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【105話】食事会でターベール

「ヌハツ! 余がターベール王国、増食大臣のドリア・フォン・ターベールである!」


 ザザッ!!


 皆が頭を下げて、礼をする。

 当然僕も真似をするが、今回はちょっと辛い。


 大臣の隣にいる2人が、間違いなく手練れなので、隙を見せる姿勢に抵抗がある。


 この状態で2人に襲われたら……まぁないか。

 現に敵意は、誰からも感じ取れないしね。


「ヌフッ! 面を上げよ…………お前が叔父上に招待された、特別な男爵か……まだ子供ではないか。ヌハッ! こんな子供にターベール、食の真髄を見せよなど、何を考えているのか。ヌヒッ! 今宵の食事を食べさせて『留学させて下さい』と言わせてみるか。ドロワット、ゴーシュ、行くぞ」


 のっしのっしと歩いて、部屋から消えて行った。


 さすがに、ターベールの姓を名乗るだけあって、傲慢そうな奴だな。

 しかもこのおデブ体形、某少年漫画に出る、あるキャラに似ている。

 そうだ、ドドリ○さんと名付けよう。


 では、お手並み拝見といきましょう。



 ……

 …………




 ドド○アさんは、僕が用意したキウイを食べている。

 食前のデザート扱いで出てきました。


「ヌ、ヌホウ…………なんて美味いんだ。まさに神の果実……そう言うことか、これは私に対する挑戦なのだな?」


 あの方の言葉の意味が、全く解らない件。



「ヌフッ! ランディ・ライトグラムとか言ったな? これは、どこから持ってきたのだ?」


「あっ」

(しまった、アルテシアンナって言ったらアルテシアンナ産になるし、アルカディアって言ったら、一年近くも居ないのに無理があるよな。まずったかな。それなら……)


「機密事項に該当しますので、お答え出来ません」


 さあ○ドリアさん、どう反応する?

 すると、彼はニヤリとした。


「ヌヒッ! もう解った。これから貴様の事はランディと呼ぶ。アルカディアも『四種の秘薬』の箱の秘密に気づいていたか」


 僕は、頭が悪いのかも知れない。

 あの人の話が、全く理解出来ません。


 しばらくテキトーに会話して、情報を引き出して、やっと解った。


 ムアミレプ王国名産の『四種の秘薬』を収納しているケースは、時を止めて保存が出来るスーパーマジックアイテムだって事だ。

 要するに、四種の秘薬ってのは、有効期限付きの回復ポーションって事だ。


「ヌハッ! ランディが用意した神の果実は、後に交渉するとして、今度はこちらの攻撃と行こう。ヌヒッ! アレを出せ!!」


 ドドリ○さんの掛け声とともに、鍋が出てきた。


 鍋にはお湯が張ってあり、弱火で温められていた。

 いかにも職人っぽい人が、切れ味の良さそうな包丁を持ち、刃先を睨んでいる。


 そして、出てきたのは肉の塊。

 器も沢山出てきて、タレと薬味が登場した。


 料理人は包丁を構え、スーっと肉を撫でた。

 撫でられた肉は、薄く2ミリ程度にスライスされて行く。



「なっ!?」


 まさか、これはしゃぶしゃぶ!? こんな石器時代(言い過ぎ)に毛が生えて、魔法と遺跡のアイテムが追加された程度の世界に、しゃぶしゃぶだと?


 薬味も、細かくきざまれたネギと磨り潰した胡麻、あともうひとつは一体何だ?


「ヌホッ!? ランディよ、初めて見る驚きではないな? この『ジャブジャブ』の完成度と技術力の高さに驚いてるとみた! ヌハッ! 相手にとって不足なしと言ったところか。ヌフッ! ならば説明しよう! 低温を維持する生活魔法使いで、肉を一時的に固くして切りやすくする。研ぎ澄まされた刃を使い、包丁の達人が、薄く薄く肉を切る。さらにはこの私が、食べ合わせ食べ合わせの繰り返しで編み出した、秘伝のタレと薬味。ヌハッ! さあ泣いて留学したいと言え!!」


 ドド○アさんの発言は、話し半分で聞くとして、目の前にあるしゃぶしゃぶを堪能した。


 ダナム、テスター、アーティス、テインは、目の色変えて食いついてる。

 目の前の肉を食べきると、瞳を輝かせて次の肉を待っている。


 その姿は、巣にいる雛鳥を連想してしまう。

 出来るだけ、恥ずかしくないようにしてね。


「ドド……ドリア様、大変素晴らしいです。このタレは醤油にグレープフルーツですか? さらにこれは、醤油、酢、レモン、胡麻? あと甘いお酒?」


 僕は3つあるタレのうち2つが、ポン酢に近い味わいだった。



「ヌハァ!? 余の秘伝タレが、殆ど看破されただとお!? ヌホォ……ランディは男爵だったな……子爵の地位を……いや、ランディが只の男爵な訳がないか……ヌハァ……何でもない」


 あれ? 今スカウトされそうになった?


