【104話】復路でのターベール王国
順調に帰れると思っていた復路は、順調じゃありませんでした。
アルテシアンナ国境を抜けて、ターベール王国領に入った。
特にやましいこともないので、開けた検問のある道を選んだ。
検問のない場所は、盗賊が出没する事もあるとか。
恐いよね。
そこで、僕の顔を見た瞬間、国境警備隊面々が騒がしくなって集まりだした。
なにこの『指名手配犯、見つけました』的なノリは。
この国で捕まるような悪事は、してない筈ですが?
心当たりを脳内検索していたら、偉そうな服を着た人が、やって来た。
「そなたは、アルカディア王国男爵家、ランディ・ライトグラム男爵殿で間違いないか?」
「あっ、はい、そうです」
何故か、身バレしてるんですが!?
ダナムやテスターが、疑いの眼差しで僕を睨んでる。
「なに? 僕が何かしたって、疑ってるの?」
「疑ってない、確信してるんだ」
「ああ、俺も信じてる。ランディがやらかしたってな」
つまんない事で、信頼が厚すぎる。
「コホン、ターベール王国宰相、ムニエル・フォン・ターベール様より、夜会への招待がライトグラム男爵殿宛てに発令されている。近くにある拠点『グランジャルダン』に来ていただきたい。それと、アルカディア国王殿から、託けの写しがある」
僕は『写し』と聞いて、僕の名前と似顔絵が国王公認で出回っている事を理解した。
あのおっさん……分けてやる米の分量減らしますよ? やれやれと思いつつも、書状の写しを見る。
『ランディよ。
ただの食事会らしいので、安心して行ってこい。
だが、やり過ぎるなよ。
ウィルソン・フォン・アルカディア』
食事会でやり過ぎるなって、言葉の意味が解らない件。
……
…………
このまま、ターベール隊に2日間連行されて、食の街グランジャルダンに到着した。
ターベールの方々から話を聞き集めていると、10を軽く超える関所で、僕を待ち構えていたらしい。
ただ、見つけた部隊は、その月の給金2倍って話てたから、似顔絵と特徴を毎日みて、暗記していたらしい。
この国に、目を付けられる事をした覚えは、ないんですがね。
豪華な舘に案内されて、その代表と挨拶をする。
先制攻撃!
「お招きありがとうございます。ぼ、私がランディ・ライトグラムです。あと3人の従者共々よろしくお願いします」
「わたしは、当館『グランシード』を預かる、ソダツ・マメマケバです。同じ男爵同士ですが、貴方は宰相様より招待された御方、召使いの様に扱ってください」
と、頭を下げられた。
ならば、返答は1つ。
「では、遠慮なくそうします。ただ、誰も見ていない所では、一般市民の兄貴の様に接しますが、異論はなしでお願いしますよ」
破顔するソダツさんに向かってニヤリとする。
「ああ、また悪いこと考えてる」
「テスター、俺も不安だ」
2人の信頼は別の意味で厚い。
「明日には『増食大臣』殿が、来ますので、夜会は翌日となりますが、今夜もしっかりとおもてなしをさせて頂きます」
破顔した顔が苦笑いになったソダツさんだった。
夜になると、果物がメインの食材が出てきた。
「料理人が真に腕を振るうのは、明日になりますので、今夜はターベール王国で採れた、数々の木の実を堪能して下さい」
ここには、ダナムやテスターは勿論の事、テインやアーティスまで参加して食べている。
果物は素晴らしい物ばかりだった。
そう、アルカディアと比べればの話だけど。
アルカディアの果実は、品種改良はおろか、土壌の管理すらやっていない。
それを考えれば、ターベール産の果実は素晴らしいのだろうが、日本の物と比べると……
ただ、見たな中で残念な果実があった。
それはキウイモドキだった。
見た目はキウイにそっくりだけど、実が赤みがかっていて、果肉は固く味も失敗したグレープフルーツに似ている。
キウイのつもりで食べたせいで、残念感はかなりの物だ。
だってあるでしょ? 牛乳を見ながら、牛乳のつもりでお茶を飲むと、すごい違和感で吹き出してしまう事って。
悔しげに、他の果実を漁っていたら、誰かと誰かが、もめていた。
「『アカキウイ』はここにあるだけなのか? 全く熟れてないじゃないか」
「しかし、この『アカキウイ』は収穫から熟成まで時間がかかります。まさかドリア様が急に来るなんて……」
赤い果肉のキウイでアカキウイかよっ!
異世界って気がしないんだけど?
しかも、熟成に時間を要するって、キウイと同じだな。
「ドリア様は気性の激しい御方……客人の前で『アカキウイ』を自慢して、これしかないと解ったら……」
「……ゴクリ、全員打ち首もあり得る、いや間違いなく無惨な死に方をする。 ああ出来れば苦しまずに死にたかった」
いや、そんなヤバイ方が居るのなら、保険で常に用意しておきましょうよ?
いや、しかし急に来るって、原因は僕だよね?
僕が招待されたから、『ドリア様』って人が来る事になったんだよね?
そんなんで、僕の目の前で惨殺事件なんて起こされたら、ばつが悪すぎるよ!
ふう、一肌脱ぎますか。
「あっ、すいません、僕がこのキウイ用意しましょうか? 果肉の色は違いますが、丁度良く熟成したのを持っていますから」
「なっ!? 本当ですか? さすがは宰相様が、手配するほどの御方…… 客人殿に甘えるのは、いささか抵抗はありますが、みなさんの命がかかっています。 情けない事ですが、持ってきて貰えないでしょうか?」
……
…………
例の馬車で、おなじみの呪文を使う。
「第5レベル呪文……クリエイトフードフリー」
(出よ! さぬきゴールド!!)
とりあえず、食べ頃を4種類に分けて、召喚した。
そして、今が食べ頃のキウイを篭に入れて、持っていった。
……
…………
「こ、これは……果肉が赤くない!? 」
「大きい……あっ、柔らかい食べ頃だ」
皮を剥いて一口ずつ食べてもらう。
「んんっ!? あ、甘い!! 甘すぎる」
「嘘だろ、完熟したアカキウイよりも、数倍美味いぞ!?」
そりゃあのレッドキウイモドキは、糖分と酸味が逆転してるからな。
「ライトグラム男爵様! この果物を本当に頂いてもいいのですか?」
「出来れば、この種子を貰いたいのですが、金額はいくらでしょうか? これならドリア様がいくらでも出しますよ」
「ドリア様ってのは、増食大臣でいいんですよね?」
頷く2人。
「ならば、その話は明日大臣殿としましょう。とりあえずこれは、僕から大臣への手土産としましょう」
……
…………
翌日の夕方、馬車に乗った団体様がご到着しました。
でも、屋敷に入るのは数人で、あとは町の宿屋へと消えていった。
そして、増食大臣と言われる男に会った。
「ヌハツ! 余が、ターベール王国増食大臣、ドリア・フォン・ターベールである!」
出てきた男は、推定体重120㎏ 、予想体脂肪率70%オーバーの、おデブちゃんだった。
増食大臣じゃなくて、食増し大臣だろ!
ここは、アルテシアンナ以上に食べ物があるんだろうな。
太りまくった大臣を見て、そう思った。
さあ、新キャラのドリア・フォン・ターベールは悪人なんでしょうか?
神罰転生って悪人っ少ない気がする。
ダナムのオヤジ
プリウス伯爵
ユーロガッポ公爵
野盗・盗賊
一部の学院生
あと……いたっけ?




