【102話】アルテシアンナ⑪
ドルイズ総指揮官率いる、ユーロガッポ軍は予想外の苦戦を強いられていた。
砦を乗り越えて敵陣に入る部隊には、殆ど被害がないのだが、攻城兵器で門を突き破るための部隊の大半は砦内に入った後、戻ってこない。
5人もいるドルイズの副官の内1人が、その中に入っていた。
「まさか、ここまで対応されるとは、流石はドルデルガー。優秀な人材を集めている」
「敵は、あと何れだけの兵力があるのでしょう?」
「どう見ても、100名を超えることはない筈なのだが……」
「ならば、あと一押しです。カワグワーの仇を取りましょう」
「ドルイズ様、急いで温存部隊で仕掛けましょう」
副官の意見を聞いて、ドルイズは立ち上がる。
「よし! 敵はかなり疲弊している筈だ。お前たちは予定通り兵の外側より攻撃! 私は、攻城兵器部隊に、残存兵力を再編成をして、一気に砦を叩く!! 一時間後に突撃する!」
ドルイズは万全を期すため、相手に時間の余裕を与えてしまった。
◆◇◆◇◆
敵軍が再び大規模な攻撃を始めてきた。
しかも、午前中の戦い方と同じと見せかけて、攻城兵器を持った部隊の突入パターンが違う。
兵力が随分と多いし、閉門防止の丸太まで用意してやがる。
この兵力差だと、砦内で乱戦になれば、こちらは全滅してしまうだろう。
あの呪文は出来れば使いたくないが、味方が全滅するなら出し惜しみなしだ。
まあ、追求されても惚けるし。
しかし、間に合うか?
門破壊用の丸太軍団は勢いが付いているし、この部隊を減らさないことには、この先の戦いが厳しい。
ならば、狙うはこっちだ。
「第1レベル呪文……リバース……ダークネス」
接近してきた閉門妨害用の丸太に、暗闇の呪文を掛けた。
突如真っ暗闇になったので、悲鳴や怒声が聞こえてくる。
「開門!!」
作戦通り、突撃部隊を迎え入れて返り討ちにする。
間髪入れずに、もう一部隊の妨害部隊の丸太に、暗闇の呪文を使おうとした時、キャンセルしきれなかったファイヤーボールが、僕の近くで炸裂した。
「ランディ!」
「大丈夫か!!」
ダナムとテスターが心配してくれるが、全く問題ない。
それより、罠として用意したアイテムが心配だ。
……よし大丈夫だ。
「かすり傷程度だ。それより行くぞ!」
塀の上から、ダナム、テスターと僕の連携で、網を投擲する。
「肉体強化ぁ! テスター!」
「おおっ。ふんっ!!」
重りは四隅だけだから、連携さえ上手く行けば、綺麗に敵を網で覆うことが出来る。
結果、敵の密集してる場所に網を投げられた。
これで、20秒くらい行動不能にさえすれば、形勢は一気にこっちの物になる。
「ファイヤーボール」
「ファイヤーボール!」
「ファイヤーボール!!」
「キャンセル」
「キャンセル!」
「ギャフン!!」
攻撃魔法使いと思われる敵兵に、マジックストーンをぶちこんだ。
どうやら正解だった様だ。
だが、ほっとしてる場合じゃない。
僕が、ファイヤーボールを喰らったせいで、丸太軍団の対処がギリギリだ。
「第1レベル呪文……リバース……ダークネス」
閉門防止策の丸太が暗闇に覆われたが、暗闇が門に向かって進んで行く。
「止まらな、い?」
「うわぁぁぁぁぁっ!」
「暗闇がなんぼのもんじゃい、進めぇ」
「み、見えないっ!!」
「黒い煙ならいずれ晴れる! 突進!!」
「ふぬー! ヤケクソだぁ!」
こ、これは……戦争の高揚感が暗闇の恐怖を凌駕したのか?
