【11話】マキナス・ルードマイヤ
ジジイ視点で進みます。
ワシは『魔神の加護』と言う、魔力総量が常人の三倍になると言うギフトを授かっている。
しかも回復魔法と肉体強化魔法の二つを使える『ハイブリット』だ。
おかげで、ろくな領地も無い、男爵家の四男じゃったワシが、瞬く間に出世してしまった。
しかし、貴族同士のしがらみや、軍隊の上下関係が嫌で、才能ある人を磨く職業の教官になった。
ワシは自分でも出来が良いと実感出来る。
その証拠に、この国の八つしかない名門を誇る高等学院の学院長に、たった十年で登りつめてしまった。
しかし、そこでも学院のしがらみや学院を管理している公爵や侯爵の口出しが嫌になって、適当な人材を推薦して、無理矢理退職した。
そして、辺境の村の医者に収まった。
ワシは猫を抱き、日向ぼっこをしながら、熱いお茶を飲んで、子供の相手や、年寄り仲間とのんびりとすごす幸せな日々を手に入れた。
しかし、平和にすごしていたワシに、ある出来事が起きた。
数年前に治療した赤子が、ワシに会いたいと言って来たそうじゃ。
思い当たる記憶も無く、呼んでみると、来たのはロイエンルーガと二歳を少し過ぎた小僧じゃった。
そう言えば、治してやったな……あの時の赤子か……
なんて思っていたら、
「ジジィ 魔法 使う それ 見る」
ジジィじゃと? 子供は正直じゃ……きっとロイエンルーガのやつが、影でワシの事を『ジジィ』とか言ってるな?
ワシはギロリとロイエンルーガを睨んだが、あやつは首を横に振っていた。
なら誰じゃ? ワシをジジィと呼んでいるのは……
……
…………
この子は他の子と違って、おとなしく聡明だ。
ワシはその子に、興味を持ち、素質を聞いてみた。
すると、素質は『ギフト無し』の『回復魔法』で、魔力総量が12じゃった……
魔力総量12なんて聞いたこと無いわい。
他人とはいえ、流石に可哀想じゃった。
回復魔法は二十人に一人の、割合でしか生まれないレアな魔法だ。
しかも、回復魔法の素質がある者でも、回復魔法を覚えられるのは半分に満たない。
それほど回復魔法の魔力の流れを理解するのは難しいのじゃ。
従って回復魔法の素質を持つ者を、国は優遇してくれる……しかし、魔力総量が12か……せめて80くらいあれば、ワシが居た学院に、無理矢理ねじ込んでやった物を……。
ちょっと回復魔法を見せたら、『ジジイ、すごい』と喜んでいた。
カワイイ子供じゃの……ようし、もっと凄いのを見せてやろうと、『エクスヒーリング』を使ってやったわ。
しかし、その時異様な感覚に襲われたのは、一体なんじゃったのだろうか。
しかし、その謎は二年後に判明した。
それは、ランディと言う小僧が、またワシの所にやって来た日の事だ。
「ジジ……マキナスさん……もっと凄い魔法を見に来ました、見せて」
と言って来たわ。
その時、怪我人はおらず…父親のロイエンルーガに『怪我人』になってもらった。
本当はお前だろ? 影でワシをジジイと呼んでるのわっ!
そして、ワシの最高魔法『グランヒーリング』をかけた時、二年前の感覚が甦った。
ワシは今更思い出した。
あの時の小僧も、今のように子供とは思えない面構えで、目を瞑っておった。
この小僧、ワシの『グランヒーリング』の魔力の流れを読み取っているのか?
そんな、バカなっ! 回復魔法は一年間しっかり学んで、それでも三人に一人の割合でしか発現出来ないほど、魔力の流れが複雑なのじゃぞ……
そうだ、たとえ魔力の流れを見ることが出来ても、一回で全てを理解なんて……
ワシは小僧の表情に戦慄した……まるで隠していた甘味を見つけた顔……
この小僧……ワシの魔力の流れを、完全に読み取ったのか?
この小僧……出来るならば鍛えてやりたい……しかし、魔力総量が12じゃ鍛えようが無い……
どうにか出来んのじゃろうか……本当に惜しい逸材じゃ……
小僧が帰る時、ワシは好物の干し肉を渡してやった……
しかしワシが小僧の事で、とんでもない事態に気づくのは、もう少し先の事じゃった。