 そのまま、○ドリアさんとしゃぶしゃぶについて語り合っていた。


「しかし、この灰汁取りに手間をかけるのが『ジャブジャブ』の欠点だな、只のお湯ではなく秘伝の出汁湯なのだから、勿体ない」


 付き人が、器用に浮き上がった灰汁を取り上げているが、出汁湯も一緒に掬っているもんな。



「ドリア様、少しお待ちを」


 僕は全力で走って、食欲魔馬の『ロシ』『アン』『サト』から、毛を頂いた。

 勿論、褒美としてニンジンを与えておいた。


 馬の毛を適量に分けて縛り上げ、消毒する。


「ドリア様、お待たせいたしました。これを見て下さい」


「ヌハァ? なんだそれは……な!?」


 僕は馬の毛を使って、きれいに灰汁とりをはじめた。


「これを、1つ差し上げます。素晴らしい食事を提供してくれたお礼です」

(でも、2個目からは買ってくださいね)


 ドドリ○さんは、受け取った灰汁取り器を自分で使って確認していた。


「ヌハァ! す、素晴らしい。ヌホォッ! 今解った、何故ターベールが男爵1人を血眼になって捜し、友好を求めたか…… ヌフゥ、しかしまだ神の使徒とはかぎらない」


 後半は、声が小さすぎて聞き取れなかったんですが?


「あのう、今なんて言いました?」


「ヌヒッ! 何でもないわ、いや、ランディ殿()の知恵を見込んで、力を貸してほしい」


 しゃぶしゃぶの後に出てきたのは、海苔で巻いたおにぎりだった。


「ヌハッ! これは、アルテシアンナの『マイス』と我が国の『ノリノリ』を使って共同開発した『ニギリ玉』だ! 中に好みの具材を入れ、手軽に作れ、食べれる庶民向けの一品にする予定だ」


 僕は1つおにぎりを頂く。

 具材は魚のほぐし身。

 米も海苔もこの世界には似合わない程に素晴らしかった。

 素晴らしかったのだが……

 等と思っていたら、僕の表情を読み取られた。


「ヌホッ! さすがランディ殿()、もう、この欠点に気づきましたか」


 そう言えば、ド○リアさんの言葉遣いが変わってきたような。


「ヌハッ! このニギリ玉は、上手く食べるには、ちょっとコツがいるのだ。ヌフッ! だがこれは庶民に向けた食べ物、食べやすくなくては、完成品とは言えない」


 この人、思ったよりまともな人だった。しかも出来る。


 これからは、ドリアさんに改めよう。

 そして、その欠点の解消法はある!


「ドリア様、厨房をお貸し下さい」



 ……5分後……



「お待たせ致しました。これがニギリ玉を改良したニギリ飯です」


 実際に握ってくれたのは、ここにいる料理人だけどね。

 だって、僕が握った握り飯より、美味しいんだもん。


 奥が深いね、握り飯。


 僕は海苔に細工をしただけ。


「ヌフッ! 見た目は変わらぬか……パリッ、ん!? パリッ……こ、これだ。ヌハッ! 余はこれを求めていたいたのだ!! ヌヒィ、となると、この御方は使徒? いやいや、まだ決めつけるの早い……ブツブツ」


 はい、海苔に無数の細かい穴を空けて、咬みきりやすくしました。


 ですが、ドリアさんの言葉がちょくちょく理解不能になるんですが?


「ヌホォ、ランディ()、失礼かと思いますが、1つ試させても良いですかな?」


 だんだんと呼び方が変わってきたような?



 ドリアさんと、聴き込みがてら食事をしながら、夜会は終了した。


さて、作者が思ったより、大臣はバカではなかったのですが、何を頼まれていたのでしょう。

答えは来週。

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