「閉門! へいもぉぉん!!」
ダメだ……丸太が邪魔して、門を閉じるのは無理だろう。
「ダナム、テスター、作戦は失敗だ。2人には閉じきれない門の前で戦ってくれ、全力でたのむ」
「ランディ、俺様はお前に従う。あの日からお前の強さは俺様の正義になった」
「俺はダナムみたいに盲信しないが、了解した。だが、そんなに持たないぞ」
2人も厳しい戦いに突入したと実感しているようだ。
「そうだな……5分くらい待ってくれ。もし間に合わなかったり、門が開きすぎたりしたら、後衛に行ってくれ。第3レベル呪文……ゴージャスブレス。あの黒い煙は僕が消そう、消えたら戦闘開始のサインだ」
「おう!」
「わかった」
黒い煙ネタは、敵兵の叫び声から頂きました。
僕は、塀の上から暗闇に向かって飛び降りた。
「第1レベル呪文……ライト」
暗闇を打ち消して、辺りを見回す。
狙いは、1人捕らえた指揮官と同じ地位の奴。
見たかんじ、力は一般兵より気持ち強い程度だったから、僕の狙いは上手く行くはず。
………………見つけた。
少し距離があるけど、余裕で射程けんないだ。
「神速、第2レベル呪文……オグルパワー」
今、僕に掛かっている呪文は『ゴージャスブレス』『オグルパワー』『プロテクションノーマルミサイル』なるべく無駄遣いは避けたいが、それで不利になったら元も子もない。
敵の指揮官に向かって、全力で進む。
ついでに、すれ違う敵兵の喉元を突きながら走る。
全力疾走だから、命中率は3割程度だった。
「な、なんだ? この速度は、おい指揮が疎かになる、早く殺れ!! 」
遅いよ、敵兵をすり抜け馬上の指揮官を叩き落とす。
止めを刺すには一寸時間が足りなそうだ。
ならば、怯んだ隙に呪文を使う。
「第1レベル呪文……コーズフィアー」
そして、緊急離脱する。
「神速!」
これで、普通に使える神速は使いきった。
「うわぁぁぁぁぁ!! やめろっ! 来るなぁ、来るなぁっ!! ひぎゃぁぁぁぁぁ……」
恐怖を与える呪文は成功した様だ。
よい夢を見て下さいませ。
ダナムとテスターは、1メートルほど開いた門を守り通している。
肉体強化魔法を全開で使っているんだろう、圧倒的不利な人数相手に、善戦している。
「こいつらは、弓矢の効かない不思議な罠を使ってる。直接行けぇ!!」
その判断は正しいけど、ちょっと遅いな。
ダナムも僕がやって来るのを見たせいか『肉を切らせて骨を断つ』戦い方をしだした。
リッツ教官を除けば、ダナムが一番僕を理解してる気がする。
第一印象最悪だったのにね。
「待たせた、グランヒーリング」
「ランディ早かったな」
「ああ、5分も経ったか?」
まあ、3分ちょいだろうね。
1度目の乱戦や突進して敵兵に触れて判ったけど、この軍隊は数だけだ。
強そうな兵も少しはいたけど、軍隊としての訓練がされていない。
傭兵か実戦を殆ど経験していない兵が目立ってたからな。
こうして、背中に回復手段を得た、ダナムとテスターは、一番の功績を上げることになった。
敵は一旦退いた。
2回目の乱戦も圧倒的勝利で終わったが、こちらの被害も10人を超えてしまった。
相手は20倍近い被害を出しているが、まだ800人近い兵力がある。
相変わらず絶望的な兵力差だ。
不思議な事に、敵は夜襲は仕掛けなかった。
僕だったら、200人くらい使って嫌がらせをするんだけど。
もしかしたら、夜襲は駄目って独特の常識があるのかもしれない。
シドさんに聞いてみたけど、夜襲はしないのが常識だけど、例がない訳でもないって話だ。
おかげ様で、僕は呪文を再取得できるほどの休息が取れた。
翌朝、塀の上に登ると、どう見ても敵の兵力が減っていた。
ざっと見渡しても300は減っている。
確かに種は蒔いたけど、実りが異常過ぎる。
何があったんだ?
投擲網は、ランディのクリエイトアイテムで出しました。
切断しにくい蔓を用いて作られています。
それでもハサミならば用意に切断できます。
この世界の剣も、西洋剣と同じく叩き切る。
ような剣となっています。




