの種から出来た物なんだ?」


 そう、王子が見ているのは様々種類の野菜だ。


 まだ判別は難しいけど、成長に違いが見えてきた。


 確証はないけど育つのは、アブラナ科の植物たちだ。


 盗まれたキャベツの犯人をこっそり見つけ出し、栽培地を調べあげ、キャベツの花が咲いた時に、他のアブラナ科の花粉をお見舞いしてやったんだ。


 キャベツの種から、キャベツ以外の植物が出来るのは知っていたから、後は色々な花粉爆弾を投げつけてやったわ。


 その種類は、アブラナ、カラシナ、セイヨウワサビ、ブロッコリー、ハクサイ、ザーサイ、カリフラワーだ。


 キャベツとの相性もあるだろうから、全ての種類は無理かもしれないけど、確実に数種類の植物に変化している。


 それに、キャベツが出来たとしても、美味しく食べるには、決まった育て方がある。


 ふふっ、どう考えても出来の悪いアブラナ属シリーズしか収穫できないだろう。


 王子には、キャベツからキャベツの種が出来るとは限らないとだけ伝えた。


「ランディ、そんな事をしっているのか? 農家でもないのに? お前が味方だと色々楽しいな。今度は首謀者のひきつる顔を見ておいてやるよ」


「えっ? 一緒に行かないの?」


 すると、王子はキリッと引き締まった表情に変化する。


 ずるい、ちょっと表情を変えるだけでイケメンに早変わり。


 王子様補正が掛かっているのか?

 ターベールのドリア王子を見習いなよ。


 意外にいい人だったけど、見た目はどこかの世紀末漫画に出てくる、悪役デブと遜色ないから。


「たしか、明日のはずだが、ランディに大きい仕事が言い渡される」


 ん、あの使者が来たやつの事だな。


「解ってると思うが、重大な任務だ。しかし無事成功すれば、伯爵になる可能性は高い。だからこそ反対派も多い。ランディ次の遠征には気を付けろよ、今回の担当は反対派だ」


 ようやく僕も、真剣になってきた。

 障害があると、燃える。


「ふっ、流石我が国の最高戦力、良い顔をする。だが、今回も力業だけじゃ生き残れない。まっ、ランディなら何とかすると信じてるが、実は水面下である催し物があってな。ランディには、そのイベントに参加してもらいてぇ。だからランディ、任務は失敗してもいい。生きて帰ってこい」


 サンジェルマン王子は、僕の前で拳を作る。

 あぁあ、国王といい第2王子といい、どうして王族らしくないかな。


 ゴツンと拳を突き合わせ、別れた。




 翌日、僕は呼ばれるまま、単身で王城に向かった。







 ◆◇◆◇◆


 後日~


「シュツベルト、お前はやってはならない事をしたな」


「はっ!? どういう事でしょうか?」


 シュツベルトは自分の上司の言葉の意味が理解出来ないでいた。


「我ら法の番人である、法務局に属する者は、常に公正でなくてはならない」



「は?」

 そんな台詞を聞いたのは、法務局の役人になった日の式典以来だった。


「たった1回の不正でも、我々には重罪となる。覚悟はいいな?」


 シュツベルトはこの期に及んでも、まだ諦めない。


「しかし、証拠は……」


 バシン!


「証拠など関係ないわっ。我ら法務局は、自分に正しくなければならない」

(そうしないと、死んじまうんだよ!)


 シュツベルトも、自分の上官が別人ではないかと疑ってしまうほどの変貌ぶりに言葉がでない。



「とりあえず、貴様は今後3年間減俸9割、法務局メンバーではあるが、法を決める権力の剥奪。これから貴様によって不利益を被った人々を調べあげ、貴様の私財をもって補填をする」


「バカなっ! 私はこれからどうやって生きろと仰るのですかっ? グボウッ」


 さらに、シュツベルトは副長官に殴られる。


「それでも、馬洗いよりも高い収入だろう。充分いきていける」


 副長官はそういったが、毎月120万円を貰いそれなりの生活を送っていた家族が、突然12万円となったらどう生活をするのだろうか。


 日々の社交界を全て欠席し、日々の食事を固いパンと味のほとんどしないスープに替えれば、家族は暮らしていける。


 だが、精神力なき者は、ギャップに耐えるのはかなりの苦痛を伴うはすだ。

 しかも、仕事で権力をかざす事が出来ない。


 シュツベルトは3年間、地獄を味わう事が確定した。



「辞める、こんな扱い納得行きません。こんな場所、やめ」

「お前は、命を狙われている」

「……えっ?」


 啖呵を切ったシュツベルトの動きが止まる。


「貴様は、特務隊に命を狙われていると、言ったのだ。最後にやらかしたあの食堂……あれが不味かった。あそこは特務隊の幹部が2名も彷徨っていた場所だったのだ。しかも1人はあのサンジェルマン王子だ」


「なっ!?」


「解るか? 貴様が生きているのは、バックに法務局があるからなのだ。死にたくなければ、苦汁を飲むしかない」

(貴様がいなくなったら、私が殺されるのだ。逃がすかっ)


「わ、解りました。このシュツベルト、3年間の罰をお受けします……」


「解ってくれたか、シュツベルト。なぁに

 、たった3年じゃないか……」

(ふっ、3年で済めば良いがな? 貴様には地獄を味わわせて、王子の機嫌とりに使わせて貰う。残念だったな)


 こうして、シュツベルトは全ての権力を失い、法務局雑用係となり、収入は激減した。


 良いところの令嬢だった妻には、散々罵倒と暴力にさらされた後、離縁状を突きつけられた。


 本来なら、自害してもおかしくない精神的ダメージを被ったシュツベルトだが、副長官の決死のフォローで自殺することはなかった。


 これを期に、法務局は生まれ変わる事になった。



王子「おう、ちゃんと働いてるか?」


副長官「げっ、サンジェルマン様!? 今あやつは、便所掃除をしています。 法務局は綺麗なので、ボランティアと言って、ほかの施設で汲み取った後の、清掃をさせています」


王子「そうか、此があの馬鹿の粗相一覧だ。使え」


副長官「はっ、使わせて貰います。してこれは?」


王子「ハリセンという名前の武器だ。殺傷能力は極めて低いが、叩くとスッキリするぞ? 使え。あと、一部から感謝の声が届いた。これは差し入れだ」


副長官「ありがとうございます!」


王子「様子はちょくちょく見てるから、気を抜くな。またな」


副長官「はっ、お疲れさまです」

(王子なんだか、ちょくちょく来るなぁ!!)




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